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第22話 モカのお願い 後編

エピソード更新遅くなりました~

 キャンプ地へ戻ると、みんなもう起きていた。


 朝食の準備をしている者。


 木刀を振っている者。


 仲間同士で小さな声で話している者。


 いつもと変わらない朝の風景。


 だけど、どこか空気が重かった。


 昨日、モカの本当の気持ちを聞いたからだ。


 きっとみんな何とかしてあげたいと思っている。


 でも、その方法が見つからない。


 そんな雰囲気だった。


「あれ? モカは?」


 ぼくは辺りを見回した。


 いつもなら一番早く起きて、朝食の準備を手伝っているはずだ。


 でも姿が見えない。





「まだテントから出てきてないんだよね……」


 せいかが心配そうに答える。


「昨日も夜中にずっと泣いてたし……心配だよ……」


 ぼくは小さく頷いた。


 昨日、自分の気持ちを全部口にした。


 今まで家事をして考えないようにしていた現実を、もう一度自分で受け止めてしまったんだ。


 「そっか…」


 それ以上僕も何も言えなかった。


 モカがテントから出られなくなるのはこれで二度目だ。


 最初は両親が残してくれた家を猿に壊された時。


 そして唯一の家族だったシトロンさんまで失った現在。


 もう心は限界なんだ。


「何とかしないと……」


 ぼくは強く拳を握った。





「実はさ……」


 ぼくはせいかに話しかける。


「モカの家に行って、シトロンさんのことを調べようと思うんだ」


 せいかが不思議そうに首をかしげた。


 ぼくは自分の考えを話す。


 シトロンさんは、本当はモカを誰よりも大切に思っていたんじゃないかということ。


 その証拠を見つけられれば、モカを少しでも励ませるかもしれないこと。


 最後まで話すと、せいかは少し考えてから言った。


「だったら、モカちゃんも一緒に連れて行ってあげたら?」


 ぼくは静かに首を横へ振る。


「本当にシトロンさんがモカを家族だと思っていなかった可能性もある」


 もしそうだったら。


 モカをもっと傷つけてしまう。


「だから、まずはぼく一人で探してみるよ」


「……じゃあ、私も行く」


 せいかがすぐに言った。


「一人じゃ危ないし、こうちゃんのことも心配だもん」


 ぼくは少しだけ迷ったけど、うなずいた。


「ありがとう。じゃあ一緒に行こう」





「相変わらずすごいな……」


 ぼくは思わず足を止めた。


 シトロンさんの手がかりを探すため、猿たちに荒らされたモカの家へやって来た。


 初めて訪ねた時は、掃除が行き届いたぴかぴかの家だった。


 同じ建物とは思えない。


 今は見る影もなく荒れ果てていた。


「やっぱりモカを連れてこなくて正解だったかもね……」


 後ろでせいかが小さく呟く。


「ほんとね……ここまで徹底的にめちゃくちゃにするなんて……」


 ひかりも表情を曇らせた。


 キャンプ地を出る前にひかりに捕まった。


「手がかりを探すなら人数がいた方がいいでしょ?」


 と言って、一緒について来てくれたんだ。





 家の中へ入る。


 割れた窓。


 砕けた皿。


 ひっくり返った家具。


 泥だらけの床。


 猿たちは怒りをぶつけるように、この家を壊したんだ。


「こんな状態で、本当に手がかりなんて見つかるのかな……」


 急に不安になった。


 でも…


 昨日、涙を流しながら何度も頭を下げていたモカの姿が頭に浮かぶ。


『お願いします……』


 あの声が耳に残っていた。


「弱気になったらだめだ」


 ぼくは小さく呟く。


「何でもいい。手がかりを探すんだ」


 三人で手分けして家中を探し始めた。





 だけど。


 しばらく探しても何も見つからない。


 せいかも。


 ひかりも。


 首を横に振るだけだった。


 ぼくたちは部屋の真ん中で立ち尽くす。


「あ……」


 ふと思い出した。


「どうしたの?」


 せいかが聞く。


「確か、初めてモカに連れられてシトロンさんに挨拶した時、書斎みたいな部屋にいたんだ! そこなら、もしかして……」


 二人がじっとぼくを見る。


「なんで最初に言わないかな?」


 ひかりがあきれたようにため息をつく。


「しょうがないよ……こうちゃんだもん……」


 せいかまで苦笑いした。


「ご、ごめんって! 確かこっちだから、付いて来て!」


 ぼくは慌てて歩き出す。





 書斎の前まで来ると、扉は少しだけ開いていた。


 鍵は掛かっていない。


