第16話 冒険の始まりとトラブル 前編
パカ、パカ、パカ――
赤茶色の小さな馬が、荷車を引きながら森の道を進んでいく。
「あずき~、がんばれ~」
せいかがうれしそうに首をなでる。
この馬は、昨日出会った商人猫から譲ってもらった子だ。
レオは「絶対ぼったくられてる!」って文句を言っていたけど、みんなで相談して買うことにした。
女の子たちをずっと歩かせるのは大変だし、荷物も多い。
女の子たちは、順番に荷車に乗りながら移動し、無理のないようにしている。
結果的には、よかったと思う。
ちなみに名前は、赤茶色だから「あずき」。
せいかが即決した。
村を旅立って、二日。
最初の目的地は、「娯楽の郷あおやぎ」。
まおとセバスチャンが提案してくれた場所だ。
なんでも、商人たちをまとめる本部があるらしい。
そこで「どら猫商店」を登録しておけば、ほかの町でも商売がしやすくなるんだとか。
(さすが旅慣れしてるよな……)
ぼくは感心しながら歩く。
でも――
正直、旅をなめていた。
道は、ガタガタ。
石もあるし、木の根っこも飛び出してる。
きれいに舗装された道なんて、どこにもない。
いろんな猫たちが歩いて、自然にできた道らしい。
とにかく、足が痛い。
(やば……めちゃくちゃ疲れる……)
しかも、少しでも暗くなると、すぐ野宿の準備だ。
薪を集めて。
水を探して。
狩りに行って。
ご飯を作って。
時間を見つけて水浴びもする。
やることが、本当に多い。
夜の見張りは、らいがとらいねがやってくれている。
「お任せください!」
「夜は我々の時間ですから!」
二匹はやる気満々だ。
だから、ちゃんと休めてはいる。
……でも。
寝る場所は、基本土の上。
台車は女性陣優先だから、男組は地面で寝る。
現代で、ふかふかの布団に包まって寝ていたぼくには――かなりきつい。
(か、硬い……)
体はクタクタなのに、何度も目が覚める。
背中も痛い。
でも。
むねゆきも、ドラも、レオも、セバスチャンも平気そうだった。
朝になると、みんな普通に元気だ。
「こうた、顔色悪くないか?」
レオに言われて、ぼくはあわてて笑う。
「へーきへーき!」
本当は、ちょっとふらふらだった。
でも、自分だけ弱音を吐きたくなかった。
みんな頑張ってるんだ。
ぼくだけ情けない顔なんてできない。
だから、元気なふりをする。
けど、自分でも分かる。
(……無理してるな、ぼく)
ぼくは歩きながら、ふと考えた。
(もし、せいかと二人だけで旅してたら……どうなってたんだろ)
道に迷って。
野宿もうまくできなくて。
きっと、すぐ限界になってた。
薪集めも、見張りも、狩りも。
二人だけじゃ、とても回らない。
前を歩く仲間たちを見る。
楽しそうに話しているドラとレオ。
地図を確認しているセバスチャン。
その横で静かに歩くまお。
ひかりは、あずきに話しかけている。
むねゆきは周りを警戒しながら歩いていた。
そして。
ぼくの隣には、せいかがいる。
見張りで疲れ、台車で昼寝をしているらいがとらいね。
なんだか胸があたたかくなった。
(みんなと一緒で、よかった)
ぼくは空を見上げる。
今日ももうひと踏ん張りだ!
だんだん日が傾き始めた。
森の中もオレンジ色に染まっていく。
「今日はこの辺で野営にするか」
セバスチャンが周りを見ながら言った。
近くには木も多い。薪には困らなさそうだ。
平らな場所もあるし、今日のキャンプ地としては悪くない。
(はぁ~……やっと休める……)
ぼくは心の中でそうつぶやいた。
足がもう限界だ。
できれば、このまま座ってしばらく動きたくない。
でも、そういうわけにもいかない。
次は、ご飯の調達だ。
いつもはくじ引きで決めている。
だけど今日は、ドラが言い出した。
「なあ、今日は別の方法で決めないか?」
「別の方法?」
レオが首をかしげる。
みんなで「うーん」と考えていると。
「あ、じゃあ……じゃんけんとかどう?」
せいかが手を上げた。
「じゃんけん?」
みんなが不思議そうな顔をする。
「わたしたちの前いた世界の遊びだよ。グーは石、チョキは刀、パーは紙!」
せいかが手を動かしながら説明する。
(たぶん、はさみって言っても分からないから刀にしたんだろうな……)
ぼくはなんとなく察した。
「面白そうだな!」
「それで決めようぜ!」
レオとむねゆきが乗り気になる。
そして、今日のルールが決まった。
じゃんけんで負けた二人が食料調達。
(よし……!)
