クラン ㊲
「テツは兎も角、ケイナもそんなのと戦って来たんだね」
「魔法術式も通用します。心配するほどのものでは有りません」
レイクスは可愛い妹を危険な場所へ送り出したことを後悔したんだろうが、兄貴の心配が伝わらなかった様子でケイナは平然と返している。
子供の順応力は常識に囚われた大人の予想を上回るもんだからなあ。
「いやいや。ケイナは魔素制御が上手い方だからね?」
「体内の保有魔素量も格段に増えられた様子ですし、我々ではケイナ様ほど術式の威力が出ません」
「魔素量なんて、そのうち増えますよ」
困ったように眉尻を下げて首を振るレイクスたちの反論を、ケイナがピシャリとシャットアウトした。
ケイナにあしらわれたレイクスが俺にジト目を向けてくる。
「テツ~?」
「何だよ」
悲しそうな顔でレイクスが暗い雰囲気を背負う。
「僕の妹が常識を無くしちゃってるんだけど」
「常識なんてもんはただの平均値だろ。不変のものじゃねえぞ?」
いい歳こいて、鬱陶しい。
何をジジイみてえなことを言ってんだ。
ん? 今のはちょっとおかしいか。
日本でなら不動のご長寿ランキング1位を獲れる歳なんだから、中身はジジイで合ってるんだよな?
レイクスの場合、若いのか年寄りなのか、コレもう分かんねえな。
見た目は若いし、子供みてえな反応を返すことが多いから忘れそうになるが、エルフ族の感覚だと俺の歳なんて幼児並みだからな。
根本的な部分で互いの常識が違うんだ。
主に、時間的な常識が。
「くっ・・・! 非常識の塊みたいなテツに正論で返された!」
「慣れりゃあ良いじゃねえか。つーか、直ぐに慣れるぞ」
いや。マジで。何匹か狩れば魔獣なんて見慣れるしな。
それとだ。俺の常識だと、お前らエルフ族の寿命や魔法の方が非常識なんだぞ?
どうでも良い話はサッサと切り上げて熊の追跡に取り掛かる。
足跡1つもデカくて目立つ上に、所々に鋭い爪で木の幹を引っ掻いたマーキングまで付けてやがるから痕跡を見失うことがねえ。
ただ、足跡が向かう先は西へ東へ大きく蛇行していて、脅威を怖れて真っ直ぐに南へ逃げてるって感じじゃねえんだよな。
ケイナの魔法で追い散らかされたのが原因じゃなければ、俺たちが熊を追って始末する必要も無くなるんじゃねえかと思わなくもねえ。
まあ、乗りかけた船といえば乗りかけた船だし、熊を始末しておいた方が揉め事の芽を摘んでおくことにもなるんだろう。
どのみち、他のメンバーは別ルートで南へ向かってるわけだし、全く違う方角へ熊が逸れて行かねえ限りは追跡を継続するしかねえな。
危険物センサーに引っ掛かる触角ヘビも居るんだが、俺たちのルート上に居ない限りは無視だ。
ケイナもそうだが、森の奥に引っ込んで生き延びてきたエルフ族ってのは森を歩くペースが速え。
地形の段差もヒョイヒョイと身軽に超えて行くし、ドタドタとパワーで押し切って進む俺と違ってスマートに移動するんだよな。
しかも、狩人の役目に就いているフィティオスとアルケマイオスの兄弟は、レイクスたちと同じ移動ペースを維持しながら獲物の痕跡まで調べる余裕が有る。
危険物センサーが無かったら、俺は完全にお荷物だぞ。
1時間に1度のペースで小休憩を取りながら南へ移動していく。
日暮れが近くなれば野営地を決めて薪を集めに掛かる。
交代で睡眠を摂り始めるまでは、焚き火を囲んで串肉を焼きながらの雑談タイムだ。
「まあまあ進んだはずなんだが追い付かねえな」
「痕跡は新しくなってきていますから、じきに追い付きますよ」
俺のボヤキにフィティオスが目を細める。
「へぇ。足跡から獲物が通った時間まで分かるもんなのか?」
「土の乾き具合からの推測ですから正確なものでは有りませんが、大雑把には、ですね」
やっぱり、餅は餅屋なんだなあ。
大雑把にでも彼我の時間差が掴めればその後の接敵予測や行動計画が立てられる。
危険物センサー頼りでゴリ押ししている俺とはエレえ差だ。
「それでも、痕跡を調べながらあの移動速度を維持できるんだから、フィティオスもアルケマイオスも大したもんだぜ」
「それを言うなら、私たちの移動速度に付いてこられるテツ殿の方が大したものですよ」
いやいや。買い被りだぞ?
俺が移動ペースに付いて来られた理由である借り物のリュックへ手を伸ばす。
「俺はほら、新しいリュックで荷物も軽くなったしな。つーか、コレどうなってんだ?」
片手でヒョイと持ち上げたリュックをレイクスに示せば、レイクスが待ってましたとばかりに身を乗り出してくる。
聞いて欲しくて仕方がなかった感じだな。
うちのメンバーも悪い連中ではないと信じちゃあ居るが、技術の核心部分は教えない方が良い。
“分割して統治せよ”じゃねえが、教えちまうと変な欲を抱かねえとも限らねえし、機密情報を知っていることで外の連中から狙われる恐れも有る。
そんなわけでレイクスの自慢話はお預けになってたんだが、今は他のメンバーが居ねえから解禁だ。
クラン㊲です。
非常識の塊!
次回、核心技術!?
※ 今日もちょっとだけ遅刻です!




