文明回帰への一歩 ⑩
「これは、キープか」
手にした翼の骨を野球のバットよろしく、ぶん、と振ってみる。
心持ち太すぎる気はするが、俺の身長と同じくらい長さがある、ほぼ真っ直ぐな骨は、打撃武器として使えそうではあるな。
中身も密度が詰まっていて硬そうだし、これを持ってジャンプすれば、昨日のように、10メートル弱の高さの枝に居座る触覚ヘビへの、直接攻撃手段になるんじゃないだろうか。
丸太は持ったか!? ってやつだ。
元ネタ、知らんけど。
尻尾の先まで、ぐるっと廻って頭蓋骨のところへと戻ってきた。
肉食恐竜のような整然と並んだ鋭い牙の連なり。
黒トカゲよりも小さな個体だが、空虚な眼窩がぽっかりと空いたその頭骨は、公道走行用のミニカーほどもある。
生物の寿命は脳の大きさに比例する、と、聞いたことがある。
ならば、ドラゴンという生物は、相当なご長寿なのではないだろうか。
ワニに似た長い鼻先と、頑丈そうな顎。
頬骨下の窪みは、顎の筋肉が収まる場所なのだろう。
筋肉量から考えて、ワニと同じく、噛み付く力も相当な剛力であることが察せられる。
頭骨そのものが頑丈そうだから、側頭部や眉間を殴っても効きそうに無いもんな。
ワニに限ったことではないが、四足動物は腹が弱点であることが多い。
四肢の長さから、四つ足で這った場合の腹下の地上高を想像してみる。
腹下へ潜り込んで、アッパーカット・・・?
「うーん・・・。違うな」
高さが足りないように思う。
自分まで、しゃがんでのアッパー?
”ガゼルパンチ”なんて、フルスイングで拳を振り抜くよりも力が入らないのだから効くわけがない。
「ガゼルパンチ」ってのは某ヘビー級世界チャンピオンのプロボクサーが編み出して、某ボクシングマンガで有名になったヤツだが、あんなもん、相手が人間だから通用するんだ。
ドラゴン相手に通用するとは1ミリも思えねえ。
生物全般的に弱点とされるのは、喉。
正確に言えば、顎下の柔らかい部分から、気管だな。
軍隊式格闘術の中には、やや立た中指を固く握った拳で気管を殴り潰す、殺人打撃技術があったはずだ。
固い顎骨の内側に守られて、舌の筋肉が詰まっているので、顎下は効く。
気管を潰せれば、致命傷。
その高さに手が届けば、だけどな。
「こう、か?」
噛み付きに来たところをサイドステップで躱して、横から顎下へアッパー。
徹底的に躱して、アッパーを叩き込んで弱らせる。
「これなら、イケるか?」
殺すのが目的ではないから、致命傷を与えるのは不味い。
俺が鍛えるべきは、瞬発力と、反応速度と、打撃力だな。
頭上から落ちてくる蛇で試してみよう。
「お? 何コレ」
肋骨の内側、下草に埋もれた胸骨の少し尻尾側に、深く澄んだ蒼色の石が落ちている。
ラグビーボールを平たく押し潰したような石は、乾いた泥がこびりついて汚れているものの、不思議と存在感がある。
パワーストーン、と、聞くと、胡散臭いとしか思わなかったが、この石を指してパワーストーン言われたら、納得してしまうことだろう。
骸を荒らす気は無かったのだが、ヒナへのお土産に失敬させていただこうと考え直した。
死ぬほどの思いをして、これからも死ぬほどの思いをするのだろうから、手土産ぐらいは貰っても良いだろう。
削って加工して宝飾品にでもすれば、すごく綺麗な石になると思う。
両手を合わせて、ドラゴンさんのご冥福をお祈りする。
文明回帰⑩です。
綺麗な石?
次回、新たな敵!?




