クラン ⑨
考え方を変えよう。
生活互助会の組織―――、というよりも、“会社組織をイチから立ち上げる”と考えたほうが良さそうだな。
今は俺がいるから問題なくても、俺が居なくなった後、ケイナだけに狩りをさせるなんて論外だ。
外でカネを稼いでくる営業職や技術職が居ないのに、内部処理の事務職だけが居る会社なんて存続し続けられるわけがねえ。
外でカネを稼いでくる社員を増やすのが優先で、事業の拡大に合わせて事務職員を増やすのが王道だ。
今のメンバーをバックアップに回して、もともと戦闘職の連中を新たに外部から引き込んで鍛えようと考えかけていたが、それじゃあ駄目だ。
戦闘職がいつ〇チガイ教団の教義に転ぶか分からないヒト族で、亜人種族の非戦闘職ばかり、の組織なんて危険すぎる。
引き込む相手を厳選したとしても、奴隷商人に伝手がある輩が紛れ込む恐れもある。
実際、その戦闘職の連中も上手く釣れてないしな。
俺たちが荒稼ぎしている噂は広まっているだろうに、「俺も混ぜろ」と釣られる奴らがまだ現れねえ。
だから方針変更だ。
今のメンバーを戦闘職に鍛えて、必要なバックアップ要員は後から補充すれば良い。
安定的に儲けられる強い会社だからこそ就職希望者が集まるし、意欲がある有望な人材が集まるからこそ会社は早く成長する。
安く買い叩いた労働力が意欲的に働くわきゃねえんだから、社員の給与を安くしてコストを下げるなんて考え方で組織は成長しないし、会社が強くなることなんて有り得ねえ。
だが、儲けられる場所には有象無象が集まって来る。
特に、腕っ節が強いヤツってのはクセが強いから、こっちも強くないと舐められる。
そういった意味でも今のメンバーが強くならなければ、新たにメンバーが増えたときに、力関係に混乱が起きて内部から崩壊する。
亜人種族のメンバーが強ければ、おかしな輩が紛れ込んだときにもケイナたちを守る抑止力になる。
種族間の軋轢が起こるのを防ぐために、今後、拠点に移住してくるであろうエルフ族の意見も取り入れてやりたいしな。
今は、拠点の整備を最低限にして、戦闘力の強化を優先するべきだ。
ロブウッドは自分が作ると抵抗するだろうが、出来合いの武器防具を購入してきてでも、すぐに全員をフィールドワークへ連れ出すことにしよう。
街で買ってきた装備品は、ロブウッドが納得できる物を作った後に予備の備蓄にでも回せば良い。
倉庫の真ん中に大小の木箱を並べて食卓を作ったところへ、ケイナたちが料理を載せた食器を運んできた。
全員が配膳を手伝って、全員で食卓に着く。
エルフ族、獣人族、ドワーフ族のそれぞれの料理を、互いに調理法を教え合って作ったらしい。
厨房から香ばしくて良い匂いがすると思ってたら、本当に小麦粉から引いて厨房の釜でパンまで焼いてたんだな。
つーか、このパン、柔らかいんだが?
酵母なんてどうしたのかと思えば、食料を買い込んでいるときにミャウラが見付けてサービスさせたんだと。
農家の娘だと言っていたが、存外、抜け目がなくて逞しいな。
このミャウラ。郷里が寒村で実家が貧しく、奴隷商人に親がミャウラを売ったんだと。
だからミャウラは、国境を越えたかどうか以前に郷里へ戻ることを拒絶した。
貧すれば鈍する。賢く逞しい自分の娘を奴隷として売るなんて、1人の父親として看過できねえ。
他所様の家庭事情に首を突っ込む気はねえが、俺もミャウラを郷里へ帰す気はねえよ。
ドワーフ父娘も獣人族2人も抱えている事情は似たり寄ったりだ。
他の4人も祖国がキ〇ガイ教団の圧力に屈したせいで、祖国に居場所がなくなって国外へ脱出したところを奴隷商人に狙われたわけだ。
何だかなあ・・・。人間の汚さの縮図を見せつけられた気分になっちまう。
だからこそだ。
信じていたものに裏切られて居場所をなくした連中だからこそ、エルフ族と手を携えて自分たちの手で居場所を作らせる。
キチ〇イ教団という共通の敵が居ることで結束力も高まるだろう。
誰かに与えられた居場所ではなく、自分たちの手で勝ち取った居場所なら必死に守ってくれるはずだ。
共同生活初夜の祝いということで、軽く祝杯を挙げて、みんなが食事に手を付けるのを確かめる。
食事の慣習での不和、ってのは無さそうだな。
誰一人、拒絶反応を起こしている様子は無い。
嬉しそうに、楽しそうに、わいわいと舌鼓を打っている。
「今後の話なんだがな」
俺が発したひと言に皆が一斉に静まって、俺に視線が集まる。
最大の関心事だろうから当然だろう。
「数日中に、ギルドが次の討伐依頼を纏めてくるはずだ」
俺とケイナの、今の依頼の請け方を説明すると、新メンバーたちが響めいた。
そりゃまあ、一種の国家機関と癒着してるんだからな。
「ギルドと癒着してるのか」
「誤解すんな。利害の一致。助け合いだ」
「お、おう」
正しい理解を解釈を変えさせることでねじ曲げる。
「お前たちには、次の遠征から参加して強くなってもらう」
息を呑む新メンバーひとり一人の目を見て、ぐるりと一同を見回す。
コイツらに俺が求めるものは覚悟だ。
「これは決定事項だぞ。お前らが今度こそ居場所を守り抜くために必要なことだ」
「居場所・・・」
ポツリと誰かの小さな呟きが漏れた。
さっき俺が考えていた生活互助会―――、ではなく会社組織。
規模拡大と軋轢回避に付いて、一連の考察を述べた。
今後はどこかのタイミングでヒト族の構成員も増やしていく必要が有る。
目指すべきはヒト族国家との共生で、亜人種族のパラダイスを作ろうってわけじゃねえ。
そんなもん作ったって“新たな敵”を生み出すだけで未来はねえんだ。
会社スタートアップの辺りで目を輝かせていたイカウが、自分が強くなっていないと新入りに舐められる、と聞いて頬を引き攣らせる。
クラン⑨です。
組織組成!
次回、道連れ!?




