クラン ㉞
「まあ、話術ってのは慣れが必要だから、多くの人と話して学んでいけば良い」
「頑張ります」
ポンポンと頭を撫でれば、ケイナがニコリと笑みを返してくる。
柔らかく解けた妹の表情にレイクスも目を細める。
「ケイナは良い経験をしてきたみたいだね」
「はい。大変な狩りも経験しましたけれど、すごく楽しかったですよ」
「そっか。―――ところで、ドネルクって誰?」
笑顔のケイナに頷き返したレイクスが、クルンと俺へ顔を向けてきた。
表情はいつも通りユルく笑っているが目の光は笑っていねえな。
シスコンとまでは言わねえが、レイクスは妹を大事にしてるからなぁ。
交渉窓口としてドネルクの名前を挙げたせいで、知らない男の名前に警戒心を募らせたっぽいか?
お前、ケイナはまだ子供だろうが。
妹の交友関係に焼き餅を焼くのもみっともねえし、色恋沙汰の心配もまだまだ先の話じゃね?
とはいえ、可愛がっている大事な妹が手元を離れていたことを思えば、心配するのもしゃあねえか。
「オッサンだ。オッサン。俺よりも年上の、冒険者ギルドのギルド長だ。つい最近までこの国の騎士団長を務めていた男で、侯爵だったか、貴族家の当主だな。評判の良い武人で国王との距離が近い」
ドネルクの概要を話して聞かせれば焼き餅は形を潜めたようで、レイクスの表情が呆れたものへと変化する。
「はー。凄いね。ほんの一月や二月で国家の中枢にまで接近したんだ?」
「ドネルクが付き合いやすい相手だったことも含めて運が良かっただけだ。個人としては信用に値する男だと思うが、ドネルクだけだとまだ弱いな。国の中枢に近付き過ぎると柵で技術を抜き取られる恐れが有るから、一方的に国の庇護を受ける関係は危険だ」
多少は狙ってトラブルを大きくした部分は有るが、一発でドネルクと交渉する機会に恵まれたのは“運”としか言いようがねえ。
普通に行けば、ドネルクを引っ張り出すまで数ヶ月掛かった可能性だって有る。
それ以前に、ドネルクがタイミング良くギルド長にジョブチェンジしたのも偶然なんだし、“引きが良かった”と幸運に感謝するしかねえんだ。
視線を宙へ飛ばして俺の答えを吟味していたレイクスが視線を戻してくる。
「国家の中枢に近く、それでいて柵を撥ね除けられる相手が良いんだね。そんなの居るの?」
「そこが難しいんだよなあ。まだ物色しきれていねえし」
レイクスの言う通り、関係の主軸に置くベターな相手の条件が難しい。
こっちの脛に傷が無けりゃあ決定権を持つ国王がベターな交渉相手になるんだが、最高位の決定権者とダイレクトに繋がっちまうと、最悪に厄介な外野―――、神教会との外交問題になった際の逃げ場が、国王にも俺たちにも無くなっちまう。
そして、この国の統治形態は封建制で、国王の下に王宮と呼ばれる最上位の中央行政機関が有るらしい。
この王宮ってのが貴族の寄り合い所帯で一枚岩じゃねえ。
つい最近終わった内戦も、寄り合い所帯で色々な派閥に分かれているのが原因で、神教会―――、というか、外国の影響を受けた連中が粛清されたと聞く。
神教会に靡き兼ねねえ連中との付き合いなんて、危なっかしくて真っ平御免だしな。
王宮でも簡単に手出しできねえ、それでいて道理の分かる、自制心を持つ相手じゃねえと困るんだ。
そう言う意味ではドネルクも決して悪い相手じゃねえんだがなあ。
政治的な引責辞任で騎士団長という最上位職から身を引いたドネルクは、貴族階級最上位の公爵家から独立して一段下がった侯爵になっちまったと言うし、侯爵よりも上が首を突っ込んできたときに撥ね除けられるのかと言えば一抹の不安が残る。
そう言う意味で窓口選びがマジで難しいんだ。
「だろうね。でも、短い期間でよくやったものだと思うよ」
「ま。レイクスの魔法道具が人目に触れるようになれば、接触したがる連中が増えるだろうからな。じっくりと見定めるさ」
レイクスの慰めを受け入れて肩を竦める。
これ以上、この場で議論しても前へ進まなくなったところで、クァタルが仕切り直しに来た。
「それで、オレたちは荷馬車で街道を南へ下れば良いのか?」
「あの荷馬車はギルドからの借り物だから、乗り捨てるわけにも行かねえ」
「そうだったな」
俺の指摘にクァタルが同意する。
そこで不満を表明したのはケイナだ。
「あの子たちを乗り捨てるなんてダメです」
「馬たちは任せておくニャー」
ミャウラ。ナイスフォローだ。
馬を乗り捨てるとも売り飛ばすとも言ってねえんだが、前に俺が王都で馬を売り飛ばす計画を立てていたことをケイナは根に持っているらしい。
「テツさんとケイナさんがイエーティを追いながら南下するということは、私たちだけで街道を行くんでしょうか?」
「おかしな奴らに狙われても、今のお前らなら返り討ちに出来るだろ? 堂々としてろ」
「おうよ。一応、この国に亜人種族迫害は無えんだ。儂らだけでも問題は無えぞ」
不安そうにしているイカウに軽く発破を掛けると、ロブウッドも大きく頷く。
ここで「一応」って前置きが、ヒト族への不信感を棄てきれねえロブウッドらしいな。
「万一が有ったときは、俺と合流するまで何としても逃げてこい」
「どんな手を使ってでもか?」
ロブウッドがジロリと向けてきた目を、真っ直ぐに見返す。
「当然だろ。合流できれば後は何とかしてやる」
「おう。分かった」
「承知した」
ニヤリと笑うロブウッドだけでなく、苦笑したクァタルも頷く。
クラン㉞です。
交渉窓口!?
次回、名所!?




