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第24話 守りたい場所 後編

「はぁー!!」


 ぼくは両手で木刀を握り、むねゆきへ打ち込んだ。


 カンッ!


 乾いた音が朝のキャンプ地に響く。


 だけど、むねゆきは少しも慌てていない。ぼくの木刀を、自分の木刀で簡単に受け止めていた。


「まだまだ!」


 ぼくはすぐに木刀を引き、もう一度踏み込む。


 カン! カン! カン!


 右から、左から、もう一度右から。


 続けて攻撃しても、むねゆきは余裕の表情で全部受け止めてしまう。


「がんばれーー!」


「そこです! いけーー!」


 少し離れた場所から、らいがとらいねの声が飛んでくる。


「もっと木刀の間合いを考えて!」


 むねゆきがぼくの攻撃を受けながら叫んだ。





「相手だけを見るな! 木刀の先まで意識するんだ!」


「はい!」


 ぼくは一度後ろへ下がり、息を整えた。


 むねゆきとの距離を見る。


 近すぎてもだめ。


 遠すぎても木刀が届かない。


 びゃくや先生の授業でも、間合いは大切だと言われた。


 ぼくは地面を強く蹴る。


「うりゃーーー!」


 カンカンカンカンッ!


 今度は足を止めずに攻撃を続けた。


「おっ!」


 むねゆきの目が少しだけ大きくなる。


 それでも、ぼくの木刀は一度もむねゆきへ届かなかった。


「よし! 今日はこれくらいにしておこう!」


 むねゆきが木刀を下ろした。





「はぁ……はぁ……。」


 ぼくも木刀を下ろし、乱れた息を整える。


「ありがとうございました!」


 今日の朝の訓練で相手をしてくれたむねゆきへ、深く頭を下げた。


「まだまだ、むねゆきには勝てないな!」


 ドラが楽しそうに笑う。


「いや、むねゆき相手によくやってるよ!」


 レオがぼくの肩を軽くたたいた。


「そうそう。どんどん良くなってるぞ!」


 むねゆきも笑顔で言ってくれる。


「本当?」


「ああ。さっきの最後の攻撃は悪くなかった。」


 勝てなかったのは悔しい。


 だけど、少しずつでも強くなれているなら、もっと頑張ろうと思えた。





「おっ! やってるな!」


 後ろから声が聞こえた。


 振り返ると、セバスチャンがこちらへ歩いてくるところだった。


「おはよう!」


 ぼくは手を振る。


「にゃーとんさんとは話できた?」


「まーな。」


 セバスチャンは素っ気なく答えた。


 だけど、その目の下には少しだけ疲れが見える。きっと昨夜は遅くまで話していたんだろう。


「みんな、昨日はありがとうな。」


 セバスチャンが苦笑いを浮かべる。


「深く詮索されないで、正直助かった。」


「気にするな!」


 むねゆきが木刀を肩に担ぐ。


「何か事情があるんだろ?」


「ああ。」


 セバスチャンの表情から笑みが消えた。





「話してしまうと、みんなも狙われるかもしれない。」


 真剣な目で、ぼくたちを見回す。


「それだけは、どうしても避けたいんだ。」


 さっきまで明るかった空気が、一瞬で静かになった。


 朝の風が草を揺らす音だけが聞こえる。


 狙われる。


 その言葉が、ぼくの胸に重く残った。


 まおとセバスチャンは、ぼくたちが思っているよりも、ずっと危険な事情を抱えているのかもしれない。


「無理には聞かないよ。」


 ぼくはセバスチャンを見上げた。


「でも、あんまり抱え込みすぎるなよ?」


 セバスチャンは少し驚いた顔をした。


 それから、いつものように笑う。


「ありがとう。」





 そして、パンッと両手をたたいた。


「よし! 明日は俺と修行しよう!」


「えっ?」


 急に話が変わり、ぼくは目を丸くした。


 セバスチャンは不敵に笑いながら、ぼくの肩へ手を置く。


「俺はむねゆきみたいに優しくないぞ?」


「お、お手柔らかにお願いします……。」


 明日の自分を想像して、少し怖くなった。


