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第20話 しゃべる猿 前編

納得ができる内容が出来なくて、更新まで時間がかかってしまいました…

 らいがの案内で、ぼくたちは森の中を全力で走っていた。


 今日で全部終わらせるんだ。


 そう思いながら走り続けた。


 不思議なことに、みんなほとんどしゃべらなかった。


 ドラですら冗談を言わない。


 そのせいで余計に緊張してしまう。


 やがて、見晴らしのいい丘の上へ到着した。


 らいがが手で前を指さす。


「あそこだ」


 ぼくは洞窟の方を見て――息をのんだ。


「なっ……」


 猿が多い。


 前にらいがと来た時の何倍もいる。


 洞窟の周りだけじゃない。


 木の上にも、岩の上にも、あちこちに猿がいた。


 まるで猿の軍隊だ。





 隣でセバスチャンが低い声でつぶやく。


「おそらく、ボス猿の咆哮で集まったんだろうな……」


 誰も何も言わなかった。


 想像していたより、ずっと状況が悪い。


 正直に言うと――怖かった。


 こんな数を相手に本当に勝てるのか?


 ドラとレオは大丈夫なのか?


 もし失敗したら――。


 モカは?


 せいかは?


 みんなは?


 次々と悪い想像が頭に浮かぶ。


 気が付くと、ぼくは木刀を握る手に力を入れていた。


 その時だった。





 「おいおい」


 ドラが立ち上がる。


「そんなお通夜みたいな顔すんなよ」


 ニカッと笑った。


「よし! ちょっくら行ってくるか!」


 わざと明るい声だった。


 みんなを安心させようとしているのが分かる。


 それでも不思議と少しだけ肩の力が抜けた。


「ま、いつまでもここにいてもしょうがないしな!」


 レオも立ち上がる。


 その顔には迷いがなかった。


すると、むねゆきがリュックをごそごそと探り始めた。


「これ持っていけ」


 取り出したのはモカからもらった回復薬だった。





 二つ。


 ドラとレオに一つずつ渡す。


 ぼくはその光景を見て胸が締め付けられた。


 三つしかない回復薬のうち二つ。


 それだけ危険な役目なんだ。


 セバスチャンが二人を見る。


「必ず生きて帰るぞ」


 真剣な声だった。


 ドラとレオも無言でうなずく。


 そして二人は丘を下り始めた。




 しばらくして――。


「キー!」


「キーキー!」


 洞窟の方が騒がしくなった。


 様子をうかがうと、ドラとレオがゆっくり猿たちへ近づいている。


 二人とも今まで見たことがないほど真剣な顔だった。


 猿たちが次々に集まってくる。


 洞窟の中からも外からも。


 あっという間にドラとレオの周りが猿で埋め尽くされた。


 完全に囲まれている。


 猿たちは大声を上げ、手を叩きながら騒いでいた。


 二匹しかいないドラたちを、完全になめている。


 そして――。


 一匹の猿がドラに向かって飛びかかった。





 次の瞬間。


 バシィッ!!


 ドラの木刀が猿を吹き飛ばした。


 猿たちの動きが止まる。


 その一瞬の静寂の中で、ドラが低い声で言った。


「お前たちは俺たちの大事な仲間を傷つけ、モカの家もボロボロにした……」


 ぞくりとした。


 今まで見たことのない表情だった。


「楽に死ねると思うなよ?」


 隣でレオが木刀を構える。


「猿ども――かかってこい!!」


 その叫びと同時に、


「キーーーー!!」


 猿たちが一斉に襲いかかった。





 ドラとレオの戦いを見ながら、ぼくは唇をかんだ。


 圧倒的に猿の数が多い。。


「あんな数無理だ……」


 気がつけば前に出ていた。


「助けに行かないと!」


 走り出そうとした瞬間だった。


 ガシッ!


 両腕を引っ張られる。


「こうた!」


 らいがだった。


 反対側ではらいねが必死にぼくを止めている。


「あんなの無理だ! ドラとレオが死んじゃう!」


 ぼくは叫んだ。


 らいがも苦しそうな顔をする。


「気持ちは分かる! でも……」


 その先の言葉が出てこない。





 代わりにらいねが声を上げた。


「お二人の覚悟を無駄にしてはいけません!!」


 その言葉に、ハッとした。


 そうだ。


 ドラとレオは命懸けで猿たちを引きつけている。


 ぼくたちを洞窟へ通すために。


 それなのにぼくは――。


「そうだ……」


 拳を握る。


「あの二人は命懸けで僕たちのために戦ってくれてるんだ……それを僕は……」


 胸が痛くなった。


 セバスチャンが静かに言う。


「そろそろ俺たちも移動しよう」


 ぼくは大きくうなずいた。


 そして一行は洞窟へ向かう。





 驚くほどあっさり潜入できた。


 ドラとレオのおかげで、洞窟の中にはほとんど猿がいない。


 たまに出会う猿も、セバスチャンとむねゆきが一瞬で倒していく。


 昼間なのに洞窟の中は薄暗い。


 鼻をつくひどい臭い。


 果物の腐った匂いと獣臭さが混ざっていた。


「らいね、ドラとレオの様子を見てきてくれ! 何かあればすぐ知らせて!」


「了解です!」


 らいねはすぐに来た道を戻っていく。


「先に進もう」


 むねゆきが短く言った。


 ぼくたちはさらに奥へ進む。


 洞窟の天井にはところどころ穴が開いていて、細い光が差し込んでいた。


 地面には魚の骨や果物の皮が散乱している。


 こんな場所に、どれだけの猿が住んでいるんだろう。


 


