転生者 ⑦
「精霊術式って、どうやって使うものなの?」
「精霊にお願いするだけですよ。気持ちが通じ合っている子たちなら力を貸してくれます」
「ほえ~。わたしも頑張ってみるわ!」
ケイナの答えに、金髪の嬢ちゃんがニッと笑って頷き返した。
この嬢ちゃんはこの嬢ちゃんで、根が明るいんだろう。
表面上は大人しそうに見える銀髪の嬢ちゃんとは対照的に活発そうな印象が強い。
かと言って、ズケズケと前へ出てきたがるような行動を取っている姿は見ていねえし、年のわりにしっかりと周りが見えている感じだ。
むしろ、銀髪頭の方が見た目を裏切って前へ出て来る感じだから、金銀2人でバランスが取れてるのかもな。
この2人の間に慎重な性格で先頭に立って引っ張っていくタイプではないケイナが雑じったとして、どうだ?
バランスはそれほど悪くないように思える。
ズズッと洟を啜った銀髪の嬢ちゃんが袖口でグイッと涙を拭って復帰する。
娘たちの姿を見守っていた前伯爵が安心した様子で息を吐く。
気持ちを切り替えたらしい前伯爵の目が俺たちへ向いた。
「ふむ・・・。魔獣の血を飲めば体内の魔力が活性化するだろう? あの現象に付いて何か知っているか?」
「あれはテツが見出したもので、つい先日まで僕らも知らなかったんだよ」
レイクスの回答に前伯爵の視線が俺に固定される。
「テツ殿が?」
「水がなくてな。喉の渇きに耐えかねて、襲って来た触角ヘビの血を飲んだんだ」
一時はどうなることかと胆を冷やしたし、今思い出してもロクでもねえ嫌な記憶だ。
「水がない、とは?」
意味が伝わらなかったようで前伯爵が首を傾げる。
森から出て気付いたんだが、こっちの多くの人間は、コップ1杯分の飲み水を生み出す程度の簡単な魔法なら使えるし、森に近い土地では少し穴を掘れば水が湧き出すものだと考えている節が有る。
基礎的な考え方が違うのだから意見を戦わせても無駄骨だろう。
「娘に代わって穴へ落っこちた俺が黒トカゲを追う形でこっちの世界へ来たとき、穴から出た場所が空の上でな。黒トカゲと一緒に墜落した場所が森のかなり奥だったんだよ」
「空の上って?」
平行線の議論を避けて通れば、今度は金髪の嬢ちゃんが首を傾げた。
「超高空―――、空に雲が浮いてるだろ? アレの遙か上空だ」
「・・・大気境界層の上層―――、旅客機が飛ぶような高度かな?」
完全復活したらしい銀髪の嬢ちゃんに頷き返す。
「風が強くてな。空が暗くて星が見えたから、もうちょっと上かも知れねえ」
「星が見えた、というのは?」
超高高度なんてものを知らないだろう前伯爵が問い返してくる。
どう説明したもんかと頭を捻り掛けたら、銀髪の嬢ちゃんが説明を買って出た。
「・・・宇宙―――、空の星の世界に近い高空で、そんな高さだと昼間でも星空が見えるんだよ。よく生きてたね」
驚いた顔を向けてくる銀髪の嬢ちゃんに深く頷き返す。
あの大変さを分かってくれるヤツが1人居るだけで救われるもんだな。
不覚にも、親切顔で下心を隠した優男に悩み事を聞いて貰っただけで惚れちまうチョロい女の気持ちが理解できちまった。
「マジで死ぬかと思ったぞ。先に穴から逃げ出した黒トカゲが下を飛んでやがったから、空中で黒トカゲの背中に取り付いてやったんだ」
「・・・飛んでるドラゴンの背中に飛び乗って墜落させたんだ? メチャクチャだね」
呆れ顔で銀髪の嬢ちゃんがヤレヤレと首を振る。
「生きるか死ぬかだぞ? 生き残るためなら空飛ぶトカゲにだって乗るに決まってんだろ」
「・・・そりゃそうか」
ヨシ。分かりゃあ良いんだ。
納得顔でウンウンと頷いている嬢ちゃんを放って置いて、前伯爵が俺に目を向け直してくる。
「“穴”というのは? チキュウ世界に空いた穴のことか?」
「ああ。真っ暗なトンネル―――、デカい筒状の穴を落ちてきた先に明かりが見えてな。その穴を抜けたら空の上だった」
あんな形状のものは“虫食い穴”って言うんだったか。
落下速度が速すぎて穴に壁が何で出来ているかも観察する余裕は無かったな。
ただ、土やらコンクリートやら、何となくでも質感が分かるような壁ではなかったように思う。
「世界と世界を隔てる壁―――、境界に穴を空けたのか?」
「世界とは空間だろう? 空間と空間を繋いだのなら闇術式だと思うよ」
思案顔の前伯爵にレイクスが答える。
へぇ。アレが闇魔法か。
母親と同じように思案顔になっている銀髪の嬢ちゃんが呟きを漏らす。
「・・・闇魔法って、やっぱり空間に作用するんだ」
「やっぱり?」
首を傾げるレイクスに見せるように、前伯爵が上向けにした手のひらの上に真っ黒い球を生み出して浮かべる。
野営時にケイナが出してくれる光の球の色違いって感じだな。
何もねえ空間にポッカリと穴が空いたように、質感のない黒い球に見える。
「神教会はどうか分からんが、事実上、ヒト族は闇術式を喪失している。あらゆる術式を学んできたと自負している私でも、闇術式は精々がこの程度だ」
「ふぅん・・・。確かに闇の属性は帯びてるけど、性質が全く定義されていないように見えるね」
忌々しそうに言う前伯爵に、真っ黒な球に目を凝らしたレイクスが答える。
そのレイクスに前伯爵が目を向け直した。
転生者⑦です。
闇魔法!
次回、召喚魔法!?




