第14話 決闘再び!? とらわかの勘違い宣戦布告 後編
「作戦タ〜イム!」
いきなり、ひかりが大声で叫んだ。
「は?」
とらわかが固まる。
そのすきに、ぼくたちはひかりのまわりへ集まった。
「どういうことだよ、ひかり!」
ぼくがひそひそ声で聞くと、ひかりは困った顔をした。
「だって……あの方、しつこくて……つい……」
「つい、じゃないだろ!」
話を聞くと、とらわかが最近教会へ通っている理由は、ひかりのことが好きだかららしい。
しかもかなり熱心に言い寄ってくる。
本当なら相手にしない。
でも、とらわかの親は教会へたくさん寄付している。
だから、ひかりもニコラスも強く断れないらしい。
「うわぁ……めんどくさ……」
レオが顔をしかめた。
「それで、旅の話が伝わってしまって」
ひかりは続ける。
「ニコラスが、とらわかさんにこう言ったんです。人間たちに無理やり頼まれて仕方なく旅に出るだけ。すぐ戻るから教会で待とう、と」
「最低だな……」
セバスチャンがあきれた。
「ひかりさん、ひどいですよ?」
まおがくすくす笑う。
「ほんとうだな!」
レオまでにやにやしている。
「いっそ、とらわかと付き合えばいいんじゃないか?」
セバスチャンの冗談に、ひかりは即答した。
「絶対嫌です!!!」
そして、ぼくの両肩をつかむ。
「こうたさん、何とかしてください!」
「なんでぼく!?」
「でも、ここで解決しないと後で面倒だな」
むねゆきがうなずく。
せいかが心配そうにぼくを見る。
「こうちゃん……」
その顔をされると弱い。
「……わかったよ! で、ぼくは何をすればいいんだ?」
「さすがです!」
ひかりがぱっと笑った。
「決闘を受けて、勝ってください。それだけです」
「え? それだとぼくが悪者――」
言い終わる前に、ひかりは走って戻っていた。
「作戦タイム終了!」
そして高らかに宣言する。
「これより、とらわかさんとこうたさんによる決闘を始めます! 勝ったほうに私はついていきます!」
「おう!!」
とらわかはやる気満々。
「……はい」
ぼくは元気ゼロだった。どうせ何を言っても変わらないんだろうし…
試合の審判は、むねゆきがすることになった。
木の枝を拾って地面に線を引き、えらそうにうなずく。
「よし! 両者、前へ!」
ぼくと、とらわかが向かい合う。
とらわかは木刀をかまえ、鼻息が荒い。
ぼくは、できれば帰りたかった。
「はじめ!」
むねゆきの声と同時に、とらわかが地面をけった。
「俺は、おまえを倒して、ひかりさんに告白するんだーーー!!」
「告白しながら来るな!!」
叫びながら、ぼくも木刀を受ける。
ガンッ!
重い一撃だった。
(前より強い……!)
教会で鍛えられているせいか、前に戦った時とは別人みたいだ。
でも――。
ぼくだって、あのころのままじゃない。
ガン! ガン!
何度も打ち合う。
ちゃんと見える。
ちゃんと動ける。
ゾーンを使わなくても、もう対等に戦えていた。
(……ていうかさ)
打ちながら、頭の中で思う。
(最近、ぼく何もしてないのに巻き込まれてばっかじゃない?)
(どうしてこうなった??)
「こうたー! がんばれよー!」
「負けたらひかり取られるぞー!」
後ろから、レオたちの声。
完全に面白がっている。
(うるさい!)
ガン!
木刀をはじく。
とらわかがくやしそうに歯を食いしばる。
「まだまだぁ!」
また突っ込んでくる。
(なんで?)
(どうしてぼくが?)
(なんで毎回こうなるんだよ!?)
そんな言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
そのとき。
「どちらもがんばれー!」
ひかりののんきな声が聞こえた。
その瞬間だった。
「ふざけるなーーーーー!!」
ぼくは思わず叫んでいた。
ヴーンッ。
カチッ。
頭の奥で、何かのスイッチが入る音がした。
(やばい……!)
そう思った時には遅かった。
世界が、ゆっくりになる。
風の音も。
木の葉の落ちる速さも。
とらわかの動きも。
(ゾーンに……入った)
胸が冷たくなる。
せいかに心配をかけたくなくて、もう使わないって決めていたのに。
でも、ここまで来たら止まれない。
(……しょうがない)
ぼくは地面をけった。
ガン! ガン! ガン!
連続で打ち込む。
「くっ……!」
とらわかが受ける。
時々反撃してくるけど、遅い。
最小限の動きでかわし、また打つ。
ガン! ガン!
「くそっ! くそっ!」
とらわかの声がくやしそうにゆがむ。
少しずつ、少しずつ後ろへ下がっていく。
もう誰も茶化さなかった。
みんな、真剣な顔で見ている。
最後に大きく踏み込み、木刀を振る。
ドンッ!!
