第14話 決闘再び!? とらわかの勘違い宣戦布告 前編
まだ空が暗い早朝。
ぼくは、いつもの道を走っていた。
ザッ、ザッ、ザッ――。
足音だけが静かな村にひびく。
(最近、いろいろありすぎだ……)
走りながら、ぼくはこの数日のことを思い出していた。
まず――びゃくや先生のことだ。
あの日、村長に呼ばれて聞かされた。
「びゃくやが、いなくなった」
その言葉が、最初は意味がわからなかった。
藤さんから木刀を受け取った次の日、嫌な予感はあった…
でも…いきなりだった。前の日まで、いつも通りだった。
笑って、怒って、ぼくに木刀まで届けてくれたのに。
次の日には、姿がない。
村の猫さんたちに聞いても、誰も知らないらしい。
旦那さんが探しているけど、まだ見つかっていない。
しばらく剣術の授業も休み。
(なんなんだよ、先生……)
怒りたいのか、心配なのか、自分でもわからない。
ただ、胸の中が落ち着かなかった。
でも――悪いことばかりじゃない。
せいかたちの燻製試食会。
あれはすごかった。
長老たちまで集まって、広場みたいな場所で大きな会になった。
せいかだけじゃない。
げんさんや、手伝ってくれた村の猫さんたちもみんな来ていた。
ぼくまで緊張した。
長老たちが、一口食べる。
しーん、と静まり返る会場。
そして――
「うまい」
その一言で、空気が変わった。
村の猫さんたちが一気にわっと喜んだ。
中には悔しそうな顔の長老もいたけど、それも少し面白かった。
せいかは、びっくりした顔のあと、泣きそうに笑っていた。
(よかった……ほんとによかった)
そのあと、村長と長老たちの話し合いがあって。
ぼくとせいかは、正式にこの村にいていいことになった。
さらに燻製は、冬に備える保存食として広めることも決まった。
ザッ、ザッ、ザッ――。
ぼくは少しだけ速く走る。
うれしいことも、不安なこともある。
でも今は、前に進むしかない。
その日の午後。
ぼくたちは、秘密基地に集まっていた。
今日はもちろん――どら猫商店の作戦会議だ。
「まずは何を売るかだな!」
むねゆきが腕を組む。
「保存食は強いわね」
まおもうなずく。
「旅先で仕入れて売るのもありだな」
セバスチャンまで真面目に話していた。
そんな中――。
のそのそ、と入口からドラが入ってきた。
でも、いつもの元気がない。
耳もしょんぼり下がっている。
「どうした?」
レオがすぐに聞いた。
ドラはうつむいて、しぼり出すように言った。
「みんな……ごめん」
嫌な空気が流れる。
「俺、やっぱり……みんなと旅に出られないかもしれない……」
「え?」
一同の声がそろった。
ぼくも思わず固まる。
どら猫商店を言い出したのは、ドラだ。
その本人が行けない?
「なにがあった?」
レオの目が細くなる。
ドラは苦笑いした。
「母ちゃんがさ……お前には旅なんて無理だ、この村にずっといなさいって……」
「は?」
むねゆきが立ち上がる。
「なんでだよ!」
「ドラの自由じゃないか!」
「子どもの挑戦を止めるなんてひどいわ!」
まおまで怒っている。
「そうだよな! うちの母ちゃんひどいんだよ!」
ドラも急に元気よく同調した。
(……ん?)
ぼくは首をかしげた。
なんだろう。
何か引っかかる。
「おい!」
レオが前に出る。
「これはどら猫商店の危機だぞ! みんなでドラの母ちゃんを説得しようぜ!」
「え? ちょっと……」
ドラがあわてる。
「そうだそうだ!」
「自由は大事だ!」
「みんなで旅に出ようぜ!」
みんな一気に盛り上がる。
でもドラだけ、顔が青い。
「いや……待ってくれ……母ちゃんにも何か考えがあるかもしれないし……」
歯切れが悪い。
「え? このまま旅に出られなくてもいいのかよ?」
むねゆきがぐいっと近づく。
「それは絶対嫌だ!」
「だったら俺たちに任せろ」
セバスチャンがにやりと笑う。
「う、うん……」
ドラがうなずいた瞬間、ぼくと目が合った。
その目は――助けてって言ってる気がした。
(やっぱり変だ……)
「そうだ!」
ドラが急に叫ぶ。
「こんな大勢で行ったら母ちゃんも逆ギレするかもしれない! まずは俺ひとりでもう一回説得してみる!」
「お前、一人であの母ちゃんを説得できるのか?」
レオが冷たく言う。
「それは……」
ドラがつまる。
「でも、いきなり大人数で行くのは迷惑なのも事実ね」
ひかりが静かに言った。
「わ、分かった!」
ドラが飛びつくように言う。
「じゃあ、オレとレオ……あと、こうたの3人で行こう!」
「は?」
思わず声が出た。
ぼく、今なにも言ってない。
「それがいい!」
「決まりだな!」
「こうた頼んだぞ!」
みんな勝手にうなずいている。
「こうちゃん、お願いね!」
せいかまで笑顔だ。
「う、うん……」
返事はした。
でも胸の中では、警報が鳴っていた。
(これ……絶対めんどうなやつだ……)
ドラの家へ向かう道。
先頭を歩くレオに聞こえないように、ドラがこそこそ話しかけてきた。
「こうた……巻き込んでごめん……」
