文明回帰への一歩 ④
空飛ぶトカゲを思い出す。
勝てない―――、と、あのときは、そう思った。
今の俺に生じている変化は、あの“硬さ”をブチ抜く武器になる可能性がある。
「この状況は“鍵”になるんじゃね?」
だったら、状況を打破するために、どんどん狩って、どんどん食っていくべきだろう。
などと考えつつ、俺の手は休まずにベリベリと蛇皮を剥いでいる。
「皮を剥ぐのにも慣れてきたなあ」
切り裂いた喉の切り口からカッターの刃を首周りに1周させて、皮と肉の間にも刃を入れてから、尻尾の方に向けて力任せに引き剥がすんだよ。
ちゃんとした皮の剥がし方が有るのかも知れねえけど、レクチャーしてくれるヤツが居ねえんだから独自方式で行くしかない。
内臓は腹を下すと嫌だし、蛇皮と骨は食えそうに無いからポイだ。
どこかで売れるなら蛇皮は持っていっても良いんだが、持てる荷物の量には限りが有るから肉が優先なんだよな。
勿体ないと思わなくもないが、食いもんの確保は優先せざるを得ねえ。
蛇が待ち伏せしていた樹は幸いにも延焼を免れ、樹幹と枝のいくらかを黒焦げにした程度で自然と鎮火している。
まあまあの勢いで燃えたはずなんだが、思ったよりも燃え広がらねえのな。
燃え残りの枝っ切れを集めて熾し直した火で、蛇肉を炙りながら考える、
「他の動物を食っても、効果あんのかね?」
森の中なら、鹿とか、猪とか、熊とか、色々な野生動物の棲息が想定できる。
すでに、あまり気にならなくなっているが、蛇よりも毛の生えた四つ足の動物の方が、“食う”という意味での心理的抵抗感は小さいことだろう。
虫を食え、と言われたら、さすがの俺もご勘弁願いたいところだが、獣肉なら大歓迎したい。
焼き上がった蛇肉を、もしゃもしゃ頬張る。
なにより、四つ足の獣なら、食える部分が蛇よりも多そうなのが良い。
とは言っても、狩猟道具も罠の知識もない以上、向かってきてくれる肉食獣しか獲れる気がしないんだけどな。
はあー。なにか襲ってきてくれねえかなあ。
生ゴミと燃え残った炭に土を蹴り掛けて消火し、指差し確認を行って歩きはじめる。
俺の肩には、「キノコ棒」改め、食い残しの蛇肉とキノコが合体した、「蛇キノコ棒」が担がれている。
なだらかな登り坂だった地形は、残念ながら下りはじめている。
「下りたい」と思えば上るし、「上りたい」と思えば下るのは、俺の業の深さが原因なのかねえ?
善人か悪人かで言えば俺は悪人だろうし、幸運か悪運かで言っても俺は悪運の方に縁がある。
少し逡巡したが、それまでの登り勾配よりも下り勾配のほうが大きく見えたので、もしかすると、谷底に渓流のようなものが存在する可能性もある、と思い直して、再び下ってみることにした。
振り出しに戻った徒労感は有るが、結果的に水が見つかれば、それも結果ヨシだ。
所々に岩肌が剥き出して大木同士の樹間が広がり、中木に混じって灌木の茂みも偶に見掛けるようになってきた。
つまり、鹿のような大型草食動物の食餌となり得る植生になってきた、ということだろう。
今までは、一番低い巨木の枝でも、5メートル以上の高さがあったからな。
数少ない中木や低木だけを食餌にしていては、大型草食動物の棲息を支えるのは厳しいだろうと、心ときめく“肉”との出逢いを諦めていたのだ。
これは、期待できる。
草食動物が棲息するなら、肉食動物も棲息できる、はずだ。
草食動物なら、俺の姿を見れば逃げるかもしれないが、大型の肉食動物なら、俺をエサだと思って襲ってきてくれる可能性が高い。
俺の“肉”が、向こうから、やってきてくれるのだ。
ぜひとも蛇以外の肉も食いたい。
心身共に、不思議と充足している今なら、熊は無理でも鹿や猪になら勝てそうな気がする。
爬虫類よりも哺乳類の方が血の量も多そうじゃね?
なにが来るかなー♪ なにが来るかなー♪
日が陰ってきた気がするので、早めに野宿ポイントを定めて焚き火を熾す。
今日の寝床は、岩棚のようになった平たい岩の上だ。
寝やすそう、これが決め手だ。
蛇肉を焼いて食った夜半、待ち望んだ襲撃者が襲ってきた。
そうして翌朝、俺は岩棚の上で、がっくりと両手両膝を突いている。
触角ヘビ・・・。
それも3匹。
ORZのポーズなんて、ヒナが小さかった頃の”お馬さんゴッコ”以来だぞ。
何だよ、この森。
触角ヘビしか居ないのか?
文明回帰④です。
6匹目、捕食!
次回、3日目!




