ディール ⑧
「あー。後で良いから、ケイナに事情を説明して貰って良いか?」
「・・・良いけど、情報交換よりも前に迂闊なことを喋らないでね?」
秘密にしてえって要求してくるから応じてやったのに、この銀髪頭は図々しくも交換条件を出して来やがった。
お前さぁ、「このゴーレム、地球のヤツじゃね!?」って大声で宣伝して回っても良いんだぞ?
しゃあねえ。
前伯爵に召喚されていて、まだ逃げ出すわけには行かねえから黙ってるけどよ。
「おう。約束する」
釈然としねえものを感じながらも承諾すれば、俺の本心を探るような目でジーッと見上げて来やがる。
沖縄のハブとマングースみてえに、数秒間、睨み合った末に、ようやく銀髪頭が頷く。
「・・・分かった。―――ケイナちゃんも。この件は後でちゃんと説明するから、今は我慢してね?」
「分かりました」
俺に了承を返した銀髪頭がケイナに顔を向け、状況説明を約束したことで、チラッと俺に目を向けたケイナがようやく矛を収めてくれた。
はぁー・・・、と内心溜息を吐く。
何で俺がお願いする側にされてるんだか意味が分かんねえ。
この嬢ちゃん、子供らしいところと子供らしくないところが有って、考えていることが読みにくい上にくいんだよなぁ。
言い表しようのないチグハグさを感じちまって掴み所がねえ、と言った方が良いのか。
交渉や取り引きが通用するタイプだってのは分かったが、図々しいところも有るから踏み込まれ過ぎねえように気を付けねえとな。
「ふむ・・・」
街道を通る者を威嚇するように両腕を振り上げている奇っ怪なモニュメント見上げつつ、ここで、この嬢ちゃんたちが所属する貴族家について考えてみる。
コイツらが例の“南部の雄”ってヤツらだろ?
俺たちが必要としているのは安全かつ永続的な居住地と、エルフ族の生存を知れば圧力を掛けてくるであろう神教会勢力の干渉を撥ね除けられるだけの力を持った“防波堤”だ。
ロブウッドやクァタルたちが居た国のように、神教会の圧力に負けて同胞を売り渡すような国は話にならねえ。
そんな外圧に国が屈する前に、エルフ族が提供する技術を活かして干渉を撥ね除けられるように発展させる必要が有る。
エルフ族が持つ魔法技術は強力なカードだ。
だが、エルフ族の魔法技術を対価に庇護を得るにも、相手に生命線を握られて依存する立場に陥る状況は避けなきゃいけねえ。
最終的には抱き込まれて同化するしかエルフ族に生き残る道はねえんだが、問題は、何年経っても態度を変えねえ誠実さと野心に流されねえ自制心を持った相手かどうかだ。
そういった意味では、物理的に神教会勢力からの距離が最も遠く、自国内の全てを敵に回しても負けねえだけの独自戦力を持ち、それでいて独立を目指すこともなく国家の中枢と良好な関係を維持する自制心を持っていると聞く“南部の雄”ってのは、最右翼の交渉相手なんだよなぁ。
ただまあ、“交渉”ってのは日本的発想で掛かると必要以上に踏み込まれやすいもんだ。
一歩譲れば更に踏み込まれるのが地球では世界標準だったからな。
最初に思い付く限り目一杯の要求を突き付けてから、より少ない譲歩で妥協点を探り合うのが普通で、日本人のように最初から相手側の事情を斟酌したりしねえ。
外国人が驚く日本人の“人格の誠実さ”や“仕事の正確さ”や“取り決めの履行”なんてものは、日本人同士の間では当たり前のことなんだが、世界標準ではそんな“当たり前”でさえ人質に取って、“もっと寄越せ”だの“ここで放り出したら時間もカネも無駄になるぞ”だのと追加条件を突き付けて、取引相手を脅迫する行為さえ普通に行われる。
“日本人の常識は世界の非常識”なんだよ。
“世界の常識は日本人の非常識”と言った方が正しいか。
契約で相手を縛る以外にも、取り決めごとを相手側に履行させるだけの、“強制力”を持たせる手段が必要になるんだ。
メイドが俺たちを呼びに来る。
「領主館へ向かいます。あちらの馬車へ相乗りしていただけますか?」
「了解した」
指し示された荷馬車の荷台には先客として数人の甲冑を着た若い騎士たちが乗っている。
俺たち7人を乗せるために複数の荷馬車へ分乗する人数を調整したらしい。
抵抗する意味もねえし、断るわけにも行かねえからすんなり受け入れた。
ゴーレムを見に行きたそうにしているレイクスの首根っこを引っ張って、ケイナたちと一緒に荷馬車の荷台へお邪魔する。
幌で囲われた荷台の床に腰を下ろして外へ目をやると、馬に跨がったドネルクの姿が目に止まった。
中断させられた“力学”の続きに思考を戻す。
約束事を守らせるための力。
その“強制力”とは何か?
相手にとっての不利益でも良いし、相手の代わりになる代替手段でも良い。
“代替手段”って意味では、この国の王家がそうで在ってくれれば良いんだが、外圧と直接対峙しなきゃならねえ逃げ場のない王家の立場は、有象無象が混在する国家全体をまとめなきゃならねえもんだしな。
エルフ族の利益に反する立場の連中も無視するわけには行かねえ以上、どうしても不確定要素が多くなる。
最右翼を“南部の雄”に定めたとして、次点を王家に据えるのは難しいな。
良いところ第3極か。
そうなると、次点として有力になってくるのは“北部の雄”と呼ばれているらしいドネルクの実家になりそうなんだが、ドネルクの性質を見た感じ、“南部の雄”よりも王家に歩調を合わせようとする気配が強そうだし、候補としてはイマイチ弱いんだよなぁ。
ディール⑧です。
力学!?
次回、覚悟の決まり方!?




