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第15話 どら猫商店旅立ちの日 前編

 夕方。

 

ぼくたちは村長の家で、晩ごはんの準備をしていた。


 最近では、らいがとらいねもすっかり戦力だ。


 藤さんのきびしい指導のもと、料理までできるようになっていた。


「疲れて帰ってくる村長様に満足いただくには……火加減が大事だ……」


 らいがは真剣な顔で魚を焼いている。


 ぶつぶつ言いながら、何度も角度を変えていた。


(いやいや、らいが……お前はいったいどこを目指してるんだ?)


 ぼくは思わず苦笑いする。


 らいねはらいねで、てきぱき動いていた。


「こちら運びますね」


 小さな体で皿を持ち、藤さんの横をすいすい動く。


「えらいですねぇ」


 藤さんも満足そうだった。


 



 やがて準備が終わり、みんなで席につく。


 焼き魚のいいにおい。


 あたたかい汁物。


 いつもの声。


 今日あったことを話しながら、みんなで笑って食べる。


 でも――


(これも、あと少しなんだよな……)


 胸の奥が、少しだけきゅっとした。


 食事のあと。


「どうぞ」


 らいがとらいねが、お茶を配って回る。


「おや、悪いね」


 村長は湯のみを受け取り、うれしそうに笑った。


 完璧なおもてなしだ。





 そして一息つくと、村長がこちらを見た。


「さてと、こうたとせいかに相談なんだが」


「はい」


 ぼくとせいかは同時に返事をした。


 この流れにも、もう慣れた。


(今日はなんの話だろう?)


 すると村長は、少しまじめな顔になる。


「実はね。長老たちがお前たちと話をしたいと言っている」


「え?」


「今度、私と一緒に会いに行ってもらえないか?」


 せいかの顔がすぐにこわばった。


「……どんな話ですか?」


 警戒した声だった。


 ぼくも同じ気持ちだ。





 長老たちは人間ぎらいだ。


 試食会で保存食を認めてくれたときだって、すごく悔しそうな顔をしていた。


(嫌な予感しかしない……)


 村長は静かに言った。


「それは、行ってから話す」


 そして、めずらしく頭を下げた。


「お前たちの気持ちも分かる。だが、ここは私の顔を立てると思って、ついて来てほ

しい」


 ぼくとせいかは顔を見合わせる。


 ここまでお世話になった村長に、そんなふうに頼まれたら――断れない。


「……わかりました」


 せいかが小さく答える。


「ぼくも行きます」


 そう言うと、村長はほっとしたように笑った。


 でもぼくの胸の中には、重たい不安だけが残っていた。





 次の日の午後。


 ぼくたちは、いつもの秘密基地に集まっていた。


 木の板を並べた机のまわりに座るみんなの顔は、少しかたい。


 最初に口を開いたのはレオだった。


「ドラのことなんだけどな」


 みんながレオを見る。


「かなり頑張ってる。毎日、薪割りしてるらしい」


「そっか…」


 ぼくは呟くように言った。


「オレが手伝うかって言っても断るんだよ」


 レオは苦笑いした。


「自分でやらないと意味がない、だってさ」


 その言葉に、みんな静かになった。


 ドラなりに、本気なんだ。





  でも――。


「このままだと、出発には間に合わないだろうな」


 レオの一言が重く落ちる。


 ぼくもそう思っていた。


 手伝いたくても断られる。


 ドラ母を説得しようにも、この前きっぱり断られた。


(打つ手がない……)


 すると、まおが静かに言った。


「この前みんなで話した通りにしましょう」


 みんなが顔を上げる。


「まずは私たちだけで旅立つ。そして、ドラさんの手伝いが終わったら、みんなでこ

の村へ迎えに来るんです」


「……それしかないな」


 セバスチャンが腕を組んでうなずく。


 むねゆきも、ひかりも小さくうなずいた。


「じゃあ、その内容でドラに話しておく」


 レオが言う。


 前にも話してあって、ドラも仕方ないと受け入れているらしい。


「ありがとう」


 ぼくはレオに頭を下げた。


 ドラが心折れずに頑張れているのは、きっとレオが何度も会いに行っているから

だ。


「旅立った後の、ドラさんとの連絡方法も考えないといけませんね」


 ひかりの言葉に、みんなでうなずいた。





 そのあと、ぼくは昨日の話をした。


「実はさ……ぼくとせいか、長老たちに呼ばれてるんだ」


「え?」


「このタイミングで?」


 みんなの顔が一気にくもる。


「そうなんだよ……」


 ぼくはため息をついた。


「今まで人間に敵意むき出しだった長老たちだよ? 試食会の時だって、認めてはく

れたけど悔しそうだったし……旅立つ直前に呼び出しなんて、いい予感しないんだよ

な」


 すると、ひかりが手を上げた。


「実は……関係あるかわかりませんが」


「なに?」


「ニコラスさんの書斎を掃除していた時に、『奴隷化の契約』って本が出しっぱなし

でした」


「……え?」


 背中がぞくっとした。





 奴隷化。


 そんな言葉、聞くだけで怖い。


(狙うとしたら……人間だろ)