「よし……行くよ」


 ゆっくり扉を押し開ける。


 その瞬間。


「えっ……!」


 ぼくは思わず息をのんだ。


 中へ入ったぼくは、思わず立ち尽くした。


「そんな……」


 ここも猿たちに襲われていたんだ。


 本はビリビリに破かれ、紙くずが部屋中に散らばっている。


 机もいすも壊され、本棚まで倒れていた。


「こんなところまで……」


 ひかりも言葉を失う。





 ぼくはぎゅっと拳を握った。


「いや、何かあるとすればここしかないよ! 諦めずに探そう!」


「モカのためだもんね!」


 せいかも明るく言う。


 三人はすぐに部屋の中を探し始めた。


 だけど作業は思った以上に難しかった。


 どの本も破かれていて、何が書いてあったのか分からない。


 やっと読めたと思えば植物の図鑑だったり、何かの研究レポートだったり。


 モカにつながるものは一つも見つからない。


「やっぱり……無理なのかな……」


 ぼくがそう思い始めた、その時だった。


 キラッ。


 本棚の裏で何かが光った。


「ん?」


 倒れた本棚を少し持ち上げる。


 そこには、小さな銀色の鍵が落ちていた。


「鍵?」


 首をかしげたその時。





「ちょっと、こっち来てみてください!」


 ひかりの声が響いた。


 ぼくとせいかは急いで駆け寄る。


「ここ、なんか変じゃない?」


 ひかりが床を指差した。


 よく見ると、その一角だけ床板の色が少し違う。


 ぼくは足で軽く踏んでみた。


 コンコン。


 周りとは違う音が返ってくる。


「ここの下……もしかして空洞?」


 せいかが小さく呟く。


 そう言うと、せいかは床をあちこち軽く叩き始めた。


 コン、コン、コン。


 そして――。





「ここ!」


 ある場所を押した瞬間だった。


 カタンッ。


 床板の一部がひっくり返り、中から小さな取っ手が現れた。


「おおー!」


「すごいよ、せいか!」


 ぼくとひかりは思わず声を上げる。


「えへへへ……」


 せいかは照れくさそうに笑った。


「バコン!」


 ぼくは床から出てきた取っ手を力いっぱい引っ張った。


 すると床板が大きく開き、中から地下へ続く長い梯子が姿を現した。


「……ゴクッ」


 三人そろって息をのむ。





 ここまで探して、やっと見つけた手がかりだ。


「行こう……」


 ぼくが言うと、せいかとひかりも真剣な顔で頷いた。


 怖がっている暇なんてない。


 ぼくは梯子に手をかけ、ゆっくりと下り始める。


 穴は大人でも楽に入れるほど広かった。


 一段、一段。


 慎重に下りていく。


 底へ着いた瞬間、ぼくは思わず辺りを見回した。


「すごい……」


 天井や壁には青白く光る石が生えていて、洞窟全体をやさしく照らしている。


 思っていたよりずっと広い。


 猿たちの洞窟よりも大きいかもしれない。


「きれい……」


 下りてきたせいかが思わず呟く。


「こんな石、見たことありません……」


 ひかりも不思議そうに光る石を見上げていた。





 その時だった。


 ふと足元を見ると、地面にたくさんの足跡が残っている。


 何度も何度も行き来したような跡だ。


 足跡は洞窟の奥へ一直線に続いていた。


「明らかに誰かが通ったあとだよね……」


 せいかが静かに言う。


「行ってみましょう……」


 ひかりが慎重に頷いた。


 ぼくを先頭に、三人で足跡をたどる。


 しばらく歩くと道はゆるやかな上り坂になり、その先に明るい光が見えてきた。


「出口だ!」


 最後の一歩を踏み出した瞬間。


「ピカッ!」


 太陽の光が目に飛び込み、思わず目を閉じる。





 ゆっくり目を開くと――。


「え……?」


 ぼくは言葉を失った。


 四方を高い崖に囲まれた広い空間。


 その真ん中には、数え切れないほどの陽だまりの木が植えられていた。


 小さな苗木から、大きく育ち実をたくさんつけた木まで並んでいる。


「きれい……」


 後ろでせいかが息をのむ。


「あれって、モカの家にあった陽だまりの木だよね? どうしてこんなところに……」


 ひかりも混乱した様子で辺りを見回していた。


 分からないことだらけだ。


 だけど、一つだけ確かなことがある。


「シトロンさんは……間違いなくここへ来てたんだ……」


 ぼくは陽だまりの木を見つめながら、静かにそう呟いた。

最後まで読んでいただいてありがとうございます!


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