ぼくは猫たちの手を見る。
ぷにぷにの肉球付き。
(どう考えてもチョキ無理だろ)
つまり、パーを出し続ければ負けない!
ぼくは疲れてるんだ!
今日は絶対に休む!
「それじゃいくよー!」
せいかが元気よく言う。
「最初はグー!」
みんなが手を振る。
「じゃんけん――ぽん!!」
ぼくとなぜかドラが、自信満々でパーを出した。
その瞬間。
それ以外の全員が、きれいなチョキを出していた。
(うそだろ!?)
心の中で叫ぶ。
横ではドラが絶望した顔をしていた。
「お前たち!! その手でなんでチョキできるんだよ!!」
ドラが叫ぶ。
よく見ると、意外ときれいなチョキを出している。
僕が思っているより猫の手は自由が利くらしい…
「お前らの考えそうなことだよな」
セバスチャンが鼻で笑う。
「ほんと単純だな」
むねゆきもあきれていた。
ぼくはできるだけ平静を装う。
「べ、別に休みたかったわけじゃないし?」
「そうだそうだ!」
ドラも必死にうなずく。
そのとき。
「こうちゃん、大丈夫?」
せいかが心配そうに顔をのぞき込んできた。
「顔色よくないよ?」
「だ、大丈夫!」
ぼくは慌てて笑う。
「おいしい食べ物探してくるから期待しててよ!」
すると、まおがぼそっとつぶやいた。
「……この二人、心配かも」
「確かにな」
レオもうなずく。
「トラブルに巻き込まれやすい二人だしな……」
「なんだよそれ!」
ぼくは抗議した。
「こんな山奥で何が起こるっていうんだよ!」
「そうだそうだ!」
ドラも胸を張る。
すると。
ひかりが、すっと前に出た。
ものすごく真剣な顔だ。
「いいですか?」
ぼくとドラは、思わず背筋を伸ばした。
「私たちは旅の途中です。蓄えも、そんなにありません」
ひかりがじっとぼくらを見る。
「絶対に、怪我した動物とか拾ってこないでくださいね?」
その言葉に、ぼくとドラはぴたりと固まった。
「……はい」
ぼくらは小さな声で返事をした。
「全く、あいつらときたらさ!」
ドラがぷりぷり怒りながら歩く。
「少しは俺たちのこと信用してほしいよな!」
「ほんとだよな……」
ぼくも返事をした。
……したんだけど。
自分でもびっくりするくらい声に元気がない。
ドラがちらっとぼくを見る。
「こうた、大丈夫か?」
「え?」
「やっぱ顔色悪いぞ?」
しまった、と思った。
でも、ここで心配をかけたくない。
「だ、大丈夫だよ!」
ぼくは慌てて笑う。
「みんな心配しすぎなんだよ!」
「ならいいんだけど……」
ドラは少し不安そうだった。
「辛かったらちゃんと言えよ?」
「うん、ありがと」
そんな話をしながら、ぼくらは森の奥へ進んでいく。
すると。
「あ!」
ドラが急に立ち止まった。
指さした先には、大きな木。
そこに、黄色い果物がたくさんなっていた。
りんごみたいな形だ。
「今日はあれだな!」
「でも、すごい高いぞ?」
ぼくが見上げる。
「どうやって採るんだ?」
「任せとけ!」
ドラはにやっと笑った。
次の瞬間。
スルスルスルッ!
一気に木を登っていく。
(はやっ!?)
さすが猫。
ぼくなんかじゃ絶対無理だ。
「俺が落とすから、こうたは拾ってくれ!」
「お、おう!」
ボトボトボト!
