クラン ⑧
「魔法道具ですか?」
「ああ。大量の湯を沸かせる魔法道具って売ってる店はねえの?」
布地屋と言ったが、布地だけを扱っているわけじゃなく、家具の類いも取り扱いが有ると店員が言うから訊いてみれば、困ったように眉尻を下げて首を横に振られた。
「以前は取り扱っている商会が有ったのですが、きな臭くなって以降は聞きませんね」
「内戦の影響かぁ」
これはアレだ。
俺が買った拠点の前オーナーみたいに戦争の気配でビビって逃げ出した商会が取り扱ってたんだな。
魔法道具はキ〇ガイ教団関係が製造元らしいから、その手の商会もそっち絡みの連中だったんだろう。
敵国にまで入り込んで商売をする度胸は大したもんだが、風向きがヤバくなりそうな気配を嗅ぎ取って逃げ出すぐらいだから、儲けるために危ない橋を渡っている認識は有ったんだろう。
もしかするとスパイを兼ねていた可能性も有るしな。
つーか、スパイだった可能性の方が高くね?
俺の推測を肯定するように店員が僅かに声を潜める。
「価格も価格ですし、そんな高額商品を仕入れられる“伝手”を持つ商会は、元々少なかったのですよ」
「そんなに高えの?」
ほーん。伝手ねえ?
確たる証拠もなく疑いを掛けて無用な敵を作らないために言葉を濁したのだろうから、俺もそこには触れない。
万が一にもその商会が戻って来て、おかしな噂を流したと知れたら敵対関係になるからな。
商売人の処世術に余計なツッコミを入れない分別ぐらいは俺にも有る。
店員の方も俺が受け流した話題に触れては来ない。
「もちろん、用途にも品質にもよりますが、日常的に不便なく使える品質のものなら大金貨が100枚単位で飛んで行くぐらいには」
「小金貨で1000枚単位か・・・」
魔法道具屋で風呂用に湯沸かしの魔法道具を買おうと考えていたんだが、品質もピンキリな上にメチャクチャ高額ってことらしい。
底値の低品質なものでも金貨1000枚と言われれば、さすがに俺も手を出しにくい。
なんてことを考えていたら、不機嫌そうなケイナに袖口を引かれた。
何かケイナを怒らせたっぽいから店員との会話を切り上げて店を出る。
「どした?」
「魔法道具なんて買う必要は有りません!」
預けてあった荷馬車に戻ると、ケイナに小声で叱られた。
「ええ? 快適に生活が出来るように手助けするのが道具ってもんだぞ?」
「そんなもの兄様に作ってもらえば良いんです!」
「お、おう。そうだったな?」
それはそうなんだが、レイクスには他のものを作って欲しいんだよなあ。
珍しくケイナがプンスコと怒ってるから、それ以上は言えねえ。
建物に風呂場は有ったのに、しばらくは水浴びだけで熱い風呂はお預けになっちまったなあ。
こっちの世界の風呂は風呂釜というものが存在しなくて、井戸から汲んできた水を竈で沸かして熱湯を浴槽に貯めるだけの超・人力なんだよ。
薪を消費するし手間も掛かるしで金持ちの道楽とされているらしい。
まあ、仕方ねえ。
湯沸かしの魔法道具だけじゃなく、冷蔵庫か冷凍庫を作れないものかも、郷へ戻ったらレイクスに色々と相談してみよう。
拠点へ帰って各自の荷物を部屋へと運ばせた後、調理班と整理班に人手を分けて、拠点の整備に取り掛かる。
調理班はミャウラを筆頭に、ケイナとリットを加えた女性陣が担当。
その他の野郎どもを引き連れて、大雑把に場所を決めてはリュックから買い込んだ荷物を下ろして回り、建物の清掃も手を付けて居ないのだからと仮置きの形で片付ける。
「うーん・・・。これは」
拠点の広さも広さだから、放棄されていた不要品を選別してー、廃棄してー、清掃してー、整理してー、と1つ1つやっていたら結構な日にちが掛かりそうだぞ。
そりゃあ、夜逃げ商会もそこそこの物品を置き去りにするわけだわ。
用意できる馬車の数も限られていただろうし、刻一刻と内戦に突き進んでいく情勢変化を想像すると、価値あるものや必要なものを的確に選別して搬出して速やかに脱出する手際は見事なものだったんじゃねえか?
俺とケイナがハンティングツアーに出ている間、留守番チームの仕事で悩む必要は無さそうだな。
空き部屋の片付けと購入品の整理だけでも、半月やそこいらは掛かるだろう。
快適に、機能的に、なんて考え出したら数ヶ月単位だぞ。たぶん。
待てよ? そうなると時間が掛かりすぎるな。
俺にのんびり構えていられる時間はねえ。
かと言って、「俺、地球世界へ帰るから」と途中で放り出してここを去ったら、あの世へ行ったときに中途半端すんなとカナに叱られちまう。
クラン⑧です。
気付き!?
次回、方針変更!?