 ぼくとせいかしかいない。


 レオが低い声で言った。


「昔、この村に来た人間に、長老たちが契約を持ち出したことがあるって聞いたこと

がある」


 みんな息をのむ。


「その人間たちは、結局村から逃げ出したらしい」


 レオはぼくをまっすぐ見た。


「いいか。もし“契約”って言葉が出たら――その場ですぐ逃げろ」


 秘密基地の空気が、一気に冷たくなった。





 その日の夜


 ぼくとせいかは、村長といっしょに村の公民館へ向かっていた。


 長老たちに会うためだ。


 でも、足どりは重い。


 レオやひかりから聞いた話のせいで、ぼくの頭の中は不安でいっぱいだった。


 せいかも、いつもより口数が少ない。


(契約……奴隷……その言葉が出たら、すぐ逃げるんだ)


 ぼくは心の中で何度も言い聞かせた。


「お邪魔するよ」


 村長が戸を開ける。


 中には、六人の長老たちがすでに座っていた。


「待ってたぞ!」


「遠いところ悪いねぇ~」


 みんな笑顔だ。


(こわっ!)


 今までの冷たい態度と違いすぎて、逆に怪しい。


 ぼくはせいかと顔を見合わせた。





 席につくと、長老たちが話し始めた。


「この前の試食会、ありがとうねぇ」


「いやぁ、おいしかった!」


「あれは酒に合うんだよ」


 勝手に盛り上がっている。


「……ご用件は何ですか?」


 ぼくは思いきって言った。


 一瞬、空気が止まる。


 すると一匹の長老がうなずいた。


「そうだね。村長さんから、あんたたちが旅立つと聞いてね」


「それで、提案したいことがあるんだよ」


「……提案?」


 せいかの声がするどくなる。


 別の長老が笑って言った。


「この村と契約しないかい?」






「絶対にしません!!」


 ぼくはイスから飛び上がるくらいの勢いで答えた。


「お、おい、こうた」


 村長までびっくりしている。


「話だけでも聞いてくれよ?」


「私たちは旅立って、『どら猫商店』として活動します!」


 せいかも立ち上がった。


「自由で気高い商店を目指してます! 契約なんて嫌です!」


「あなたたちの考えは分かってます!」


 ぼくも負けじと叫ぶ。


「人間が嫌いだから、契約して奴隷みたいにこき使うつもりなんでしょ!?」


 言い切って、なんだかスカッとした。


 ……でも。


「奴隷?」


「何の話だい?」


 長老たちがざわざわし始めた。


 村長が静かにぼくを見る。


「こうた。どういうことか、話してくれるかい?」


 その声で、少し冷静になった。


 ぼくはレオとひかりから聞いた話を全部説明した。





 すると――。


「ぶっはははは!」


 村長も長老たちも、大笑いし始めた。


「ええっ!?」


 ぼくとせいかは固まる。


「私たちがそんなことするわけないだろう」


 長老の一匹が涙をぬぐいながら言った。


「レオって、あのおしゃべり好きのせがれだろ? まったく……」


 別の長老が頭を抱える。


 そのとき。


「ドン!」


 一匹の長老が、大きな袋を机に置いた。





「実はな、この保存食を近くの村で売ってみたんだ」


「そしたら大好評でね!」


「これは、その売り上げだよ」


 袋の中には、たくさんのお金。


 ぼくとせいかは目を丸くした。


「旅立つお前たちに渡したかったんだ」


「それと、これからもこの村の特産品として作らせてもらえないか、その契約の話さ」


 ……そういうこと!?


 ぼくとせいかは同時に顔を赤くした。


 完全に勘違いしていた。





「ご、ごめんなさい!」


 二人で頭を下げる。


「いやいや、私たちも今まで怖い態度だったからねぇ」


「こちらこそ悪かったよ」


 長老たちは笑っていた。


「で、契約してくれるかい?」


「はい! よろしくお願いします!」


 ぼくとせいかは元気よく答えた。


 部屋の中に笑い声が広がる。


 ……でも心の中で、ぼくはそっと思った。


(これ、レオとひかりが変なこと言わなければ、こんなにこじれなかったんじゃ……?)


 ……まあ、考えないことにした。

最後まで読んでいただいてありがとうございます!


次回更新日は、未定です。もしよろしければ、ブックマーク登録よろしく願いします!


noteでも活動してます。よかったら「どら猫商店」で検索してみてください!


色々な「どら猫」たちのイラストも掲載してます。


ぜひ、遊びに来てください!

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