ディール ⑮
「面白えな。嬢ちゃんは」
“腹を割って”ねぇ・・・?
つい、笑っちまった。
この銀髪の嬢ちゃんが地球人だってことは想像が付いてる。
だが、あのゴーレムの形状に、この言い回しだ。
海外向け放送も行っているテレビ局のキャラクターってだけでは特定できなかったが、今の言い回しは日本のものだろう。
思えば、この嬢ちゃんの話し口には違和感を覚えていなかった。
日本人の俺がな。
つまり、この嬢ちゃんは日本語のネイティブスピーカーってことなんだろう。
まだハッキリとは正体を掴み兼ねちゃあ居るが、日本人感覚での交渉が、この嬢ちゃんなら出来るんじゃねえか?
言葉の差違は細かなニュアンスの取り違えに繋がるし、ギリギリの繊細な交渉事では致命的な行き違いに繋がり兼ねねえ。
だから取り違えようのない誰にでも分かる乱暴な交渉にせざるを得なかったんだが、話の分かるヤツが相手なら本音の交渉が可能になる。
「俺たちが求めているのは、エルフ族をはじめとした亜人種族が安全かつ平和的に暮らせる環境だ」
「このリテルダニア王国においてはヒト族も亜人種族も無いぞ」
前伯爵は首を傾げるが、そんな表面的なことを言ってるんじゃねえ。
確実に平等性を担保できる法制度じゃねえと、有っても無くても同じだ。
世界に較べればマシで平和だった日本でも、法律を担う裁判官や官僚が海外から輸入された政治的潔癖主義なんて綺麗事に染まって、「外国人は無罪」だとか揶揄されるほど司法制度を歪めていた。
恣意的な運用をせずに法律を法律として厳格に守るのが“公正”ってもんだろう。
他国に較べて賄賂が通用しねえと有名な、あの頭の固い日本の役人でさえも、それだぞ。
侵略戦争や大虐殺が平然と罷り通るこっちの世界での“平等”や“公正”なんて、ホイホイと信じられるかよ。
国ってのは多くの人間の寄り合い所帯だ。
人間ってのは多種多様で、ルールが無けりゃあ暴走するし、ルールが有っても守られるとは限らねえ。
誰1人、他の人間が居ねえ場所でも、キッチリと信号機を守る人間がどれほど居る?
他人の目だとか、監視者だとか、自分に不利益を与え得る“強制力”が有ってこそルールは万全に機能するんだ。
だが、強すぎる“強制力”は別のものに変化し兼ねねえ。
「ああ。知ってる。内戦が起こるほど国内に色々な勢力が有ることもな」
「ならば、お前たちはウォーレス領に居ろ。私たちなら、お前たちを守ってやれる」
前伯爵が真っ直ぐに見据えてくるが、やっぱり貴族だな。
自信満々なのは良いんだが、お前、自分が吐いた言葉の意味を本当に分かって言ってんのか?
「飼い殺しになれ、と? 1つの勢力に加担するのも危険だと思うが」
「むっ」
俺の指摘に前伯爵が口籠もる。
強力な“強制力”を持つ為政者の庇護は囲い込みと同じだ。
万一の場合に逃れられねえ囲い込みは状況の変化で致命傷になるリスクが有る。
ここで銀髪の嬢ちゃんが割り込んできた。
「・・・それで国王陛下に接近したんだ?」
「この国の立ち位置を試した、と言った方が良いな」
ドネルクを通じて国家元首がどう動くか。
複数の勢力を抱える国王なら比較的中立な立ち位置じゃないかと俺が考えたと予想したんだろうが、それは違う。
俺の答えに銀髪頭が傾ぐ。
「・・・ダメそうなら他国へ移ったってことかな? 試した上でこの国に居るってことは、ドネルク叔父様と国王陛下は合格だったんだね」
「その言い方は不敬だとか誤解を招きそうだが、そうなるな」
正確に読み取ったか。
その上で嫌悪感は示さねえ。
この嬢ちゃんは“話せるヤツ”だな。
銀髪の嬢ちゃんが呆れたように眉尻を下げる。
「・・・危ないことするなぁ」
「まあな」
交通機関も発達していねえ世界じゃあ他国へ移動するにも月日が掛かる。
「時間が掛かる」じゃねえぞ。月日だ。
エルフ族は生死が懸かってるし、俺は早く日本へ帰りてえ。
ただでさえ時間がねえってのに、ズルズルダラダラと煮え切らねえ政治工作に付き合っていられるかよ。
そりゃあ多少の無茶もするってもんよ。
首を傾げたりフンフンと頷いたり、何やら頭の中で考えてる様子の銀髪の嬢ちゃんが、真っ直ぐに俺へ視線を向け直してきた。
「・・・庇護を求めない理由は、何?」
「取り込んで、欲しいものを吸い上げて、棄てる。普通に起こり得る話だと思うが?」
お前も日本人感覚を―――、いや。地球で何が起こっていたかを知っているなら分かるだろう。
事業の買収でも、ヘッドハンティングでも、長期不況に喘ぐ日本企業と日本人が、散々、大企業や外国人にヤラレた手口だ。
この嬢ちゃんの年齢を思えば知っているわけがねえんだが、俺の直感が「分かる」と確信してやがる。
現実に得られている情報と、直感。
どっちを信じる? と問われれば俺は迷わずテメエの直感を信じる。
「・・・取り込まれなければ吸い上げられる危険は無いってことかな? 力尽くで奪われる可能性は―――、テツさんなら考える必要は無いか」
この嬢ちゃんの考え事をするときの癖なのか、ブツブツと呟きながら視線を泳がせたかと思えば、時折、俺の顔を見つめてくる。
納得顔で頷いていた嬢ちゃんが不意にドネルクへ視線を向けた。
「・・・叔父様。テツさんたちが提示した条件は?」
「敵対するな、と。対価は技術の提供だ」
「・・・敵対、ね」
ドネルクの答えに嬢ちゃんが再び宙へ視線を泳がせる。
ディール⑮です。
話せるヤツ!?
次回、図星!?
※ 今日も遅刻です!




