第13話 突然の卒業とそれぞれの進む道 後編
その夜。
ぼくとせいかは、そろって村長の部屋の前に立っていた。
「……行こう」
小さくうなずきあって、ふすまを開ける。
「村長、いいですか?」
部屋の中には、村長と藤さんが座っていた。
「ん?どうしたんだい?」
少し不思議そうな顔でこちらを見る。
ぼくは、深呼吸をしてから言った。
「僕たち……春になったら、旅に出ようと思います」
せいかも、続ける。
「元の世界に帰る方法を探す旅に出ます」
少しの間、沈黙が流れた。
「……そうかい」
村長は、静かにそう言った。
その声は、いつもより少しだけやわらかかった。
「私たちを、この村に住まわせてくれてありがとうございました」
せいかが、頭を下げる。
ぼくも続ける。
「人間が嫌いなこの村で、僕たちを受け入れるのは大変だったはずです。それでも、ただ置いておくだけじゃなくて……一緒に暮らして、守ってくれた。本当に感謝しています」
村長は、ふっと鼻を鳴らした。
「大したことじゃない」
少し冷たい言い方。
「お前たちが役に立つと言ったから、村のために必要だと思っただけだ」
「またそんな言い方して……」
藤さんが、くすっと笑う。
「寺子屋に通わせたのは、村の発展と関係ないですよね?この世界のこと、ちゃんと学ばせたかったんでしょう?」
「フンッ!」
村長は、少しだけ顔をそむけた。
その様子に、ぼくは思わず笑いそうになる。
そして、もう一度まっすぐ村長を見る。
「本当は……この村で、ずっと一緒に暮らしたいです」
胸の奥から、言葉が出てきた。
「でも、僕たちには目標があります。寂しいけど……進まないといけないんです」
村長は、ゆっくりとうなずいた。
「そうだね」
少しだけ、遠くを見るような目。
「でも、大丈夫かい?」
まっすぐこちらを見る。
「旅は厳しいよ。私も昔旅をしていたからわかる。ご飯も、寝る場所も、お金も……全部、自分たちでなんとかしないといけない」
その言葉は、重かった。
でも――
「フフッ」
藤さんが、やさしく笑う。
「この子たちなら大丈夫ですよ」
「ここでも、自分たちで考えて行動して、ちゃんと居場所を作ったじゃないですか」
村長は少しだけ考えてから、ふっと笑った。
「……そうだな」
「全く、村長は過保護すぎるんですよ」
「そんなんじゃないよ!」
むきになって否定する村長。
部屋の中に、少しだけやわらかい空気が流れた。
ぼくは、思い切って聞いてみた。
「もしよければ……村長の旅の話、聞かせてもらえませんか?」
「今後の参考にしたくて」
「それはいいですね」
藤さんが立ち上がる。
「お茶を入れてきますね」
なんだか、楽しそうだ。
「全く……」
村長はため息をついたけど、少しうれしそうだった。
そして、ゆっくりと話し始める。
村長は、別の町で生まれたらしい。
でも――子どものころに、親に捨てられた。
その日を生きるだけで精いっぱい。
ご飯もなくて、寒くて。
ただ必死に生きていた。
そして、ある日。
とうとう道ばたで倒れた。
お腹がすきすぎて、もう動けなかった。
(このまま死ぬんだ……)
そう思った、そのとき。
「お前、大丈夫か?」
声をかけてきたのが――
人間と、二匹の子猫の旅人たちだった。
その人間の名前が、「へいた」。
そして、その子猫の一匹が――
今の旦那さん猫だったらしい。
へいたも、この世界に突然来てしまったらしくて。
とりあえず旅をしていた。
村長は、そのままついていった。
一緒に旅をして。
困っている猫を助けて。
物々交換で食べ物を手に入れて。
少しずつ、生きていった。
そして――
この場所にたどり着いて。
へいたと別れて。
旦那さん猫と一緒に、この村を作った。
それが、今につながっている。
「こうたと最初に会ったときは驚いた。本当にへいたにそっくりだったんだ」
こうたを眺めながら目を細める村長。
だから出会ったときにびっくりした顔をしていたんだ…へいたさん…聞いたことがある気がするけどどうしても思い出せない…
村長が話を続ける。
「私たちの時代はね」
村長が、静かに言う。
「今みたいにお金がなかったから、それでもなんとかなった」
そして、少しだけ真剣な顔になる。
「でも、お前たちは違う」
「ちゃんと考えなさい。お金のことも、大事だよ」
「……はい」
ぼくは、しっかりとうなずいた。
そのあと、部屋を出て。
自分の部屋に戻る。
ふとんに入って、天井を見上げた。
(旅……か)
楽しみと。
少しの不安。
いろんな気持ちが、ぐるぐる回る。
お金か…
確かに旅を続けるなら大事なことだ。なんとかしないと…
ぼくは、ぎゅっと目を閉じた。
春は、もうすぐそこまで来ている。
次の日の朝。
ぼくは村長の家を飛び出していた。
(急がないと……!)
