ディール ㉑
「体液を入手してるってことは倒したんだよな。どうやって倒したんだ?」
「・・・そこは取引だね。教えても良いけど、私も教えて欲しい魔法が有るし」
手段を訊いてみれば即座に銀髪の嬢ちゃんが交換条件を提示してくる。
タダでは転ばねえタイプか。
どうやら見た目と違って図太い性格らしい。
「“教え合い”と言っていたヤツだよね? ふぅん。面白そうだ」
半分椅子に埋もれているような女児と2人で笑顔で睨み合っていると、レイクスも笑顔で乗っかってくる。
ここで飛んで火に入るケイナが呟きを漏らした。
「砂糖、ですか・・・」
「・・・果物よりも甘いお菓子が作れるよ?」
「果物よりも甘いお菓子・・・!」
あ~あ。引っ掛かっちまった。
同席している前伯爵以外の女性陣も揃って頷いてやがる。
まあ良いや。大人も子供も関係なく、甘いものに女が弱いのは全世界共通ってことだろう。
ケイナが期待してるなら、期待に応えてやるしかねえ。
場の空気が前向きな方向でまとまったと見たらしいドネルクが話題を戻す。
「王国への技術の提供という条件はどうする?」
「・・・まさか、タダで寄越せ、なんて1国の王様が言いませんよね?」
具体的な魔法道具のサンプルが完成した時点で俺がするつもりだった交渉事を、嬢ちゃんが俺に代わってドネルクに突き付けた。
バカにすんな、と言わんばかりの嫌そうな表情で、ドネルクがパタパタと蝿を追い払いように手のひらを振る。
「言うわけが無いだろう。適正な対価で買い取る」
「・・・ウォーレス領を間に挟んで魔法道具を冒険者ギルドか王宮へ納品すれば良いじゃないですか。何なら、ウォーレス家の紋章を付ければ良いんです」
提示された具体案にドネルクが思案顔になる。
「ふむ・・・」
嬢ちゃんの提案に前伯爵も思案顔で唸っている。
へぇ。この嬢ちゃん。国からも自分の家からも俺たちを守ってバランスを取ろうってのか。
俺たち自身が矢面に立たなくて済む取引形態は、目立ちたくないエルフ族にとっての大きなメリットになる。
反社会的組織がバックに付くような“ケツ持ち”の形じゃなく、一般的な商取引でよく有る製造元と販売元の関係を作ろうってわけだ。
販売元は商取引に介在することで利益を得るわけだが、製造元は利益が減る分、販売業務や雑事に煩わされなくなるメリットが有る。
神教会という脅威に対抗する力がないエルフ族にとって、雑事―――、“脅威への対処”を引き受けて貰える状況は願ってもないものだ。
レイクスたちは満足そうに目を細めているんだが、嬢ちゃんはまだ止まらねえ。
「・・・レイクスさんたちの協力が得られれば王都騎士団が要望していた魔法道具の複製品も作れるようになるでしょうし、以前から複製の依頼が有ったことは王宮内でも知られていますよね? 魔法道具の研究について、私が報奨で国王陛下からお許しを得たことは多くの貴族家当主が自身の目で見届けたわけですし」
ほう。騎士団の要望?
嬢ちゃんは売り込みを続けているだけじゃなく、他の案件にも決着を付けようとしているわけか。
魔法道具の複製ねぇ?
その決着にレイクスたちの手を借りることで、ウォーレス家と俺たちと騎士団に等しく利益を分配しようってんだな。
ドネルクの表情にも納得の色が広がっているが、ドネルクも追及の手を緩めない。
「あの件も有ったな。で? 紋章を使わせてまでウォーレス家を間に挟む理由は?」
「・・・製造方法や製造者を教えろ、なんてウォーレス家に訊くんですか?」
嬢ちゃんがコテリと首を傾げる。
可愛らしい仕草に見えるが、言っていることはなかなかに強引だな。
この嬢ちゃん、マジで面白えわ。
“王国最強”の看板を盾に強行突破しようってんだから、思惑を聞いたドネルクも納得顔で笑みを零す。
「それも“煙幕”か。訊ける度胸が有る貴族家も商人も居ないだろうな」
「・・・国王陛下も“知らない”の一点張りで構いませんし、テツさんたちが王都の拠点で製造した魔法道具は冒険者ギルドへ納品すれば良いんです。すぐ裏手なんですよね?」
標的を変えて話を振ってきた嬢ちゃんに頷き返す。
「裏口の斜め向かいだな」
「・・・納品者の名前だけ帳簿上でウォーレス領にすれば、製造者の顔も名前も表からは見えませんよ」
「見られたとしても、惚ければ良いんだな?」
商取引の形態を理解しているか? と再確認するような口調の嬢ちゃんに、俺からも確認を返す。
嬢ちゃんの答えは明快だ。
「・・・ウォーレス領から納品を請け負った、で良いんじゃないですか?」
「そりゃあ助かる」
うるせえ連中の相手は全部引き受けてやる、と。
チラリと横目で窺えば、レイクスたちも頷いていた。
ディール㉑です。
取引形態!
次回、行き着く先!?




