文明回帰への一歩 ⑧
地球―――、日本の建築基準法に、“安息角”という規定がある。
崖の高さに対して、崖に向かって水平をゼロとして垂直方向へ30度以内の延長線上の範囲ならば、地震、地滑り、崩落など、不意の災害に際しても、それ以上は崩れにくいから安全だ、という考え方だ。
この、“崖の上に乗っているものの安全”のための角度は、地盤の質、土壌の質の軟弱さによっては、さらに角度を浅くする必要がある。
引力に従い、自重という応力が働いて平たくなろうとするのは、万物の常だ。
カッチカチに固い窓ガラスだって、数百年、数千年単位で見れば、引力に従って平たくなろうと垂れ下がってくるんだぜ。
柔らかい地面が平たくなろうとしても急激な変化は起こらないんじゃね? ってのが「安息角」ってヤツだ。
何の補強もされていない、何の地盤調査もされていない、ほぼ垂直な高低差400~500メートルもの崖の近くなんて、リスキーに過ぎる。
崖が高さ500メートルの垂直として、安息角30度なら底辺の長さは√3だったか。
√3って、1.72ぐらいだっけな。
500メートルの1.72倍で、ざっくり860メートルぐらいだな。
崖から860メートル離れて移動すれば、いきなり崖が崩れても崩落に巻き込まれることはない。
方角の確認ならば、時折、崖からの距離を確認しに行けばいい。
あんまり断崖の近くを移動して、崩落なんぞに巻き込まれて死んで堪るか。
それに、森に戻って程なく触角ヘビを2匹、仕留めたので、食糧事情的にも安定に寄与していると言えよう。
どんだけ居るんだよ、触角ヘビ。
蛇肉備蓄の重量で撓んできたので、蛇キノコ棒も少しだけ太く長い、蛇キノコ棒Mk.2にグレードアップした。
蛇血で喉は潤って胃はホカホカだし、食料備蓄も増えてホクホクだ。
どうやら、触角パワーで筋力そのものがパワーアップしているのは確実らしい。
見るからに、それなりの重量があるはずの、蛇キノコ棒Mk.2を肩に担いでいても、まるで疲れを感じない。
健康になったとか、体力が若い頃に戻ったとか、そんなんじゃねえな。
さっき、お蛇様をGETした際なんて、頸を一握りしただけでお亡くなりになられたし。
触角ヘビの不思議パワー、恐るべしだ。
この蛇肉、常温で持ち歩いてるのに、痛む気配が無いんだよなあ。
食糧備蓄を廃棄しなくていいのは助かるけど。
数本の大木が幹の半ばで圧し折れ、小さな広場のようになっている場所を森の中に見つけた。
少し早い時間だと思うが、今夜はこの場所を野宿ポイントとすることにした。
ここをキャンプ地とする! ってヤツだ。
理由は一つ。
広場の真ん中に、ひとつの亡骸を見つけたんだよ。
いくらか苔むした、巨大な骨格。
南極調査隊の写真にある鯨のような、完璧に白骨化したドラゴンだ。
頭蓋骨に2本の角があるから、たぶん間違いない。
地球の現代日本人である俺にとって、ドラゴンとは完全無欠に未知の生命体だ。
黒トカゲ戦に備えて、情報は多ければ多いほうが良い。
骨格の構造から、最終決戦での戦略が練れないものか、と、思い立ったんだよ。
今夜の野宿に向けて、広葉樹の枯れ枝と枯れ葉は集め終わった。
さあ、お楽しみの骨格標本検証タイムだ。
「ナンマンダブ。ナンマンダブ」
仏さんの脛骨の幾つかに、歯形のように、点々と罅が入っている。
歯形だよな? 歯形だと思う。
歯形の大きさから察するに、噛んだ側の生物も、相当に巨大であることは間違いないと思われる。
同族との諍いで、首を噛まれたのが致命傷だったのかもな。
ソレと明らかに分かる形で生前のフォルムを遺した亡骸なのだから、外敵に捕食されて死んだとは考えにくいだろうな。
誰に荒らされるでもなく、人知れず朽ち果てたのかもしれない。
「お? 何だコレ。鱗か?」
下草に紛れて、野球のホームベースよりも、かなり大きい鱗が、積み重なるようにして散乱している。
一枚の鱗を手に取ってみる。
深く透明感の有る青色で、美的センスに自信の無い俺でも「綺麗な色」だと思える。
「大きさの割には、軽いんだな」
鱗の先っぽを踏んづけて、圧し折れるかどうかを試してみる。
厚みは1センチメートルもないのに、折れない、曲がらない、クッソ硬い。
地面に置いて、瓦割りの要領で、ぶん殴ってみた。
「痛っテェ・・・!」
パーン、と、派手な音はしたが、俺の拳が痛かっただけで、割れるどころか鱗には罅も入っていない。
そんな気はしてたよ!
痛みが引くまで、ぷらぷらと掌をふりつつ鱗を睨み付けた。
文明回帰⑧です。
スケルトンドラゴン!?(未完成
次回、弱点探求!?




