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第25話 みんなの帰る場所 後編

また土曜日更新間に合わなかったです

しばらく続いていた拍手と歓声も、少しずつ落ち着いていった。


 モカはまだ照れくさそうに笑っている。


 そんなモカを見ながら、まおがパンッと一度手を叩いた。


「さて! せっかくどら猫商店の拠点も決まったことですし、他の問題もみんなで話しません?」


「他の問題?」


 ドラがきょとんと首をかしげる。


「なんか問題なんてあるか?」


 本当に分かっていない顔だ。


「モカの家、壊れたままだろ?」


 レオが呆れたように言った。


「あ……」


 ドラの口がぽかんと開く。


「あ……」


 なぜからいがも声を漏らした。


「オレ……さっき『全部解決じゃん!』って叫んでた……」


 らいがが恥ずかしそうに両手で顔を隠す。


「ちょっと早かったね」


 らいねが慰めるように、らいがの肩をぽんぽんと叩いた。





「くくっ……」


「あはは……」


 あちこちから小さな笑い声が聞こえる。


 確かに、まだ全部解決したわけじゃなかった。


「でも、あんなに立派な家……俺たちじゃ直せないぞ?」


 むねゆきがシュンとしながら言った。


 ぼくもモカの家を思い出す。


 猿たちに荒らされて、壁や扉もひどい状態だった。


 ちょっと板を打ちつければ終わり、という感じじゃない。


「確かに……」


 にゃーとんさんが眼鏡をくいっと上げる。


「これから長く拠点として使わせてもらうのでしたら、私たちだけで直すより、きちんとした方にお願いした方がよさそうですね」


 そして、ぼくたちを見回した。


「皆さん、どなたかお願いできそうな方はいませんか?」


「家を直せそうな知り合いかぁ……」


 ドラが腕を組む。





 ぼくも一緒に考えてみる。


 誰かいたような……。


 こういうことが得意そうな人……。


 絶対に誰か知ってる気がする。


 でも、出てこない。


 うーん……。


 なんだ、この頭の中がムズムズする感じ。


「げんさんにお願いしてみるのはどう?」


 せいかが何気なく言った。


「それだ!!」


「それだ!!」


 ぼくとドラの声が見事に重なった。


「…………」


 思わずドラと顔を見合わせる。


 なんだか恥ずかしい。





「げんさんって、どなたですか?」


 モカが不思議そうにせいかへ尋ねた。


「げんさんは、ドラとレオが生まれた村の大工さんなんだよ」


 せいかが優しく説明する。


「前に私の燻製器も作ってくれたの。すごく立派なものを作ってくれたんだよ!」


「確かに、あの方に頼めるなら間違いないですよね」


 ひかりも納得したように頷いた。


「でも……」


 レオが少し心配そうにモカを見る。


「会ったこともない人に、自分の家を直されるのは嫌じゃないか?」


「大丈夫です!」


 モカは迷うことなく答えた。


「みなさんが信頼している方なら、私は何にも心配してないです!」


 その言葉に、ぼくは少しうれしくなった。


 げんさんを信じているだけじゃない。


 ぼくたちのことを信じてくれている。


 そんな気がしたからだ。





「では、決まりですね」


 まおが笑顔でみんなを見る。


「げんさんに声を掛けてみましょう!」


「おー!」


 みんなの声が夜のキャンプ地に響いた。


「あ!」


 突然、ひかりが大きな声を出した。


「ひゃっ!」


 横に座っていたらいねがびくっと体を震わせる。


「ど、どうしました?」


「そういえば!」


 ひかりは何かを思い出したように立ち上がった。


「ニコラスに書いた手紙! まだ返事が来てません!」





「ああ……」


 セバスチャンが思い出したように頷く。


「モカの家に来た『銀の鈴』っていう冒険者チームのことか?」


「それです!」


 ひかりがビシッとセバスチャンへ人差し指を向ける。


「げんさんに会いに村へ戻るなら、直接ニコラスに聞いてみてもいいかもしれませんね」


「確かに……」


 ぼくも頷いた。


 モカの家をどら猫商店の拠点にするなら、銀の鈴のことを放っておくわけにはいかない。


 またモカのところへ来るかもしれないんだ。


 何を考えているのかくらいは、ちゃんと確認しておいた方がいい。





「じゃあ、家については動きが決まったとして……」