次々に果物が落ちてくる。
ぼくはあわてて拾い集めた。
きっとドラは、ぼくに無理をさせないようにしてくれてるんだ。
(悪いな……でも、ありがたい)
胸が少しあったかくなる。
しばらくして、ドラが木から飛び降りてきた。
「どうだ?大漁だろ!」
「すごい量だな……」
ドラは果物を一つかじる。
「こうたも食ってみろよ」
ぼくもかじってみた。
シャクッ。
甘さはそんなに強くない。
でも、歯ごたえがいい。
「うん、これなら十分ご飯になるな」
「だろ?」
ドラが得意そうに笑う。
「よーし! 大漁、大漁! 戻ろうぜ!」
ぼくらは果物を抱えて歩き出した。
(ほらな……)
ぼくは心の中で思う。
(こんな森の中で、そうそうトラブルなんて――)
「きゃあああーーー!!」
森の奥から、女の子の悲鳴が響いた。
ぼくらはぴたりと止まる。
「……うそだろ」
ドラが引きつった顔で言った。
「どうする?」
「いや……ほっとけないでしょ……」
二人で苦笑いする。
そして同時に走り出した。
声のしたほうへ向かう。
すると――
「キキー!!」
「キキキ!!」
そこには、可愛らしい子猫の女の子がいた。
その周りを、十匹くらいの猿が囲んでいる。
猿たちは女の子の服を引っ張ったり、耳を引っ張ったりしていた。
「やめてください!!」
女の子が泣きながら叫ぶ。
「こうた、行くぞ!」
「うん!」
ぼくらは腰の木刀をつかんだ。
一気に飛び込む。
「うおおお!!」
ブンッ!!
ドラの木刀が猿を吹き飛ばす。
ぼくも大きく振りぬいた。
「キキッ!?」
二匹の猿が女の子からはがれる。
ぼくらは女の子の前に立った。
猿たちがギラギラした目でこちらを見る。
(……やっぱり)
ぼくは木刀を構えながら思った。
(ぼくら、トラブルメーカーなのかもな……)
「フー! フー!」
「キー! キー!」
猿たちがぼくらを囲みながら威嚇してくる。
一匹一匹はそこまで大きくない。
でも――数が多い。
十匹近くににらまれると、ものすごい迫力だった。
後ろでは、かわいらしい子猫の女の子がブルブル震えている。
ぼくは木刀をぎゅっと握った。
(……なんか、いつもと違う)
体が重い。
足もうまく動かない。
疲れがたまってるんだ。
そんなことを考えた、その瞬間。
「こうた!!」
ドラの声でハッとした。
前を見る。
「キーッ!!」
二匹の猿が飛びかかってきていた。
「うわっ!!」
ガンッ!
なんとか木刀で受け止める。
でも重い。
腕がしびれる。
(やばっ……!)
息がすぐに上がる。
ぼくは受けるだけで精いっぱいだった。
「ここは任せたぞ!」
ドラが叫ぶ。
そのまま、残りの猿たちへ突っ込んでいった。
「キキーッ!?」
木刀をぶんぶん振り回しながら、猿を追い払っていく。
(気になるけど……今はこっち!)
ぼくは目の前の猿に集中した。
今まで戦った猫たちとは全然違う。
猿は言葉も通じない。
動きもめちゃくちゃだ。
右に行くと思ったら急に飛ぶ。
逃げたと思ったら飛びかかってくる。
予想できない。
「ぐっ!」
バシッ!
顔に爪が当たった。
ヒリヒリする。
「くそっ……!」
ぼくは必死に木刀を振った。
すると。
「おらぁぁ!!」
ドラが戻ってきた。
どうやら他の猿を追い払ったらしい。
ぼくとドラに囲まれた二匹の猿は、ピタッと止まる。
「キキッ!」
お互いに目を合わせると――
一気に森の奥へ逃げていった。
ガサガサガサッ!
森が静かになる。
「はぁ……」
ぼくはその場に座り込んだ。
「助かった…ありがとう」
そう言うと、ドラが胸を張る。
「ま! ざっとこんなもんよ!」
めちゃくちゃ得意げだ。
その後ろから、小さな声がした。
「あ、ありがとうございます……」
見ると、子猫の女の子がぺこりと頭を下げていた。
服もボロボロ。
毛並みもぐしゃぐしゃだ。
まだ少し震えている。
(……このまま帰すわけにはいかないよな)
ぼくはドラを見る。
ドラも同じことを考えていたらしい。
「きっと動物じゃないからセーフだよ!」
ドラが自分に言い聞かせるように言った。
「これ、絶対ひかりに怒られるやつだろ……」
「だよなぁ……」
二人で苦笑いした。
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