わたし、不治だから
「なあ、ユラ」
ジェラーが、お姉さんを見た。
「ユラよぉ」
お姉さんは答えない。
「不治、どうなんだよぉ」
涙の残る顔から、表情が消えた。
「おめえ、そいつ抑えられてんのかぁ?」
ジェラーが、一歩近づいた。
「無理だろうがよぉ」
「近づかないでください」
ぼくはお姉さんの前へ出た。模型を片手へ持ち替える。
ジェラーは足を止めなかった。
「見せろやぁ」
伸びてきた手首を掴もうとした。
指を閉じるより先に、手が引かれる。
もう一度追う。ジェラーの指が、ぼくの肘の内側を払った。
腕が外へ逸れる。
「見せろやぁ」
開いた隙間へ、よれたスーツの肩が入ってきた。
ぼくは横へ踏み込んだ。刃を作ろうとしたところで、お姉さんの手が上がる。
ジェラーは、その手を取った。
ぼくが思っていたよりも、ずっと優しく。
掴んだ手を、ゆっくり持ち上げる。
親指で手首を撫でる。
「おめえ……」
笑みが消えた。
「おめえよぉ」
撫でていた指が止まる。
「そろそろ死ぬな?」
「は?」
模型が、手の中で滑った。
慌てて抱え直す。
こいつは、またぼくを混乱させようとしている。
さっきは首を落としても笑っていた。今度は、お姉さんが死ぬと言う。
「ジェラー!」
叫んだ。
何を続ければいいのか、わからなかった。
お姉さんが顔を上げる。
「ぼくくん、平気だよぉ」
いつもの声だった。
「わたし、元気だからねえ」
「ジェラー、離してください」
「やなこった」
お姉さんも、掴まれた手を少し引いた。
「離してよぉ」
「ほっといたら死ぬだろうがぁ」
「死なないもん」
少しだけ頬を膨らませる。
「不治のユラだからぁ」
「不治だろうが、馬鹿やろう」
「治療、不要だから不治……」
ジェラーが鼻で笑った。
「あ? なんだそりゃあ」
お姉さんの手首を掴んだまま、呆れた顔をする。
「ばーかみてえなこと言うなやぁ」
ぼくは、お姉さんを見た。
お姉さんも、ぼくを見た。
目が合った。
桃色の瞳が、ほんの少し揺れた。
……あれ。
やっぱり違うじゃん。
不治のユラ。
治療がいらないから、不治。
お姉さん。
やっぱり、それ、違うじゃん。




