5.密室のカウントダウン
その夜、私はアレクの執務室のソファで、彼の膝に身を委ねていました。
「ふふ、アレク。セルジオ様は本当に素晴らしいわ。
今日、アンナのことを実に見事に突き放して見せました」
アレクは私の柔らかな金髪を指で弄びながら、低く満足げに笑いました。
「ああ、私の仕込み通りだ。
結婚契約に基づく、持参金の入金があと二年で完了する。あれの社交維持費も含めて、我がヴァレンティ公爵家の鉱山事業に全額寄付させている。
あれの実家も、持参金分割支払いなど、姑息な知恵を働かせたが…あれが嫡男を生んだ時点で油断し、資金洗浄への監視の目が緩んだ。アンナ一人が相手なら、合法的に金を取り上げる方法はいくらでもある。
あの女を『妻』として扱ってやる義理も、もうすぐ終わる。
私たちの愛を阻むものを、やっと我が公爵家から排除できるんだ」
「まあ、冷酷な公爵様。アンナが可哀想に思えてきたわ。実家からのお金を全て寄付しちゃって一文無しだなんて…。
でも、権力を振りかざして私たちを引き裂き、あなたを強引に奪い去った罰よね。
ああ、愛しているわ、アレク。早く私たちの完璧な世界を取り戻したい。
……それでね、アレク。
あの女、セルジオの愛を失って、最近は社交界での称賛すら物足りないようで、邸内を幽霊のように彷徨っていますわよ?そろそろ、次の舞台を用意して差し上げてはいかがかしら」
「その必要はなさそうだ、キティ。
密偵から面白い報告が入っている」
アレクは机の上の書類を私に見せました。
そこには、帝都の駅近くに駐屯している、レックスという名の若い軍人の素行が記されていました。
吹けば飛ぶような伯爵家の令息。
そこそこ容姿端麗で享楽的。
短絡的な若者にありがちな恐れ知らず。
息子を溺愛する母親に甘やかされて育った、傲慢な世間知らず。
まあ!あの女にそっくりでお似合いの二人だこと。
「この男、悪友どもと『高慢な公爵夫人をどちらが先に落とせるか』という賭けをしているらしい」
「まあまあ、おあつらえ向きのお馬鹿さんね」
私は声を立てて笑いました。
飢えて、乾いて、狂いかけているアンナ。
そんな彼女の前に、甘い言葉で自分を全肯定してくれる若い男が現れたらどうなるか。
結果は火を見るより明らかでした。
「アレク、私、明日から少しだけアンナの監視を緩くしますわね」
「ああ、泳がせておけ。
ヴァレンティ家の名に泥を塗る、完璧な『引き金』をな」




