クラン ㊱
「そうそう! ウォーレス公爵領といえば、数百年ぶりに精霊様が姿を現したって噂もありますよ!」
「へぇ。精霊の姿が見えたの?」
両手のひらをポスッと打ち合わせたリットが耳にした情報を開示すれば、レイクスたちが首を傾げる。
「噂では、ですね。何かのお祭りの最中に現れたそうで、何百人もの人が目撃したと聞きました」
「その噂ならオレも聞いた。空を覆い尽くすほどの数だったらしいな」
リットの追加情報をクァタルが補足して、レイクスたちだけでなくケイナも首を傾げる。
「空を覆い尽くすほど多くの精霊ですか」
「何百人、ねぇ」
「何か変なのか?」
懐疑的な反応と無反応に2分されて、反応したのがエルフ族だけってことは、こっちの世界の常識から外れた現象が起こったわけではなく、エルフ族の常識から外れた現象だから懐疑的って感じか。
「普通は目に見えないのが精霊だからね。見えるとしても、それは自身と特別な繋がりを持った精霊だけなんだよ」
「ほーん。そういうもんか」
レイクスの説明を聞いてもよく分かんねえな。
確かに、普段からケイナが精霊と話している姿を見ていても俺の目に精霊は見えねえんだし、レイクスの説明には合理性のようなものは感じる。
そうは言っても、俺みてえに全く精霊の姿が見えねえ者からすれば、精霊が目の前に居ると言われても真偽の判断が付かねえんだし。
「私でもハッキリと見ることが出来る精霊は、私に憑いている子たちだけですから。普通のヒト族が何百人も同時に目撃したというのは信じ難いです」
「そ、そうなんだな」
憑いてるって・・・、幽霊みてえな言い方だな。
「特別な繋がり」ってそういう意味かよ。
「詳しい状況と当時の様子を聞いてみないと何とも言えないけど、ゴーレムの件も精霊の件も興味深くは有るね」
「んじゃまあ。熊狩りがてら、そのウォーレス領とやらまで南下するか」
「はい」
話を切り上げて最終判断とすれば、ケイナが代表して返事を返して来た。
「ヨーシ。じゃあ、何とか言う町で合流な」
「了解した」
「気を付けてニャー」
荷馬車からリュックを下ろして、エルフ族チームと荷馬車チームに分かれる。
俺はエルフ族チームと一緒に森へ再突入だ。
先ずは鋼毛熊の痕跡を見付けなきゃ追跡できねえから、横1列に並んで森の奥側へ向かう。
熊の足跡ってヤツはデカくて特徴的だから、比較的見付けやすいんだよ。
アイツらは猫みてえに爪を隠せねえからな。
体格に比例して手脚もデケエし、こっちの世界の動物は全般的にデケエから問題の鋼毛熊もデケエはずだ。
体格がデケエってことは体重もクッソ重てえってことだから足跡が残りやすい。
目を皿のようにして地面を見回しながら森を歩いて、腹時計で2時間ぐらい経った頃だった。
「有りました」
「おおっ。どれどれ?」
熊の足跡を発見したのは狩人として腕が良いらしいアルケマイオスだった。
しゃがみ込んで地面を見ているアルケマイオスの傍へ全員が集まる。
「かなり大きいね」
「ええ。牡の成獣だと思われますが、郷の大人たちから聞いていたものより大きいです」
慎重な手付きでアルケマイオスが落ち葉を退けると、黒々として柔らかい腐葉土の上にクッキリと5本爪の足跡が残されている。
親指が退化した犬っコロ系だと4本指で円形に近い形状なんだが、しっかりと親指が機能する熊は5本の指が地面を掴む。
さらには肉付きの良い筋肉に包まれた手脚が太いことも有って、横長に押し潰された形状の足跡になる。
アルケマイオスが見付けたのは確かに熊の足跡だ。
「クローゼリス領辺りの森だと標準サイズだな?」
「はい。特別に大きな個体ではないですね」
言うほどか? ってのが正直な俺の感想だ。
俺の感想にケイナも頷く。
デケエことはデケエんだが、俺たちにとっては見慣れたサイズだ。
俺たちの感想にレイクスが眉根を寄せて首を傾げる。
「そうなの? というか、“さいず”ってどういう意味の言葉?」
「悪い悪い。サイズってのは“大きさ”って意味だ」
ケイナは覚えた単語だったから、つい口に出しちまった。
言葉選びの線引きが後退した感じになっちまったが、言葉ってのはコミュニケーションの基本だからな。
俺たちの仕事は命懸けなんだから、おかしな誤解から意思疎通が不足しねえように気を引き締め直さねえと。
レイクスは単語の意味が分かればそれで良かったようで、難しい顔で足跡を見下ろす作業に戻った。
「北の森の魔獣って本当に強いんだね」
「大人たちが言っていた通りでしたよ」
深刻な口調の兄貴に軽い口調で妹が返す。
溜息雑じりにレイクスが肩を落とす。
クラン㊱です。
痕跡発見!
次回、常識!?
※ ちょっと遅刻です!