「まあ……やるだけやってみるけど」
ぼくは小さくため息をつく。
「あんまり期待するなよ」
「オレ、ただみんなに愚痴りたかっただけなんだけど……」
(それを最初に言えよ……)
ぼくは心の中でつっこんだ。
ドラの家に着くなり、レオが胸を張って叫ぶ。
「お話があります!少しお時間よろしいでしょうか!」
勢いがすごい。
家の奥から出てきたドラのお母さんは、少し驚いた顔をしたけれど、ちゃんと中へ通してくれた。
座るなりレオが口火を切る。
「お話はドラから聞きました!」
びしっと指をさす。
「どうして子どもの挑戦を邪魔するのですか! 俺たち猫は自由ではないのですか!」
ドラ母さんは、ぽかんとしていた。
ぼくの横で、ドラは小さく震えている。
「……うちの息子から、何て聞いたのか詳しく教えてもらえる?」
やさしい笑顔。
でも、なんだか怖い。
レオはドラから聞いた話をそのまま伝えた。
その間、ドラは半べそだ。
全部聞き終えると、ドラ母さんはにっこり笑った。
「なるほど。うちのバカ息子がごめんなさい」
その笑顔のまま言う。
「みんな、少し勘違いしているみたいだね」
「勘違い?」
ぼくが聞き返す。
「昔、この子に木刀を買ってあげたの」
ドラ母さんは、ドラの腰の木刀を見た。
「どうしても欲しいって頼まれてね。でも、うちは見ての通り裕福じゃない」
静かに続ける。
「だから断ったの。でもこの子が、薪割りも草むしりも家の手伝いも絶対やるからっ
て言うから、仕方なく買ってあげたのよ」
レオの耳がぴくっと動いた。
ドラの汗が止まらない。
「そのあと、この子どうしたと思う?」
笑顔が少し引きつる。
「手伝ったのは最初の数日だけ。だんだん理由も言わず、何もしなくなった」
レオの勢いが、しゅん……と消えていく。
「私が旅の話で言ったのはね」
ドラ母さんはドラを見た。
「約束も守れない今の状態で、本当に大丈夫?」
「みんなに迷惑をかけるくらいなら、私は認められないよ?」
ドラは完全にうつむいた。
「それをこのバカ息子は……」
ぎろり。
ドラがびくっと跳ねた。
ぼくは勇気を出して前に出る。
「でも、ぼくたちは……お互いの欠点を助け合って旅したいんです」
声が少し震える。
「そのためには、ドラの力も必要なんです。なんとか認めてもらえませんか?」
ドラ母さんは少しだけ目を細めた。
「あなたたちがやりたいのは“商店”でしょう?」
「……はい」
「商店にとって、約束を守ることは何より大事なはず」
まっすぐな言葉だった。
「まずは母親との約束を守ってもらいます。話はそれからです」
……正論すぎた。
ぼくも、レオも、ドラも。
三人そろって、何も言えなくなった。
ぼくとレオは、重たい足取りで秘密基地へ戻っていた。
ドラは家に残った。
少しでも、約束していた手伝いを進めるらしい。
「……あいつ、今ごろ薪割ってるかな」
レオがぼそっと言う。
「たぶん、泣きながらやってるよ」
ぼくもため息まじりに答えた。
秘密基地に着くと、みんなが待っていた。
「どうだった?」
せいかがすぐ聞く。
ぼくたちは、ドラ母さんとの話を全部説明した。
約束を守っていなかったこと。
旅を反対された本当の理由。
そして――まずは信頼を取り戻せと言われたこと。
話し終わるころには、みんな静かになっていた。
「……そりゃ、どうしようもないな」
むねゆきが頭をかく。
「完全にドラが悪いわね」
まおも苦笑いする。
「反論の余地なしだな」
セバスチャンまでうなずいた。
でも。
(それでも……)
ぼくは思う。
この旅に、ドラは絶対必要だ。
明るくて、みんなをつなげる力がある。
何か方法を考えないと――。
「おい! 人間!」
突然、後ろから怒鳴り声がした。
振り返ると、とらわかが立っていた。
腕を組み、ものすごい顔でぼくをにらんでいる。
(……この秘密基地、来客多すぎない?)
(全然秘密じゃないんだけど)
「なんだよ。今、大事な話してるんだよ」
セバスチャンが冷たく言う。
その後ろに、ひかりがさっと隠れた。
「こっちも大事な話だ!」
とらわかが地面をどんっと踏む。
「お前、ひかりさんを無理やり旅に連れて行こうとしているらしいな!?」
「……え?」
ぼくは固まった。
「ニコラスさんから聞いたぞ!」
びっくりして、ひかりを見る。
でも、ひかりは目をそらして、ぜんぜんこっちを見ない。
(……おい)
(なにその反応)
「オレと決闘しろ、人間!」
とらわかがびしっと指をさす。
「そして、オレが勝ったら! ひかりさんとの旅はあきらめてもらうぞ!」
胸を張り、正義の味方みたいな顔をしている。
自信満々だ。
でもぼくは、心の底からげんなりしていた。
(なんで……)
(最近ぼく、何にも悪いことしてないよな?)
(なんで毎回こうなるんだよ……)
「こうちゃん…」
頭を抱えたくなるぼくの横で、せいかが心配そうにつぶやく。
いや、そんな顔しても闘わないよ?
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