「ビシバシ鍛えてやってくれ!」


 ドラが楽しそうに声を上げる。


「ドラも一緒にやるか?」


 セバスチャンが聞くと、ドラはすぐに目をそらした。


「いや、オレは応援係だから。」


「逃げたな。」


 レオの突っ込みに、みんなが笑い出す。





「みなさーん! そろそろ朝ごはんにしますよー!」


 キャンプ地の奥から、モカの声が聞こえた。


 見ると、モカの隣にはせいか、まお、ひかりがいる。にゃーとんも、まだ少しぼろぼろの姿のまま、申し訳なさそうに立っていた。


「朝ごはんだ!」


 らいががうれしそうに走り出す。


「待ってください!」


 らいねもその後を追いかけた。


 ぼくたちも木刀を片づけ、横一列に並んで歩き始める。


 朝ごはんのいい匂いが、風に乗って漂ってきた。


 みんなと合流したぼくたちは、朝ごはんが並べられた場所へ向かった。


 すでに、にゃーとんも席についている。


「おはようございます。」


 ぼくが軽く頭を下げると、にゃーとんも丁寧に頭を下げた。


「おはようございます、こうたさん。」


 昨日までボロボロだった服はそのままだけど、顔は少し元気になったように見えた。





 女性チームがほとんど準備を終わらせてくれていたので、ぼくたちが手伝うことはあまりなさそうだった。


 今日の朝ごはんは、せいかが作った魚の干物を焼いたものと、ふわふわの卵焼き。それに、炊きたてのごはんと漬物だ。


 魚の皮はこんがり焼けていて、いい匂いがする。


 卵焼きもきれいな黄色で、見るからにやわらかそうだった。


 いつも通り、とてもおいしそうだ。


「それじゃあ、いただきま――」


「ちょっとよろしいでしょうか?」


 ぼくたちが食べ始めようとした時、にゃーとんが遠慮がちに手を上げた。


 みんなの視線が集まる。


 にゃーとんは背筋を伸ばすと、深く頭を下げた。


「昨日は、お騒がせして申し訳ありませんでした。」


「ずっと探していた、まおー様に――」


「まお!」


 まおが間髪を入れずに訂正した。


 にゃーとんは口を開けたまま固まる。


「……まお様にお会いできて、少し取り乱してしまいました。」


 言い直したにゃーとんは、ばつが悪そうに眼鏡を直した。





「ずっと探していたんだから仕方ないよ!」


 ひかりが明るく笑う。


「それにしても、すごい偶然だったね。こんな場所で会えるなんて。」


「俺たちは何も気にしてないから大丈夫だぞ?」


 ドラも笑顔で続けた。


「ありがとうございます。そう言っていただけるとありがたいです。」


 にゃーとんは、もう一度深く頭を下げる。


 その隣に座っていたまおも、安心したように優しくほほ笑んでいた。


「さあ、せっかく準備してもらったのに、冷めちゃいますよ?」


 まおが両手を合わせる。


「いただきましょう。」


「いただきます!」


 みんなが一斉に朝ごはんを食べ始めた。


 ぼくも焼き魚を一口食べる。


 皮はぱりっとしていて、中はふっくらしていた。





「おいしい!」


「本当? よかった。」


 せいかがうれしそうに笑う。


 隣では、らいがとらいねが卵焼きを夢中で食べていた。


「ふわふわだ!」


「甘くておいしいです!」


 そんな中、にゃーとんの食事をする手が、ふっと止まった。


「どうかしましたか?」


 モカが心配そうに尋ねる。


「何か苦手なものがありましたか?」


 にゃーとんは無言で首を横に振った。


 そして、手にしたおわんを見つめる。


「こんな温かい食事……いつぶりでしょう。」


 もう一度ごはんを口に運び、静かに笑った。


「とてもおいしいです。」





 にゃーとんは、ふっと空を見上げた。


「昨日まで、まお様を探して、当てのない旅を続けていました。」


「どこかできっと生きていらっしゃる。そう自分に言い聞かせながら、ずっと歩いてきました。」


「ちょっと、いきなり何?」


 まおが照れくさそうに耳を伏せる。