とらわかが後ろへ吹っ飛んだ。
地面を転がり、止まる。
(こいつは、いつも邪魔をしてくる)
(ここでもっと追い込まないと)
そんな考えが、自然と浮かんでいた。
ぼくは、とどめを刺そうと一歩踏み出す。
その瞬間。
ぎゅっ。
両手を、やわらかい手がつかんだ。
せいかだった。
ぼくの前に立って、まっすぐ見上げている。
「もう十分だよ」
やさしい笑顔。
「戻ってきて」
その声を聞いた瞬間。
目の前の世界が、ぐにゃっと曲がった。
「……っ!」
力が抜ける。
ぼくはその場に座り込み、激しくせきこんだ。
「げほっ! げほっ!」
胸が苦しい。
でも、せいかの手はまだぼくの手を握っていた。
「そこまで!!」
むねゆきの大声が響く。
「勝者、こうた!」
秘密基地に、張りつめていた空気がようやく戻ってきた。
ぼくはその場に座り込んだまま、肩で息をしていた。
「ふー……ふー……」
まだ胸が苦しい。
でも前みたいに、倒れそうなほどではない。
「大丈夫だよ」
せいかが、ぼくの手をずっと握っていた。
「ゆっくり深呼吸して」
その声は、いつもよりやさしく聞こえた。
ぼくは言われた通り、ゆっくり息を吸って、吐く。
何度かくり返すうちに、少しずつ楽になってきた。
(せいかが早く止めてくれたからだ……)
そう思うと、胸の奥があたたかくなる。
「……せいか、ありがとう」
ぼくが言うと、せいかは少しだけ笑った。
「どういたしまして」
その瞬間だった。
「やったなー!」
「お前、また腕上げたなー!」
レオたちが一気に駆け寄ってきた。
むねゆきはぼくの背中をばんばん叩くし、セバスチャンはにやにやしている。
「前よりずっと強くなってるんじゃない?」
まおまでうれしそうだ。
そこへ、ひかりがすすっと前に出てきた。
「こうたさん……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。
ぼくは苦笑いした。
「次は勘弁してよ?」
一瞬しんとしたあと――。
みんながどっと笑った。
ぼくもつられて笑う。
なんだか、さっきまでの怒りが飛んでいってしまった。
ふと。
ぼくは、とらわかのほうを見た。
とらわかは地面にうずくまり、肩を震わせていた。
「なんでだよ……」
小さな声。
「なんでだよ……」
そのまま、ふらふらと立ち上がる。
そして、顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
「どうしてお前たち人間は、俺から何もかも奪うんだよ!!」
みんなが固まった。
「俺が……何をしたっていうんだよ!!」
そのまま、とらわかは泣き出してしまった。
ぼくは呆然として見ていた。
(え……なに……?)
誰も何も言えない。
とらわかは涙をぬぐいもせず、ふらふらと歩き出した。
「とらわかさん!」
ひかりが呼ぶ。
「待って!」
まおも声をかける。
でも、とらわかはまったく振り向かなかった。
そのまま、一人で村のほうへ消えていく。
残されたぼくたちは、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
ついに、春になった。
やわらかい風が村を通りぬけ、草のにおいがする。
寺子屋では、前に旦那さん猫が言っていた通り、卒業の日がやってきた。
ぼくとせいか。
ドラとレオ。
まおとセバスチャン。
むねゆき、ひかり――そして、とらわかまで。
たくさんの仲間たちが寺子屋を卒業した。
そのかわりに、旦那さん猫がどこかから連れてきた新しい猫たちや、村の小さな子猫たちが入学した。
にぎやかな声を聞きながら、なんだか少しさみしくなる。
剣術の練習は続いていた。
びゃくや先生の代わりに、今はむねゆきが教えてくれている。
「旅に出るまでの期間限定先生だ!」
そう言って木刀を振るむねゆきは、ちょっと得意げだった。
寺子屋を卒業したぼくたちは、昼になると秘密基地へ集まる。
やることは一つ。
「どら猫商店」の打ち合わせだ。
「売る物は燻製だけじゃ弱いな」
「道具もあったほうがいいかも」
「移動しながら店ってできるの?」
みんなでわいわい話し合う。
でも。
そこに、ドラの姿はなかった。
ドラはあの日から、毎日家の手伝いをがんばっているらしい。
薪割り、水くみ、掃除、買い出し。
レオが見に行ったら、汗だくで働いていたそうだ。
「本気なんだな、あいつ」
レオがぽつりと言った。
ぼくはうなずいた。
もしかしたら、出発の日に間に合わないかもしれない。
でも、その時は決まっていた。
「ドラの仕事が終わったら、みんなで迎えに来よう」
誰かが言って、みんながうなずいた。
そして今日。
長い話し合いの末に、ついに決まった。
「三日後の朝、この村を旅立つ」
秘密基地が静かになる。
三日後。
ずっといたこの村を出る。
楽しみなはずなのに、胸がぎゅっとなった。
ぼくは春の空を見上げる。
本当に、旅が始まるんだ。
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