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オジサンはお家に帰りたい ~ 粉砕!! 異世界迷子オジサン  作者: 一 二三


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ディール ⑰

「黒トカゲが顎を開いていて娘が食われる寸前でな。手近に有った電光看板―――、人間1人ほど大きさがある看板を黒トカゲの目ん玉に投げ付けたんだ。そうしたら痛そうに鳴いて頭を引っ込めやがったんだが、腰を抜かしていた娘が穴に落っこちちまってな」

 ギリッと奥歯を噛む。


 あのとき、ヒナを1人で待たせるんじゃなく郵便ポストまで連れて行ってりゃあ。

 あのとき、あと一瞬だけでも早く気付いて居りゃあ。

 あと少しだけでも俺の足が速けりゃあ。


 後悔しても意味がねえことは分かってる。

 分かっちゃ居ても後悔が頭の中を埋め尽くそうとする。

 俺を現実へ引き戻したのは、心配そうな銀髪の嬢ちゃんの声だった。


「・・・娘さんを助ける代わりにテツさんが落っこちたの?」

「そういうこった」

 恐らくヒナは擦り傷と打撲程度で済んだはずだ。

 社宅の近所まで帰っていたし、あそこから家へ帰るのに迷子になることはねえだろう。


 あのとき俺は「社長のところへ行け」とヒナに言った。

 社宅は会社の敷地内だからな。

 素直なヒナなら社長のところへ行くはずだ。


 社長は俺の兄貴みてえなもんだ。

 社長なら、必ず俺が帰るまでヒナを守ってくれるだろう。

 だからと言って、“俺がくたばっても問題ない”とはならない。


 ヒナが十分大人に成長してから俺がくたばるのなら兎も角、ヒナにはまだ俺が必要だ。

 ただでさえカナの病死でヒナの心には母親を亡くした傷が刻まれちまっている。

 絶対に俺はヒナの下へ帰らなきゃならねえんだ。


 そのためなら、俺は何でも利用するし、どんな障害も乗り越える。

 その障害物が巨大な異世界生命体でもだ。

 子供が無事だと聞いたことが理由か、前伯爵が肩の力を抜いた。


「チキュウ世界へ帰る方法は分かっているのか?」

「そんなもん、黒トカゲを締め上げて、もう1度、穴を空けさせりゃ良いじゃねえか」

 声の調子から険が取れた前伯爵の問いに言い切る。


 腹ん中に溜め込んできたもんを吐き出したら、少しだけ胸の支えがマシになったな。

 まだ、やれる。

 まだ、耐えられる。

 まだ、俺は前へ進める。


「早く娘の元へ帰ってやらねばならんな」

「それが本当に可能かどうかは別として、だがな」

 気遣いが感じられる前伯爵の答えに苦笑で答える。


 「もう1度、穴を空けさせる」とは言ったものの、黒トカゲを取っ捕まえる瞬間までは、どうにもならねえ“可否の可能性”は残り続ける。

 世界の壁を越えるためのトンネルを再び空けられる可否。

 そして、コミュニケーションの可否だ。


 実績が有る以上、穴に関しては再び空けられる可能性が極めて高い。

 ケイナんちの爺さんが掛けてくれた翻訳魔法が有るからな。

 黒トカゲとの会話も可能だと信じるしかねえ。


「・・・うーん?」

 何やら考え込んでいた銀髪の嬢ちゃんが首を傾げる。

 何か喋るのかと視線を向けたが、まだシンキングタイムから帰って来た様子はねえな。

 この嬢ちゃん、いつもこんな感じか?

 テーブルに着いている全員の視線を集めていた嬢ちゃんが、不意にパチパチと瞬いた。


「考えは纏まったか?」

「・・・あっ。はい。・・・もしかして、みんな私を待ってたの?」

 呆れの色を含んだ声を前伯爵が掛ければ、注目を集めている状況に気付いのか、返事をした嬢ちゃんの白皙がみるみる内に真っ赤に染まった。


「何か思い付いたのだろう? 構わんから言ってみろ」

「・・・ああ・・・。は、はい」

 容赦ない母親の催促に、俯いて小さくなっていた嬢ちゃんが俺を上目遣いに見て来る。


「・・・テツさんたちって、王都に拠点を構えてるんですよね?」

「ああ。冒険者ギルドの直ぐ裏手にな」

 平然を装って嬢ちゃんの質問に答える。


 住所だぞ。住所。

 まだ手に入れたばかりでロクに使っちゃいねえんだが、住所不定の宿屋暮らしじゃなく歴とした住所が有る事実は、現住所が定まっているのが当然な現代日本人としては非常に安心できる要素だ。


 住所が有ると胸を張って答えられる状況が、どれだけ嬉しいことか。

 恥ずかしいから、ドネルクが居るこの場では、ぜってえ口に出さねえけどな。

 住所を持っている恵まれた環境の嬢ちゃんは、住所が有ることの素晴らしさに触れることもなく意外な提案をしてきた。



ディール⑰です。


意外と繊細!?

次回、ドロン!?

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