文明回帰への一歩 ③
「あっ! コノヤロ!」
ケツを捲って逃げようとした蛇が枝から跳んで、地面へと落ちてきた。
即座に逃亡を図って、地表を滑るように蛇行しはじめる。
「クッソ! 意外と速ええ!」
俺も、ダッシュで蛇を追う。
尻尾を捕まえようとする俺の手を、するり、するり、と躱しやがる。
「うおおおおお! 俺の肉!!」
ほとんど四足歩行で、どたばたと蛇を追う。
猫じゃらしに襲いかかるネコみたいだな。
「つ、捕まえたぞ!」
左掌に収まった尻尾を力任せに握ったら、ミチッと鱗を貫いて、俺の指先が蛇の筋肉組織に食い込んだ。
蛇も痛かったろうが、俺も、ちょっとギョッとした。
ともあれ、ここまできて、この蛇を逃がすという手はない。
胴体を辿って、グイッ、グイッと手繰り寄せる。
蛇の胴体を掴むたびに、指先が肉に突き刺さり、グリップする。
「うおっ!?」
逃げられない、と悟ったのか、蛇の頸が跳ね上がって俺へと急反転してきた。
パックリと大きく開いた口内に鋭い牙を見るまで毒蛇だってことを忘れていて、慌てて仰け反る。
「フンッ!!」
顎を開いて迫る毒牙を躱して上体を退くと同時に、反射的に右フックを叩き込む。
ドン! と、重たい音がして、横っ面に衝撃を食らった蛇の顔が左へと弾かれ、動きが止まった。
左手は蛇の胴体をガッシリと掴んだままだから逃がさない。
刹那の一拍を置いて、俺に向き直ろうと再起動した蛇の鼻っ面に、地面へと叩きつける打ち下ろしの右ストレート。
地面と拳の間に挟まれた蛇の頭が拉げる。
グシャリ、と、固い物を打ち抜いた感触とともに、掴んだ蛇の胴体がビクビクと痙攣した。
引き抜いた右拳を再び振りかぶる。
左手を首に持ち替え、触角が萎びた頭へトドメの右拳をブチ込もうとして―――、止めた。
見下ろした蛇の頭が半ば潰れて、割れている。
びくん、びくん、と、痙攣を続けた後、のたうっていた長い体も弛緩する。
頭の中身がコンニチワしていても生き続けていられる生物なんて、ミミズかプラナリアぐらいのものだろう。
「・・・・・なんだこりゃ?」
俺の左右の拳には、肉片やら鱗やらが、へばり付いている。
まともに“入った”とはいえ、野生動物を“パンチ2発”で殺した・・・?
一番、身体にキレがあった十代の頃でも、こんな殺人パンチを打つことなんて出来なかったぞ。
出来ていたら、今頃、俺は大量殺人鬼で“塀の中”だったろう。
眉間に皺が寄る。
「待て待て、おかしいぞ」
そういえば、今朝から体調が良すぎた。
妙に体が軽くて、障害物があっても苦にならなかった。
昨日から蛇血と蛇肉しか口にしていないのに、段々、喉の渇きも感じなくなってきている気がする。
この惑星―――、いや、この世界の大気が、人体に良い効果をもたらすミネラルか何かを含んでいる可能性は、有る。
だが、昨日までの俺の生活との違いで、もっと端的に違うモノがある。
中木の枝に掛けられて血を搾られている、コイツだ。
一応、例によって蛇血で喉を潤すと、胃の辺りがホカホカするんだよ。
客観的に見て、原因は、「コレ」なんだろうなあ。たぶん。
人体に宜しくない有害な「何か」である可能性もゼロではない、とは思う。
サバイバルを生き抜く必要がある俺としては、歓迎すべき事態だろう。
日々の生命を維持する意味でも、トカゲとのリベンジマッチの意味でも、だ。
なによりも、今の俺にとって最優先の最終目標は、ヒナの元へ帰り着くことだ。
多少のリスクは甘受する意志は有る。
受け入れる気持ちは有っても、困惑しないわけじゃねえけどな。
文明回帰③です。
パワーアップ!?
次回、鍵!?