 少し広い空間へ出る。


「どれだけ広いんだよ……」


 むねゆきが呟く。


 その瞬間。


 背中にゾワッとした違和感が走った。


 ぼくとらいがが同時に振り返る。


 すると――。


 ぬっ。


 すぐ後ろに猿の顔があった。


「ギャーー!!」


 らいがが悲鳴を上げる。


「うわっ!」


 ぼくも飛び上がった。


「こいつ!」


「いつの間に……」


 セバスチャンとむねゆきまで驚いている。





 猿はそんなぼくたちを見て、ニヤリと笑った。


 声も出さずに。


 見た目は普通の猿じゃない。


 背が高い。


 腕が異常に長い。


 細身なのに全身から嫌な迫力が出ている。


 まるでチンパンジーだった。


「こいつがレオの言ってた中猿……」


 ぼくは周囲を見回す。


「でも一匹? 二匹いるんじゃ……」


「こいつ……強いぞ……」


 むねゆきが低く呟いた。


 



 この中猿は今までの猿とは別格だ。


 囲まれているのに余裕そうに笑っている。


 その時、ぼくは決断した。


「こいつは僕が相手する! 二人は先に進んでくれ!」


「大丈夫か?」


 セバスチャンが聞く。


「どこかにもう一匹いるかもしれないぞ?」


「らいがもいるから何とかなるよ!」


 ぼくは叫ぶ。


「それより早くボス猿を倒してくれ!」


 数秒の沈黙。


 そして。


「わかった。むねゆき、行くぞ!」


「無理するなよ!」


 むねゆきは最後の回復薬を地面に置いた。


 そして二人は奥へ向かって走り出す。





 残されたのは、ぼくとらいが。


 そして中猿。


 ドラとレオも覚悟を見せた。


 セバスチャンもむねゆきも前へ進んだ。


 だったら――。


 ぼくだって逃げない。


 震える手で木刀を握り直し、中猿をまっすぐ見つめた。


 中猿はそんなぼくたちを見ながら、相変わらずニヤニヤしている。


 そして――。


「キャッキャッ!」


 突然、手を叩きながら喜び始めた。


「え? 何だこいつ……」


 思わず声が漏れる。


 意味が分からない。


 ふざけているように見える。





 でも、向かい合っていると分かる。


 全くスキがない。


 ぼくは木刀を握ったまま動けなかった。


 勝てるイメージがまるでわかない。


「こいつ……舐めやがって……」


 らいがが悔しそうに言う。


 でも、らいがも飛び出せない。


 それほど異様な空気だった。


 その時だった。


「オ……マエ……ニン……ゲンダ……ナ?」


 中猿が突然口を開いた。


 ぼくは固まる。


「え……?」


 思わず変な声が出た。


 らいがも目を丸くしている。





 中猿はぼくたちの反応が面白かったのか、さらにニヤニヤ笑った。


 「ニン……ゲン……ハジメテミ……タ……ウレシ……イ」


 言葉はたどたどしい。


 でも、ちゃんと意味は伝わってくる。


 ぼくは中猿を見つめた。


 今まで戦ってきた猿たちは言葉なんて話さなかった。


 ただ襲いかかってくるだけだった。


 でも、こいつは違う。


 言葉を理解している。


 会話をしようとしている。


 それに――。


 よく見ると最初から攻撃してこない。


 むしろ楽しそうに笑っている。





「え? もしかして……」


 隣でらいがが呟く。


 ぼくも同じことを考えていた。


 この猿、戦うつもりがないんじゃないか?


 もしかしたら話し合えるのかもしれない。


 その考えが浮かんだ瞬間、張りつめていた体から一気に力が抜けた。


 よかった。


 本当によかった。


 正直、勝てる気なんて全然していなかった。


 戦わなくて済むならそれが一番だ。


 外の猿たちを止めてもらって、ボス猿とも話して。


 人間と猫と猿が一緒に暮らせる方法を考えて――。


 頭の中に希望がどんどん広がっていく。


 まずは敵じゃないことを伝えないと。





 ぼくは木刀を少し下ろした。


「あのさ!」


 そう声をかけた瞬間だった。


「ニンゲン……タベル……ト……アタマ……ヨクナル……キイタ」


「え?」


キャッキャッと手を叩く。


 喜んでいる。


 本気で。


 ぼくを見ながら。


 食べるために。


 背筋が凍った。


「人間を……食べる?」


 一度希望を持った分だけ絶望も大きかった。


「こいつ……狂ってる……」


 らいがも青ざめる。





 怖い。


 怖い。


 怖い。


 体が動かない。


 中猿はそんなぼくを見てニタッと笑った。


 次の瞬間――。


 ガキン!!