 でも、にゃーとんは話を続けた。


「こうして再び、まお様と同じ食卓を囲めるとは思っていませんでした。」


「しかも、このような温かい仲間の皆さんとご一緒できるなんて……。」


 にゃーとんの声が少し震える。


「私は幸せです。」


 辺りが静かになった。


 ぼくは、にゃーとんがこれまで歩いてきた道を想像した。


 一人で眠り、一人で食べ物を探し、どこにいるのかも分からないまおを探し続けた。


 何度もあきらめそうになったはずだ。


 それでも、にゃーとんは歩き続けたんだ。





「まお様。」


 にゃーとんは目を潤ませながら、隣を見る。


「素敵な仲間に出会われたのですね。」


 まおはぼくたちの顔を順番に見回した。


 そして、満面の笑みで答える。


「うん!」


 ぼくの胸まで、じんわりと温かくなった。


「ところで……。」


 にゃーとんが突然、眼鏡を光らせる。


「聞けば、この近くに研究施設があるとか!」


「え?」


 さっきまで涙を浮かべていたとは思えないほど、その目はきらきらと輝いていた。





「どのような研究を?」


「設備は残っていますか?」


「研究資料の量は?」


「研究はどなたがやられてるのですか!?」


 にゃーとんは身を乗り出し、ものすごい勢いで質問を始めた。


 ぼくたちはあまりの変わりように、ぽかんとする。


 さっきまでの感動はどこへ行ったんだろう。


 まおは恥ずかしそうに顔を手で隠した。


「この方……実は研究者なんです。」


「え? 研究者!?」


 ぼくたちはそろって声を上げた。


 確かに、にゃーとんは少し変わっていると思っていた。だけど、まさか研究者だったなんて。





「おじさんと同じ研究者……。」


 モカが小さくつぶやく。


「いやいや、モカさん。」


 まおが困ったように笑いながら手を振った。


「にゃーとんは、シトロンさんみたいに立派な研究者ではないと思いますよ?」


「な……何をおっしゃいます、まおー――」


「まお!」


 まおが間髪を入れずに訂正する。


「……まお様。」


 にゃーとんは耳をぺたんと下げ、しゅんとしてしまった。


「確かに、変わったものばかり作っていたな……。」


 セバスチャンが遠い目をする。


「食料問題を解決すると言って、農園を爆発させたり……。」


 まおが指を一本立てた。


「天気を操ると言って、黒い雨を降らせたり……。」


 セバスチャンも指を立てる。


「池の水から、ものすごく人なつっこい植物を生やしたり……。」


 まおは疲れ切った顔で続けた。





「人なつっこい植物?」


 らいねが首をかしげる。


「近づいた者に抱きついて、三日間離れなかった。」


 セバスチャンの答えに、みんなの顔が引きつった。


「数えだしたらキリがありません…」


 まおがため息交じりで話す。


「いやはや、若気の至りです。」


 にゃーとんは照れくさそうに眼鏡を直す。


 その後ろで、まおとセバスチャンが信じられないものを見る顔をしていた。


 きっと、後片づけは大変だったんだろうな。


 ぼくは二人に同情しながら苦笑いした。


「とにかく!!」


 にゃーとんが急に立ち上がった。


 モカの方を向き、真剣な表情になる。


「同じ研究者として、その施設にとても興味があります。」


 そして、今度は優しくほほ笑んだ。


「一度、見せてもらえませんか?」






「俺も行きたい!」


 ドラが勢いよく手を挙げる。


「確かに、陽だまりの木の森なんて想像もつかないもんな。」


 むねゆきも興味深そうにうなずいた。


「モカ、どうする?」


 せいかが優しく尋ねる。


 モカは少しだけ視線を落とした。


 両親とシトロンさんが残した、大切な場所だ。簡単に決められないのかもしれない。


 だけど、しばらく考えたあと、モカは元気よく顔を上げた。


「はい! 一度、皆さんで見てみてください!」


「よっしゃー!」


 ドラとむねゆきが同時に喜ぶ。


