6.美しい朝
数日後。私たちの予想どおり、邸を抜け出したアンナが、駅でレックスという軍人に引っかかったという報告が入りました。
そしてその日の夜、アンナは自分の部屋の宝石類をいくつか持ち出し、置手紙すら残さずに姿を消したのです。
「キティ様、奥様が……!
アンナ奥様が、若い男と夜行列車に……!いかがしたらよろしいのでしょうか…?」
翌朝、青ざめた侍女長が私の元へ駆け込んできました。
私はわざとらしくお茶のカップを落とし、驚愕の表情を作ってみせました。
「まあ……!なんということでしょう……!侍女長、行き先は分かっているのですか?
アレク様、すぐに追手を……!アンナ様を、アンナ様を連れ戻さなくては!
醜聞が知れ渡る前に…公爵家の名にに傷がつく前に早くっ…」
「キティ、落ち着くんだ。追う必要はない」
騒ぎを聞いて現れたアレクは、冷徹な声で周囲の使用人たちを制しました。
「不貞を働き、我が家の名誉を汚して出て行った女だ。
ヴァレンティ公爵家にそのような夫人は最初から存在しなかった。……これより、社交界、及び関係各所には『アンナ夫人は重い病により、長期療養に入った』と通達する。
公爵家の名誉のため、間違いのないように通達を徹底させろ。よろしく頼む」
使用人たちが静まり返る中、アレクは私を見て、微かに頷きました。
アンナが使っていた主寝室。
私は豪華絢爛なその部屋に入り、アンナの実家の紋章入りのブラシや化粧品、香水瓶など全部の品を、鏡台から取り出し、事務的にゴミ箱へと放り込みました。
物が捨てられるごとに、灰色だった日常が霧散し、色彩が豊かになっていく。
最後に派手好きだったアンナの豪華なドレスを衣装部屋から撤去し終わったとき、清涼な空気が部屋を満たす。
「さようなら、アンナ。
せっかく薔薇色の檻で美しく囀らせてあげてたのに、自分から飛び出しちゃうなんて。
本当に愛すべきお馬鹿さん、楽しい楽園の時間はもう終わりよ。甘い恋から目が覚めるのはいつかしらね?」
窓の外を見上げると、青空がどこまでも広がっていました。
不純物がきれいに消え去ったこの公爵邸は、驚くほど静かで、合理的で、美しかった。
ようやく、私の世界が本当の姿を取り戻した。
私は高鳴る胸を抑えながら、アンナがいなくなったベッドに、そっと腰を下ろしました。