 むねゆきが指を一本立てる。


「次は研究の資金だよな」


 みんなが揃って頷いた。


「商品を売っていこうって決めたけど……」


 ぼくはにゃーとんさんを見る。


「実際、すぐに売れそうなものって何かある?」


「そうですね……」


 にゃーとんさんは顎に手を当てて考える。


 そして、すぐに眼鏡をくいっと上げた。


「陽だまりの実を使ったジュースなら、すぐに作れると思いますよ?」


「あ!」


 モカが元気よく手を上げた。


「ジュースなら私も作ったことがあります! 手伝えると思います!」


「しかも回復効果も期待できます……」





 にゃーとんさんの口元が、にやりと上がる。


「これは売れますよ~」


「悪い顔してる……」


 せいかが小さく呟いた。


 ぼくも同じことを思った。


「……でも」


 その時、ひかりが静かに口を開いた。


「回復薬として売るのは、やめた方がいいと思う」


「どうして?」


 せいかが不思議そうに聞く。


 ぼくたちも一斉にひかりを見た。


「みんな、考えてみて」


 ひかりの表情が真剣になる。


「教会が世界中から信頼されている大きな理由は、ケガや病気を治療できるからでしょ?」


「うん……」


「そこへ突然、誰でも簡単に体を回復できる飲み物が出てきたら……どうなると思う?」


 さっきまで明るかった空気が少し重くなる。





「……邪魔だよな」


 セバスチャンが低い声で呟いた。


「え?」


 モカの表情が曇る。


「自分たちの立場を脅かすものだと思われる可能性があるってことだ」


 セバスチャンが続けた。


「そして、何としてもその飲み物がどこで作られているのか調べようとするでしょうね」


 まおも暗い表情で言う。


 その言葉を聞いた瞬間、ぼくは陽だまりの森を思い浮かべた。


 この場所が知られたら。


 モカのことまで知られたら。


 背中がぞくっとした。


「だから、回復薬としての商品化は絶対にしない方がいいと思うの」


 ひかりが静かに言った。


 誰も反論できなかった。





 モカをここに残すと決めた以上、この場所を危険にさらすわけにはいかない。


 絶対に居場所がばれるようなことはしちゃだめだ。


「でも……」


 にゃーとんさんが困ったように眼鏡を直す。


「今すぐ商品にできそうなものは、他にありませんよ?」


 また全員が考え込む。


 その時、ぼくはふと思った。


「だったらさ」


 みんながぼくを見る。


「普通のジュースとして売ったらどうかな?」


「普通の?」


 ドラが首をかしげる。


「うん。回復薬なんて言わないで、ただの美味しいジュースとして売るんだよ」


 ぼくはモカを見る。


「僕、何回か飲んだことあるけど……すごくおいしいんだよね」






 その瞬間。


 モカの顔がぱっと明るくなった。


「はい!」


 うれしそうに大きく頷く。


「おじさんの作った陽だまりのジュース、本当においしいんですよ!」


 さっきまで重かった空気に、少しだけ明るさが戻った。


「私も、こうたさんの意見に賛成です」


 まおが静かに手を上げた。


 みんなの視線が集まる。


「今の私たちに必要なのは、研究を続けるためのお金と物資です」


 そこで一度、ひかりを見る。


「でも、そのためにモカさんを危険にさらしてしまったら意味がありません」


「うん……」


 モカが真剣な顔で頷いた。


「ですから、陽だまりの実が持つ回復の力については伏せておく。そして、まずは普通のジュースとして売ってみるんです」


 まおが陽だまりの実を思い浮かべるように手を広げる。





「それなら今すぐ始められます。それに、陽だまりの実そのものが商品として受け入れられるのかも確かめられます」


「なるほど……」


 レオが納得したように何度も頷いた。


「最初から『すごい回復薬です!』って大々的に売る必要はないってことか」


「そういうことです」


 まおが笑う。


「確かに」


 せいかも頷いた。


「今は無理にたくさんお金を稼ごうとするより、少しずつ研究を続けられる環境を作る方が大事だよね」


 そうだ。


 一気に何もかも解決しようとしなくていいんだ。


 できることから少しずつ。


 それでいいのかもしれない。


「そうなるとよ」


 むねゆきが腕を組む。


「本当にジュースとして売れるのか、一回どっかで試してみたいよな」