 にゃーとんは目をきらきらさせ、すでに落ち着きをなくしていた。


「俺も行って大丈夫か?」


 らいがが少し不安そうに、ぼくへ尋ねる。


「はしゃいで、枝とか折るなよ?」


 ぼくがいたずらっぽく笑うと、らいがは胸を張った。


「折らないよ!」


「本当ですか?」


 らいねが疑うように見上げる。


 そのやり取りに、みんなが笑い出した。


 こうして朝ごはんを食べ終えたあと、ぼくたちは全員で陽だまりの森へ向かうことになった。






 ぼくたちは隠し通路を抜け、陽だまりの森へやって来た。


「おぉー!」


 ドラが辺りを見回しながら声を上げる。


「この隠し扉はすげぇな!」


 レオも何度もうなずいていた。


「まさか、あんな書斎の奥にこんな場所があるなんてな。」


 むねゆきもまだ興奮が冷めない様子で、入口を何度も振り返っている。


普段は落ち着いているセバスチャンも、森を見渡して目を丸くしていた。


「……これは驚いた。」


 その一言だけだったけど、本当にびっくりしているのが伝わってきた。


「ここが陽だまりの森……。」


 らいががぽかんと口を開ける。


 やわらかな光が木々の間から差し込み、森全体が金色に輝いていた。


「空気が気持ちいいです。」


 らいねは大きく深呼吸をして、うれしそうに笑う。






「見事な環境ですね……。」


 にゃーとんは木々をじっくり見回しながら、感心したようにつぶやいた。


 ぼくたちは森をゆっくり歩き、一通り見て回った。


 そして、昨日も来た小屋の前へ集まる。


 モカが大事そうに鍵を取り出した。


 カチャリ。


 静かな音を立てて扉が開く。


 中には昨日見たままの景色が広がっていた。


 大きな机。


 壁に並んだ工具。


 そして、あちこちに積み重なったり散らばったりしている研究資料。


「相変わらず、すごい量ね……。」


 ひかりが思わずつぶやく。


 その時だった。


 にゃーとんが近くへ落ちていた一枚の資料をそっと拾い上げる。





 じっと目を通し、小さく息をのんだ。


「これは……。」


 その表情が一気に真剣になる。


 続いて机の上に置かれていた一冊のノートへ手を伸ばした。


 でも、すぐには開かない。


 モカの方を向いて、丁寧に頭を下げた。


「拝見しても?」


 眼鏡の奥の目が、子どものようにきらきら輝いている。


 モカは静かにうなずいた。


「どうぞ……。」


「ありがとうございます。」


 にゃーとんは大切そうにノートを開いた。


 ペラ……。


 ページを一枚めくる。


 また一枚。


 さらに一枚。





「素晴らしい……。」


 思わず声が漏れる。


「なんて柔軟な発想だ……。」


 ページをめくるたびに感心している。


 部屋のみんなも、自然と静かになっていた。


 しばらくして、にゃーとんはそっとノートを閉じた。


 そして、まっすぐモカを見る。


「私はこれまで、数々の研究者に会ってきました。」


 真剣な声だった。


「ですが……。」


 一度言葉を切る。


「この方ほど、誰かの幸せを考えた研究は見たことありません!」


 さっきまで資料を見ていた時以上に、目が輝いていた。


「この研究は、自分のためではありません。」


「未来を生きる誰かの笑顔のために書かれています。」


 モカはその言葉を聞き、うれしそうに笑った。


 少し照れくさそうだったけど、とても誇らしそうな笑顔だった。





 にゃーとんはノートを両手で持ち、モカへ差し出す。


「この研究は、これから生きる者にとって宝です。」


 優しい声で続ける。


「どうか、大事にしてあげてください。」


 モカは両手でノートを受け取り、ぎゅっと胸に抱きしめた。


「はい。」


 力強く返事をする。


 その様子を見ていたぼくは、ふとにゃーとんの横顔を見た。


 笑っている。


 でも、その笑顔の奥に、ほんの少しだけ寂しさが見えた気がした。


