ディール ⑱
「・・・レティアの町にも拠点を構えてください。出来ることなら、レティアでも領主館の隣か裏手か、すぐ傍が安全でしょう」
「土地なら私が手配してやる」
嬢ちゃんの要求に、俺が答えるよりも早く前伯爵が手助けを申し出る。
「そりゃあ構わねえんだが・・・」
エレえ前向きだな。
前向きすぎて何が裏が有るのかと勘繰っちまう。
普通に考えりゃあ、「思い付き」と称する子供の提案に親が精査もせず乗っかるのは問題と思うんだが、その親自身が俺たちの抱え込みを考えていて、子供の提案は親の意向に沿ったものだからな。
しかも、親は即断で「出来る」と答えられる権力者だ。
この母娘が“敵”に回ることはねえだろう、という確信は持っちゃいるが、意図を訊いてみるまでは判断できねえな。
「・・・レティアに構えた拠点を登録上の本拠地として、王都の拠点は予備のものと冒険者ギルドに登録してください」
「そっちは俺が手配しよう。だが、なぜだ?」
今度はドネルクが即答して、確たるプランを持っている様子で嬢ちゃんが返す。
「・・・ウォーレス領を煙幕とするためです」
「煙幕? いや。隠れ蓑か」
こっちの世界の人間でも分かりやすいように、わざわざ言い換えたのだろうことは察せられる。
俺の解釈に嬢ちゃんが深く頷く。
「・・・テツさんたちは冒険者ギルドの仕事を請けにウォーレス領から来ただけで、国王陛下はテツさんたちのことを知りません。そこへ神教会から何らかの要求が来たとしましょう。国王陛下は、“知らない”と答えますよね?」
「そうなるだろうな」
嬢ちゃんの問いにドネルクが頷く。
こいつは仮定の話。想定問答だな。
ドネルクの答えに嬢ちゃんが質問を続ける。
「・・・正規の手続きでは、その後、陛下はどうされますか?」
「正規の、か。先ずは王宮の官吏に確認して、官吏も知らなければ王宮を通じて冒険者ギルドに問い合わせることになるだろう」
仮定の話にドネルクも大真面目に答えている。
この嬢ちゃんも大したもんだが、子供の言うことだと頭ごなしに馬鹿にせず、まともに向き合うドネルクも大したもんだ。
こういった正しい大人の対応にドネルクの人格が出ている。
ドネルクの答えを吟味した様子で嬢ちゃんが次の問いを投げ掛ける。
「・・・その時点でも、数日程度は確認に時間が掛かるのではないですか? その上で、冒険者ギルドは何と回答するのでしょう」
「ウォーレス領の冒険者だからよく知らん、だな」
嬢ちゃんの意図を察したらしいドネルクがニヤリと笑った。
ははぁん? この嬢ちゃんはタライ回しにして煙に巻こうってんだな。
前伯爵も嬢ちゃんの意図を察したようだ。
「・・・そこから片道に数日間掛けてウォーレス領へ問い合わせたとしましょう。ウォーレス領は何と答えますか?」
「よく知らんなあ、か」
面白そうに口元をニヤけさせている母親の答えに、嬢ちゃんもニコリと笑い返す。
「・・・ダラダラトロトロと何度も王都とのやり取りをしている内に、数ヶ月間やその程度の月日は過ぎますよね。冒険者は仕事であちこちへ向かうものでしょうし、確認が取れなくても普通でしょう」
「調べてみたが拠点に誰もいなかった、と答えるもの有りだな」
前伯爵の軽口に頷いてから、表情を引き締め直した嬢ちゃんがドネルクへ視線を戻す。
「・・・即答さえ避けられれば、何とでも答えられますよ」
「直接、ウォーレス領へ調べに来るんじゃないか?」
作戦を精査し直しているのか、天井へ視線を彷徨わせながらドネルクが首を傾げた。
その疑念を予想していたのだろう嬢ちゃんが失笑する。
「・・・神教会の人間がですか? ただでさえウォーレス領で神教会は嫌われていたのですが、今のウォーレス領もピーシス領も、西部地域からの移住民や旧エクラーダ王国からの難民だらけなのですよ。神教会勢力に故郷を奪われた人たちですから、みんな神教会が大嫌いです」
随分と挑発的な答えだが、神教会勢力の支配地域から遠く離れたこっちの領地でも、かなりの影響が有ったっぽいな。
あんまり表情は変わらねえのに、嬢ちゃんの目には隠し切れていねえ怒りの熱が表れてやがる。
いや・・・。何か特別な事情でも有りそうか?
単純に“怒り”と表現できるもんじゃねえな。
単純に“憎悪”と表現できるものでも無さそうだし、何だ? この感じは。
飄々とした感じも有る嬢ちゃんだと思っていたが、複雑なもんを抱えていそうだな。
思い詰めてるって感じでもねえんだが、断固とした決意―――、違うな。覚悟のようなものは見て取れる。
「そうだな。神教会関係者だと知られれば、命の保証は出来ん」
強気に言い放った嬢ちゃんに前伯爵も同調する。
西部地域ってのは内戦で戦場になった地域か。
その地域からも他国からも難民が押し寄せて、その難民を受け入れてるってことだよな?
内戦の裏にも神教会が絡んでたってことか。
神教会勢力による侵略行為や裏工作で反感が高まっているところへ入っちゃ来られねえだろ、って理屈は分かるんだが、そんなに簡単なもんか?
「しかし、間諜を送り込んでくる可能性が高いんじゃないか?」
ドネルクも同じ懸念を持ったようで思案顔になっている。
それでも嬢ちゃんは揺らぐ様子を見せねえ。
何だ? この自信は。
ディール⑱です。
想定問答!?
次回、諜報戦!?