「あ、それいいね!」


 ぼくも思わず声を上げる。


 ぼくらがおいしいと思っていても、他の猫たちが同じように思うとは限らない。


 まずは飲んでもらう必要がある。


「この辺で猫さんたちがたくさん集まる場所とかないのか?」


 らいがが隣のらいねを見る。


「私だってこの辺りのことは知らないよ」


 らいねが真顔で返した。


「そ、そうだよな……」


 らいがの耳がぺたんと下がる。


「確か……」


 その時、セバスチャンが静かに口を開いた。


「ここから少し離れたところに、『エンタメの郷』と呼ばれている町があったはずだ」


「エンタメの郷!?」


 ドラが食いついた。





 目が一気にきらきらと輝く。


「なんて楽しそうな町なんだよ!」


「遊びに行くんじゃないんですよ」


 ひかりが笑いながらすぐに突っ込んだ。


「いや、でも気になるだろ! エンタメだぞ!? 絶対なんか楽しいものあるって!」


「ジュースを売りに行く話です」


「分かってるって!」


 絶対分かってない顔だった。


 でも、ドラの気持ちも少し分かる。


 エンタメの郷。


 名前からして、なんだかわくわくする。


「どんな町なんですか?」


 モカも少し興味がありそうに尋ねた。


「詳しくは知らない」


 セバスチャンが首を振る。





「ただ、たくさんの猫が住んでる町だと聞いたことがある」


「それならちょうどいいじゃん!」


 むねゆきが声を上げる。


「猫が多いなら、ジュースを試してもらうにはぴったりだ!」


 ぼくは自然と笑顔になった。


「じゃあ……次はエンタメの郷かな?」


 その言葉に、ドラが誰よりも早く拳を突き上げた。


「よっしゃー! 遊びに行くぞー!」


「だから仕事だって!!」


 レオとひかりの突っ込みが同時に飛び、キャンプ地にみんなの笑い声が響いた。





「ちょっと待ってください……」


 突然、らいがが弱々しい声を出した。


 見ると、両手で頭を抱えて今にも泣きそうな顔をしている。


「やることがいっぱいあって……混乱してきました……」


「えーっと……」


 ドラが指を一本立てた。


「まず村に戻って、モカの家のことをげんさんに頼むだろ?」


「それからニコラスに『銀の鈴』について確認だな」


 レオが二本目の指を立てる。


「その次にエンタメの郷へ行って、陽だまりのジュースが売れるか調べる」


 むねゆきが三本目を立てた。


「私は、できるだけ早く研究を再開したいです」


 にゃーとんさんが眼鏡をくいっと上げる。


「陽だまりの木のお世話もしないと……」


 モカも心配そうに続けた。






「…………」


 みんなが黙る。


 ぼくも頭の中で整理してみた。


 げんさん。


 ニコラス。


 エンタメの郷。


 研究。


 陽だまりの森。


 ……確かに多い。


 しかも、どれも後回しにしていいことじゃない。


「順番に回っていたら、それだけでかなり日数を使うぞ」


 セバスチャンがため息交じりに言った。


「だよなぁ……」


 ドラが頭を抱える。


「一体どうすればいいんだ??」


 また全員で考え込む。





 うーん。


 全部やらなきゃいけない。


 でも、一つずつやっていたら時間がかかる。


 どうすれば……。


「……分かれて動きません?」


 ひかりが静かに言った。


「え?」


 ぼくは思わず聞き返す。


「どういうこと?」


 他のみんなも、一斉にひかりを見る。


 ひかりは落ち着いた顔で、指を三本立てた。


「村へ行く人」


 一つ目。


「エンタメの郷へ行く人」


 二つ目。


「そして、ここに残って研究と陽だまりの森のお世話をする人」


 三つ目。


「三つの組に分かれて同時に動けば、全部いっぺんに進められます」


「…………」


 一瞬、静まり返る。






 そして――。


「うぉぉぉーーー! すげーーーー!!」


 ドラが立ち上がった。


「確かにその通りだよ! 分かれればいいんだよな!」


 むねゆきも目を輝かせる。


「ひかりさん天才じゃん!」


 らいがまで感動したように叫んだ。


「いや……」


 ひかりが少しずつ身を引く。


「そんな大したことは……」


「すげー!」


「それなら全部できるぞ!」


「さすがひかりさんです!」


 予想以上の大絶賛だった。


「ハ、ハハハ……」


 ひかりは困ったように笑う。