 それは、大切な研究者を心から尊敬している人だけが浮かべる表情のように、ぼくには思えた。


 にゃーとんからノートを受け取ったモカは、その表紙へ目を落とした。


 何度も使われたのだろう。


 表紙は少しすり切れ、はしの方には小さな汚れも残っている。


 モカは、その一つ一つを確かめるように、指でそっとなぞった。






「私……。」


 静かな声が小屋の中に響く。


「おじさんの研究について、実はほとんど分からないんです……。」


 モカはうつむいたまま、ノートをぎゅっと抱きしめた。


 その表情は悲しそうというより、どこか悔しそうだった。


「でも……。」


 モカはゆっくり顔を上げる。


「おじさんが、どれだけ一生懸命この研究をしていたのかは分かります!」


 今度の声は、さっきよりも力強かった。


 机の上に積み重なった資料。


 何度も書き直された文字。


 使い込まれた道具。


 この小屋にあるすべてが、シトロンさんの努力を伝えているように見えた。


「だから余計に悔しいんです……。」


 モカは唇をきゅっと結ぶ。






「おじさんの熱意は分かるのに、その内容が分からないことが悔しいんです。」


 そして、にゃーとんをまっすぐ見つめた。


「にゃーとんさんに、お願いがあります。」


「私に……ですか?」


 にゃーとんが目を丸くする。


 モカは一歩前へ出ると、深く頭を下げた。


「どうか、おじさんの研究を、これから一緒に手伝ってもらえませんか?」


「え……。」


 にゃーとんの口から、かすかな声が漏れる。


「にゃーとんさんは、おじさんの研究を『すごい』と言ってくれました。」


 モカは頭を下げたまま続けた。


「本当にうれしかったんです!」


「そんなことを言ってくださるにゃーとんさんと、一緒におじさんの研究を続けたいんです!」


 モカはさらに深く頭を下げる。


「お願いします!」





 突然の提案に、にゃーとんは完全に言葉を失っていた。


 眼鏡の奥の目を大きく見開き、モカをじっと見つめている。


 それから、助けを求めるように、ちらりとまおの方を見た。


 まおは少しだけ困ったように笑った。


 でも、すぐに「仕方ないですね」と言うように、優しくうなずく。


「……本当は。」


 にゃーとんが小さくつぶやいた。


「私も、この研究をもっと知りたいと思っていました。」


 ノートを抱くモカを見ながら、ゆっくりと言葉を続ける。


「シトロン殿が、どのような考えでこの研究を積み重ねてきたのか。」


「もっと知りたい。」


「できることなら、私も携わりたい……と。」


 にゃーとんは少し困ったように笑った。


「ですが、それを私から申し上げるのは違うと思っていたのです。」


 モカが不思議そうに顔を上げる。






「これは、シトロン殿が残された大切な研究です。」


「そのご家族であるモカさんの気持ちを差し置いて、私がでしゃばることはできませんでした。」


 にゃーとんは改めて、モカと向き合った。


「ですから……。」


 声が少し震える。


「モカ様のご提案、本当にうれしいです……。」


 一つ一つの言葉を、心の中でかみしめているようだった。


 そして、にゃーとんは背筋を伸ばすと、モカへ深く頭を下げた。


「シトロン殿の想いを未来へ届ける活動、ぜひ私にもお手伝いさせてください。」


「ありがとうございます!」


 モカの顔が、ぱっと明るくなる。


「よろしくお願いします!」


 小屋の中へ差し込む陽の光が、モカの笑顔を優しく照らした。


 その瞬間、ぼくは思った。


 もしかしたら、シトロンさんはずっと、この笑顔のために頑張ってきたんじゃないだろうか。


 大切な家族が、自分の残したものを受け継ぎ、前を向いて笑える日。


 シトロンさんが本当に見たかったのは、きっと今のモカの笑顔だった。


最後まで読んでいただいてありがとうございます!


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