 中猿の拳が飛んできた。


「うわっ!」


 慌てて木刀で受け止める。


 だが衝撃が凄まじい。


 腕がしびれ、そのまま後ろへ押し込まれる。


「ウホッ!」


 楽しそうに中猿がさらに殴りかかる。





 一発。


 二発。


 何とか受ける。


 でも三発目――。


 ドゴッ!!


「ギャッ!」


 顔にまともに入った。


 ぼくは吹き飛ばされる。


「こうた!!」


 らいがが飛びかかる。


「ウォー!!」


 だが――。


 ドンッ!!


 中猿の拳がらいがを打ち抜いた。


 らいがもぼくと同じように吹き飛ぶ。


 何とか立ち上がる。


 でも目の前の中猿が怖くて仕方なかった。





 強い。


 圧倒的に強い。


 やっぱり僕には無理なんだ……。


 そう思いながら、中猿を見つめることしかできなかった。


「キ♪ キ♪」


 中猿は楽しそうに手を叩いていた。


 まるで遊んでいるみたいな顔だ。


「オ…マエ…ヨワイ。オマ…エ…ヨワイ」


 ぼくを指さしながら笑う。


「くそっ……」


 思わずつぶやく。


 悔しい。


 でも反論できなかった。


 実際、この中猿を倒せるイメージがまったくわかない。


 今まで戦った猿たちとは別格だ。





 体の大きさも。


 動きも。


 雰囲気も。


 全部が違う。


 今まで戦ったどんな敵よりも強い。


 そう感じていた。


 すると中猿が急に笑うのをやめた。


 静かになる。


 そしてじっとぼくを見つめてきた。


「オ…マエ…ナカマ…オ…ンナ…ニンゲン…イ…ル」


 低い声だった。


「人間? 女?」


 嫌な予感がした。


 その瞬間だった。


 中猿の口元がニヤリとゆがむ。





 しまった…


 ぼくの反応を見ていたんだ。


「ニン…ゲン…オンナ…イル…イル」


 中猿は嬉しそうに笑った。


 完全に確信した顔だった。


 ぼくは奥歯をかみしめる。


 せいかのことだ。


 ぼくが反応したせいで知られてしまった。


「せいかをどうするつもりだ?」


 できるだけ冷静に聞く。


 中猿は再び真面目な顔になった。


「オマ…エ…タベ…タア…ト…ニン…ゲンオ…ンナ…ム…カエ…イク」


 ぞくりとした。


「ボス…オ…ンナ…ホシイ」


 




 頭が真っ白になる。


「なんでだ!!」


 気づけば叫んでいた。


「せいかは関係ないだろ!!」


 洞窟の中に声が響く。


 だが中猿は平然としていた。


「シラナ…イ…ボス…メイレ…イ」


 静かに答える。


 その態度が余計に腹立たしかった。


 こいつは危険だ。


 心の底からそう思った。


 今まで戦った敵とは全然違う。


 強いとか弱いとか、そんな話じゃない。


 こいつは本気でせいかを連れて行こうとしている。


 冗談でも脅しでもない。


 本当にやるつもりなんだ。





 背筋が冷たくなる。


 もしここで負けたら――。


 せいかが連れて行かれる。


 せいかの命の保証なんてない。


 ふざけるな。


 そんなこと絶対に許さない。


 怖い。


 本当は今すぐ逃げ出したいくらい怖い。


 でも、それ以上に腹が立った。


 ここで逃げたら終わりだ。


 ぼくが止めなきゃ。


 自分がどうなっても関係ない。


 せいかだけを守らないと。


 仲間たちを守らないと。


 その思った瞬間――


 ヴーン……


 カチッ。


 頭の中でスイッチが入る音がした。





 景色がゆっくりになる。


 音が消える。


 世界が静止したみたいだった。


 ぼくは地面を蹴った。


 木刀を振る。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 だが全部、中猿の手で止められた。


 それでも中猿の顔に驚きが浮かぶ。


「キッ?」


 中猿は後ろへ飛び下がった。


 そして――。


 パンッ! パンッ!


 頭の上で手を叩く。


 満面の笑みだった。


 まるで面白いおもちゃを見つけた子どもみたいに。


 ぼくはさらに距離を詰める。


「お前は……」


 木刀を強く握る。


「お前だけはここで絶対止める!!」


 叫びながら中猿に攻撃をする。

最後まで読んでいただいてありがとうございます!


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