転生者 ⑩
「・・・また神教会―――、いいえ。西方諸国のヒト族ですか」
「そうだね。人を人とも思わない連中に魔法道具を与えたのが間違いだった」
嬢ちゃんが提示した推察に暗い表情のレイクスが頷く。
ヒト族に国が滅ぼされたのはコイツが生まれる前の話だと聞いたはずだが、あの郷の連中だからな。
レイクスは年長者たちの後悔や恨み言を聞かされて育ったんだろう。
俺が滞在している間も、郷の連中はなかなか心を開いちゃくれなかった。
ケイナに対する処分だけじゃなく、連中が心を開かねえことも有って、あまりにも気にくわねえから八つ当たりついでに大猿どもを始末しに行ったんだ。
郷を追い詰めていた大猿どもを俺とケイナの2人で駆逐しきったことが、相当、衝撃的だったらしくて、そこから郷の連中の態度がずいぶんと軟化したんだが、それでも俺を避けるヤツは何人も居た。
郷の連中が悪いわけじゃねえ。
俺と出会う前に積み上げられていた悪意の歴史がそうさせたんだ。
郷の連中が向けてきた恐れと憎しみを含んだ目を見れば、エルフ族のヒト族に対する嫌悪は根深いものだと理解せざるを得なかった。
まあ、その上でさらに踏み込んで行ったんだけどな。
「・・・奴隷制ですね」
「うん。エルフ族には奴隷を用いる文化は無かったからね。まさか、人攫いの道具として使われるとは思わなかったそうだよ」
怒りを滲ませる嬢ちゃんの声にレイクスが肯定を返した。
エルフ族が苦境に追い込まれる原因を作った魔法道具の1つが、あの“奴隷環”か。
そりゃあ、温厚なレイクスでさえ嫌悪感を顕わにするわけだ。
「人でなしのクズどもめ。度し難い奴らだ」
「・・・ほんとにね」
目を怒らせた前伯爵が吐き捨てる。
同じ思いを抱くヒト族の存在に安心を覚えたのか、1つ息を吐いて負の感情を呑み込んだらしいレイクスが、普段の調子を取り戻す。
嬢ちゃんたちに向けて柔らかく目を細めた。
「刻印術式を学びたいなら教えてあげても良いけど、どうしよっかな?」
「・・・ゴーレムの作り方でどうですか? ケイナちゃんにも精霊魔法を教えて貰ったお礼に“魔力の手”を教えます」
ほう。バーターで技術を開示し合おうってのか。
悪くない手だな。
この嬢ちゃんがどこまで知恵を巡らせて居やがるのかは読み切れねえが、対等な立場だと取引で示すことは、拗れた関係性を再構築し直す第1歩として呑み込みやすい。
レイクスも異論を示さず頷いている。
嬢ちゃんが対価に差し出した「魔力の手」ってのが何を指すのかは知らねえが、レイクスの反応を見る限り悪くねえ取引条件と考えているようだ。
「魔力の手、ですか?」
「・・・ケイナちゃんは魔法術師だよね? 自分の身を守る手段は必要だろうし」
自衛手段? こいつはアレじゃねえの?
恐らく、鹿の首をへし折ったアレのことだ。
レイクスは魔素が視覚的に見える特別な目を持っている。
嬢ちゃんは目には見えねえ何らかの手段を用いていたんだろうってことは推察していたが、何度かレイクスの様子がおかしかったことと合わせて考えれば、辻褄が合う。
目に見えねえ魔法的な攻撃手段か・・・。
そういや、この嬢ちゃんは森で宙に浮いていたし、森から出た後も獲物を宙に浮かせたまま運んでいた。
アレも同じ手段を用いたものだと考えれば説明が付きそうだ。
嬢ちゃん自身が常用しているものをケイナにも教えようってんだから、奮発したんだろう。
あの魔法を使うのに、外見的に判別できる呪文や身振りは必要なさそうだしな。
体格が小柄なケイナにとっては悪くねえな。
実際には、意外とケイナは力持ちなんだが、体格差ってのは厳然たるハンディキャップになる。
体格のデケえ相手から身を守らなきゃならねえときに有効だろう。
チラリと目を向けてきたケイナに小さく頷き返してやれば、安心したように表情を緩めたケイナが、ようやく嬢ちゃんに答えを返す。
「良いんですか?」
「・・・テレサにも教えるから、2人で頑張って覚えると良いよ」
嬢ちゃんがケイナにニコリと笑い返す。
テレサってのはこの国の王女の名前だったな。
つまり、王都へ戻った際にケイナと王女の間で共通の話題として使えってことだ。
共通の話題ってもんは距離感を縮める。
王女との親しい関係は貴族連中からの干渉に対する防波堤に成り得るしな。
この嬢ちゃんは友人として本気でケイナを守ろうとしているわけだ。
嬢ちゃんの気遣いに気付いたのかケイナも嬉しそうにしている。
良好な関係を築きつつある妹たちのやり取りを、魔素が目に見えるレイクスが複雑そうな表情で見ている。
「ええ・・・? ケイナも“あんなの”出すの?」
「・・・見た目が悪いのと、ケイナちゃんが無事に帰ってくるの、どちらが良いですか?」
へぇ。レイクスの嫌がりようと、「見た目が悪い」と言い切る嬢ちゃんの態度に、その「魔力の手」ってヤツがどんなものか俺も気になって来ちまうじゃねえか。
幼い女児に言い負かされたレイクスが不承不承ながらに答える。
「そりゃあ、無事に帰ってくる方が良いけど・・・」
「・・・どうせ、目には見えませんよ?」
嬢ちゃんの追撃にピタリと動きを止めたレイクスが、数瞬の思考の末に納得顔で頷いた。
「それもそうだね」
良いのかよ。
ずいぶんアッサリと受け入れたな。
さらに嬢ちゃんが取引条件を詰めに掛かる。
転生者⑩です。
良好な関係!
次回、桁違い!?
※ 大遅刻です!
ごめんなさい!