昨日、村長の話を聞いて、ひとつ思いついたことがある。
うまくいけば――
みんなの不安も、悩みも、まとめて解決できるかもしれない。
朝、せいかに話したら。
「いいと思うよ」って、笑ってくれた。
あとは――ドラだ。
村の中を走っていると、すぐに見つかった。
ドラは道ばたで、ぼんやりしていた。
「おう……こうた……」
元気がない。
やっぱり、昨日の話を引きずってる。
「ドラ!」
ぼくは、息を整えながら言った。
「商店だよ!一緒にお店を作ろう!!」
「は?」
ドラが目を丸くする。
「ちょ、ちょっと落ち着けって!いきなりどうした?」
ぼくは、一気に話した。
旅にはお金が必要なこと。
でも、一人じゃできることは少ないこと。
だから――みんなで商店を作ればいい。
役割を分けて、稼ぎながら旅すればいい。
「つまり!」
ぼくはぐっと前に出る。
「商店を作って、みんなで旅に出ようってことだよ!」
一瞬、しんとなる。
ドラの顔が、ゆっくり変わっていく。
目が、だんだん輝いていく。
「……そっか」
ぽつりとつぶやく。
「そうだよな……!」
顔を上げた。
「みんなで旅に出ればよかったんだ!!」
「そうだよ!」
ぼくも笑う。
「みんなで行けばいいんだよ!」
「お前天才か?」
「俺もそう思う!!」
二人で大笑いした。
さっきまで暗かったドラが、うそみたいに明るくなっている。
「よし!」
ドラが勢いよく立ち上がる。
「寺子屋終わったら秘密基地集合な!」
「みんなに話してくる!!」
そう言って、走っていった。
(よかった……)
ぼくは、ほっと息をついた。
そして――
その日の午後。
秘密基地に、みんなが集まった。
ドラが前に出る。
少し緊張している。
でも、まっすぐみんなを見る。
「……話がある」
深呼吸して。
「旅をするために、商店を作りたい」
そして、ぐっと頭を下げた。
「俺は……やっぱり、みんなと一緒にいたい」
「だから……ついて来てくれ!お願いします!」
しん、と静かになる。
そして。
「俺はいいと思うぞ」
むねゆきが笑う。
「分担すれば、剣の修行もできるしな」
「私たちも助かるわ」
まおがうなずく。
「ね?セバスチャン?」
「私は、まおさまに付いていくだけです」
いつもの調子。
「私も大丈夫よ」
ひかりも言う。
「監視って言えば、ニコラスも許すはずだし」
そして、みんなの視線がレオに集まる。
「ドラ」
レオが、静かに言う。
「ずっと悩んでたのか?」
「なんで相談しなかった?」
「幼馴染だろ?」
ドラは、うつむいた。
「……ごめん」
でも、レオは笑った。
「今度からはチームだ」
「なんでも相談しろよ!」
「……うん!」
ドラも笑った。
その瞬間。
みんなで旅に出ることが、決まった。
「よし!」
ドラがまた前に出る。
「最初に決めることがある!」
「何を売るか?」
「どこ行くか?」
みんなが口々に言う。
でもドラは、ドヤ顔で言った。
「商店の名前だ!」
(え?そこ?)
ぼくは思った。
でも――
「確かに……」
「名前大事かも!」
みんな、乗り気だ。
(うそだろ……)
「じゃあこうた!」
ドラが指さす。
「お前がつけろ!」
「は?」
間の抜けた声が出た。
「かっこいいの頼むぞ!」
プレッシャーがすごい。
(やばい……何も思いつかない)
頭の中で、ぐるぐる考える。
ねこ……猫……ネコ……
そして――
「どらねこ商店……」
小さくつぶやいた。
「ぼくの世界の言葉で、どら猫って――」
やけくそで言う。
「気高くて、自由な猫って意味なんだ!」
一瞬の沈黙。
そして――
「かっこいい!!」
「いいじゃない!」
「俺たちにぴったりだ!」
(うそだろ!?)
大盛り上がりだ。
横を見る。
せいかが――
めちゃくちゃ冷たい目で見ていた。
(ばれてる……)
ぼくは目をそらした。
でも――
もう止められない。
こうして。
ぼくたちの商店。
「どら猫商店」が――
誕生した。
秘密基地からの帰り道。
「どうするの?どら猫って、そんなにかっこいい言葉じゃないよ?」
せいかがじーっとぼくを見る。
「だって何も思いつかなかったんだもん……」
ぼくは笑ってごまかす。
「俺に任せたみんなの責任だよ。それに、人間は少ないらしいし、バレないって!」
「はあ……」
せいかはあきれ顔だ。
「昔からそういうとこあるよね?」
家に着くと――
玄関で藤さんが待っていた。
風呂敷を持っている。
「こうた」
静かな声で呼ばれる。
「びゃくやさんが、これを」
差し出されたのは――木刀だった。
「え?」
手に取ると、ずっしり重い。
中に、小さな手紙。
開く。
『弟子のこうたへ。この木刀をお前に託す。修業は必ず続けろ』
それだけ。
外から、ひゅうっと冷たい風が吹いた。
(なんだ……これ)
胸が、ざわっとした
最後まで読んでいただいてありがとうございます!
次回更新は、4月25日の予定です。ブックマーク登録よろしくお願いします!
noteでも活動してます。よかったら「どら猫商店」で検索してみてください!
色々な「どら猫」たちのイラストも掲載してます。
ぜひ、遊びに来てください!




