14.白銀に溶ける赤
数日後の冬の夕暮れ。
アンナが久しぶりに部屋の鍵を開けられ、外へ誘い出されたという報告が私の元に届きました。
彼女が行き着いたのは、何故かかつて若い軍人と出会い、激しい恋に落ち、すべてを捨てて列車に飛び乗った、あの壮麗で凍てつく駅のホームでした。
もちろん、私が直接手を汚す必要などありません。
公爵家の息のかかった者たちが、彼女をいつの間にかそっと取り囲む。
「アンナ様、お迎えにあがりました。さあ、こちらへ」
「……え?な、何よあなたたち……
嫌よ、来ないで!」
怯える彼女の背中を、黒い外套の男が躊躇なくドンッと押し出す。
ゴォォォォォォ……!!!
激しい地響きと蒸気機関の爆音。
暗闇を切り裂くヘッドライトの光が、線路へ転落したアンナの体を真っ白に染め上げ、そして――。
「あ……あああ……っ!」
最後にアンナは何を見たのでしょう?
自分を捨てた若い軍人レックスの愛しい顔?
それとも自分を軽くあしらい続けた可愛いセルジオの顔?
それとも……いいえ、これ以上考えるのは止しましょう。所詮、最初から最後まで相容れなかったアンナと私。思いを馳せても無駄なことです。
さて、すべては計画どおり、病弱だった哀れな前夫人は「悲劇的な鉄道事故」の被害者として、静かに葬られました。
「キティお母様、実のお母様が亡くなったと聞きましたわ。本当なの?ご病気だったの?お辛くはなかったのかしら?」
自室でアニーのドレスのレースを整えていた私に、十歳になったアニーが無垢な瞳で尋ねてきました。
私はアニーの美しい金髪を優しく撫でながら、極上の母親の笑みを浮かべました。
「ええ、そうよ、アニー。
元々頭のご病気が悪くてね、でもずっと気高く生きようと頑張っておられたわ。最期はとても静かに、穏やかに天国へ召されたのよ。愛に生きた美しいご婦人だったわ。
可哀想なお母様のために、私たちはもっともっと、完璧に美しく生きなければいけないわね」
「はい、キティお母様。私、お母様のような完璧な貴婦人になります」
一切の汚れを知らない純真無垢であまりに美しい貴族の笑みを浮かべ、人形のように完璧な一礼をするアニー。
素晴らしいわ。アンナの血を引く娘だけれど、私と同じ、柔らかな金髪に青黃玉の瞳のアニー。完全に私の小さなレプリカに仕上がったのですから。




