文明回帰への一歩 ⑤
まあ、食うんだけどな。
蛇でも肉には違いねえ。
いただきます。
そうして、異世界(仮)、3日目。
さらに体が軽くなった気がしている。
5メートルほどの崖が有ったから、イケそうな気がしてヒョイと飛び降りたら、怪我をするどころか足が痺れることもなく普通に降りられた。
イケるか? と、逆を試してみたら、崖の上まで少しだけ手が届かなくて、尻餅をついた俺の尻の下で、蛇キノコ棒が危うくお亡くなりになるところだった。
助走なしの垂直跳びで3メートルとか、すげぇな。
これはもう、誤解の余地なく、俺の身体能力が上がっていることを認めざるを得ない。
非常食候補として持ち歩いていたが、キノコ棒さんには、何となく愛着のようなものが湧いてきている。
俺を遺して亡くなるんじゃないぞ。
結構、下ってきたと思うんだけどな。
周りが木ばかりで、距離感がおかしくなっているので自信はない。
この森、というよりも、この世界はスケール感が全体的に大きい気がする。
もっと大きな触角ヘビなら、もっと、たくさんの蛇肉が取れそう。
いやいや。俺は蛇以外の肉が食いたいんだよ。
蛇しか出て来ねえから蛇を食ってるだけで、蛇肉が好きなわけじゃない。
「おっ!」
ずっと向こうの樹間に、光が見える。
自然、足の運びが早くなる。
ついに、森から出られる!
増えてきた下草を蹴り、木々の合間から遮る灌木の茂みを跳び越え、まばゆい光の中へ飛び出―――せ、なかった。
「うおっと!!」
急ブレーキで踏みとどまった俺の足元には、断崖が横たわっている。
「危なかった・・・」
下生えで見えにくい大地と空の境界線を爪先で探りつつ、崖の下を覗いてみる。
スケールがデカいにも程があるだろう。
「うへぇ。何だ、こりゃ」
うっすらと霞が掛かった直下に、密集した木々の頂が見える。
足元の崖面が見えないのは張り出しているせいか。
おそらく、400~500メートルは下方だから、そう簡単に降りられそうにない。
「こんなもんまで、スケール感がデカくなくても良いだろうによ」
断崖の対岸を見れば、200メートルほどの水平方向に、ごつごつとした岩肌が露出した断崖が望める。
谷、というよりも、大地の断裂、といった感じだ。
どうやっても対岸へ渡るのは無理そうだな。
垂直に近い断崖の肩の辺りには、間際にまで迫った大木の根が空中にまで張り出して宙に垂れ下がっている。
と、いうことは、やはり、こちら側の崖面も同じような有り様なのだろう。
左右を見回したところで、向こう側へと渡れる橋のようなものが有るはずもない。
「んんー?」
断裂の延長線上、ずっと、ずっと、遙か彼方に、霞んだ威容が見える。
あの禿げ山みたいな特徴的な色合いは、高高度からの景色でも他に無かったはずだ。
「あれはトカゲ山・・・か? だよな?」
霞み具合は、東京都内から富士山を望んでいるような距離感だ。
と、言っても、あの山、スカイツリーから見たことがある富士山よりも大きく見えるんだけどな。
確か、都内から富士山って、100キロメートルちょいの距離なんだっけ?
1日10キロメートル歩けば、10日ほどもあれば踏破できる。
本当に100キロメートルなら、だ。
雲ひとつ掛かって居ねえからスケール感を測りかねるのかもな。
素直にパッと見の距離感を受け入れられない理由は簡単だ。
「そんなわけ無い」と俺の本能的な距離感が希望的観測を全否定しているからだ。
「あれは、もっと遠い」と。
目に見えるものと本能的な感性の、どっちを信じるかと問われれば、俺は迷わず本能を信じる。
少し、考える。
予想した形とは少し違うが、向かう方角は確認できた。
この断崖に沿って動く限り、向かうべき方角を見失うことは無いだろう。
すぐに思い付く問題は、三つ有る。
一に、この断崖が、どこまで続いているのか。
二に、この崖を降りることができるのか。
三に、樹高よりも低い場所まで下った後も方向確認が出来るのか。
高低差500メートルだと、地球のギアナ高地に有る世界最大の滝よりは低いのか?
”エンゼルフォール”だっけか。
あの滝は1キロメートル近い高さが有ったはずだから、この崖は半分ほどの高さしかない。
半分だから何だ、って話だけどな。
文明回帰⑤です。
トカゲ山、発見!
次回、進路確認!?




