クラン ⑥
足―――、か。利き腕にもよるが、体重を乗せて押し切る西洋剣術なら踏み込み側の足になるのか?
日本の剣道や剣術だと蹴り足だよな?
俺も詳しいわけじゃねえが剣士にとっては致命的だったんだろう。
体格も良いのに奴隷商人に抵抗しなかったのは、自信を失くしてるって感じかねぇ。
「私はリットです。ドワーフ族の鍛冶師見習いです。土属性と火属性の魔法が少し使えます。家事は・・・がんばります」
ヒゲ親父が誤解すると面倒くさそうだったから娘の方をじっくりと見ちゃあいなかったんだが、改めて向き合ってみれば濃い色の茶髪を三つ編みにした愛嬌のある顔立ちの小柄な娘だ。
鍛冶には興味が有っても家事には興味が無かったと。
まあ、若い内には、よく有るこった。
それにしても、ドワーフ族ってのは女の子でも逞しい腕をしてるんだな。
セクハラにならねえんだったら、そのうち腕相撲を挑んでみたい。
「ワシはロブウッドだ。ドワーフ族の鍛冶師。土属性と火属性が使えるのと、いくらかは鎚術で戦える」
「おお。そういや、ここ。小さいけど鍛冶場が有るらし―――」
「なんだと!?」
耳がキーンとした。
「「「「「・・・・・・」」」」」
このバカ親父。声、デケエんだよ。
倉庫内で山彦してるぞ。
お前の娘も含めて、みんな耳を押さえて痛そうな顔をしてるじゃねえか。
「んん、ゴホン。後で見せて貰おう」
誤魔化してるけど、反省しろ!
商人、農家の娘、負傷兵、鍛冶師、か。
バックアップ要員として考えても良さそうだが、どう使ったもんかねぇ。
まあ、後回しで良いか。
生活環境を整える方が優先順が高い。
「ヨーシ、自己紹介は終わりだ。各自、部屋決めと、衣服も含めた不足品のチェックに掛かれ。1時間後にもう一度集合しろ」
獣人族の3人は2階へと続く階段へと向かったが、ドワーフ族の父娘は一目散に早足で去って行った。
どうせ鍛冶場を探しに行ったんだろう。
この建物の鍛冶場は騒音対策なのか地下室に隔離されているらしいが、地下と鍛冶場とドワーフの組み合わせってイメージ通りなんだよなあ。
それぞれに行動を始めた背中を見送って木箱に腰掛けたままで居たら、俺と同じように腰掛けたままのケイナが、こてんと首を傾げる。
「部屋を決めに行かなくても良いんですか?」
「俺は寝られりゃ、どこでも良いよ」
遭難生活のお陰で、本当に何処ででも寝られるようになったしな。
この建物はケイナたちに遺していく生活拠点だ。
自分の部屋―――、プライベートスペースを持つって行為が、こっちの世界に長居する羽目に繋がりそうで気が進まねえ部分も有る。
縁起を担ぐ性分ではなかったんだが、俺も気弱になってんのかねえ?
ケイナに本音を話しにくい話題だから居心地が悪くなってきた。
「ケイナは?」
「テツさんと同じ部屋ですよね?」
行動起こそうとしないケイナに確認してみれば、「なに言ってるんですか?」とばかりに首を傾げられた。
「待て待て。おかしな誤解を受けるだろうが。山ほど部屋が有るっていうんだから自分の部屋で寝てくれ」
「じゃあ私も、どこでもいいです」
フイッと目を逸らしやがったな?
お前、俺の部屋で寝る気だろ。
俺はケイナに手を出すわけじゃねえんだし、ケイナが俺の部屋で寝ようが別に構わねえんだけどな。
実年齢で言えば倫理上は何の問題も無いわけだし、親と一緒に眠りたがる甘えん坊の子供も珍しくはねえ。
ケイナの安全にためには、俺と一緒に居るのが一番だってのも有るか。
仕方ねえな。
せめてベッドを2つ置ける部屋がないか後で見に行ってみよう。
ケイナがお茶を淹れたいと野営炊飯セットの袋を持って厨房へと行ったので、みんなが戻ってくるまでの間に直近の方針を考える。
第一に、ギルドが次の討伐依頼を纏めるまでの、ここ数日間で拠点の生活面を整備する。
第二に、拠点整備と同時に、郷へ持ち帰ってやる食糧や道具類の購入だ。
第三に、俺とケイナが討伐依頼で不在の間の、拠点メンバーの仕事を与える必要がある。
俺とケイナが郷を離れて、もう1ヶ月になる。
懸案だったドワーフ族も見つかった。
そろそろ一度郷へ戻ってレイクスと情報交換がしたいんだよなあ。
具体的には、魔法道具関連の開発を進めたい。
郷までの往復には、森から出たときの寄り道を差し引いて考えれば、推定、片道10日。
往復のトータル20日程度は見込んでおく必要があるだろう。
討伐依頼の遠征にかまけて既存冒険者の育成が進んでいない現状、討伐依頼以外での不在は言い出しにくい。
魔獣素材や食肉の供給という面では貢献と実績を積めつつ有るだろう。
しかし、こちらの勝手を押し通すには、その程度の貢献ではカードとして軽い。
この辺りは、俺が日本人感覚で勝手に邪推しているだけで、誰に何を言われたわけでもねえんだけどな。
実力がある冒険者パーティーが1つでも流入して来れば、ひっくり返されてもおかしくない程度の貢献でしかねえだろう。
まだギルドにも郷の存在を知られたくないし、下手に依頼を断ってこちらの腹を探られるのも良くねえな。
新メンバーたちも冒険者登録させて、予備戦力として派遣できるようにしておくべきか?
うーん、と唸っていると、目の前に湯気が立つカップが差し出された。
「ケイナは、どう思う?」
「うーん・・・」
いま考えていたことを話すと、ケイナまで唸りはじめてしまった。うーん。
クラン⑥です。
生活拠点!
今度こそ買い出し!?