 さっきまで自信満々だったのに、今度は逆にみんなの勢いに押されていた。


 その姿がおかしくて、ぼくたちはまた笑った。





「じゃあ次は、誰がどこに行くか決めないとな」


 レオが笑いながら言う。


「じゃあ、私たちは留守番チームですね」


 にゃーとんさんがモカの顔を見ながら言った。


「はい!」


 モカも元気よく頷く。


「陽だまりの木のお世話をしながら、新しい商品にできそうなものがないか、にゃーとんさんと一緒に考えておきますね!」


「お任せください!」


 にゃーとんさんも自信満々に胸を張った。


「だったら、私たちも残った方がよさそうね」


 まおがセバスチャンを見る。


「え? なんでですか??」


 にゃーとんさんが本当に分からないという顔で首をかしげた。


 するとセバスチャンが、ものすごく冷たい目を向ける。


「お前が暴走して、モカの家を吹っ飛ばさないように監視が必要だろ?」





「なっ!?」


 にゃーとんさんの目が大きくなる。


「あとは、護衛も兼ねてね」


 まおが空気を戻すように明るく付け足した。


「まったく……心配しすぎですよ。私だって昔とは――」


「キッ!」


「ア、アハハ……」


 まおにひと睨みされ、にゃーとんさんが静かになった。


 ……昔、いったい何回くらい失敗したんだろう。


 ちょっとだけ気になったけど、聞かない方がよさそうだ。


「だったら俺たちは、げんさんのところに行くか!」


 レオがドラを見る。


「そうだな。ついでに母ちゃんにも一回会っとくか」


 ドラはやれやれという感じで頭をかいた。


 なんだかんだ言って、ちょっとうれしそうに見える。





「私もついて行きます!」


 ひかりが手を上げた。


「ニコラスに『銀の鈴』のことも聞きたいですしね」


ちらっとせいかを見る。


気づいたせいかが、優しく笑った。


「一緒について行ったら? らいこう様が心配なんでしょ?」


「はい! ありがとうございます!」


 らいねはうれしそうに頭を下げた。


 そういえば村に戻るなら、村長さんや藤さんにも顔を出してもらおう。


 ぼくたちが元気だってことも伝えてほしいし。


「じゃあ……」


 むねゆきが残った顔ぶれを見回す。


「余りチームでエンタメの郷だな!」


「余りって言うなよ!」


 思わず突っ込んでしまった。





「俺はこうたから離れないから安心してくれ!」


 らいががぼくの肩をガシッとつかむ。


「え?」


 ぼくはらいがの顔をじーっと見た。


「な、なんだよ?」


「本当は、らいこう様や藤さんに会うのが怖いだけだろ?」


「ぐぬぬぬぬ……!」


 らいがの顔が引きつる。


「図星なんだ……」


 せいかがくすっと笑った。


「ち、違うぞ! 俺はこうたの護衛としてだな!」


「はいはい」


「信じてないだろ!?」


「あはははは!」


 みんなの笑い声が夜の森に響いた。





「よし!」


 ドラが勢いよく立ち上がる。


「これで、みんなの動き方も決まったな!」


 留守番は、モカ、にゃーとんさん、まお、セバスチャン。


 村へ向かうのは、ドラ、レオ、ひかり、らいね。


 そしてエンタメの郷へ向かうのは、ぼく、せいか、むねゆき、らいが。


「みなさん」


 まおがぼくたちを見回した。


「それぞれ大変だと思いますが、絶対に無理はしないでくださいね」


 その声に、さっきまで騒いでいたみんなが静かになる。


「そして、やるべきことが終わったら……またみんなでここに戻ってきましょう!」


「おーーー!!」


 全員の声が森の中に響き渡った。


 ぼくも拳を高く上げる。





 だけど、胸の奥には少しだけ緊張があった。


 エンタメの郷へ行くのは、ぼくたち四人だけ。


 むねゆきがいるとはいえ、今までみたいに大勢で行動するわけじゃない。


 それに、どんな町なのかもまだ分からない。


 ぼくは隣にいるせいかをちらっと見る。


 せいかは楽しみなのか、少しだけ笑っていた。


 ――しっかりしないと。


 何があっても、せいかを守る。


 今までより少ない人数だからこそ、ぼくがもっと強くならなきゃいけない。


 みんなの楽しそうな声を聞きながら、ぼくは心の中でもう一度そう決意した。

最後まで読んでいただいてありがとうございます!


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