13.最後のお片付け
セルジオ様が十九歳を迎え、皇女マリア様との婚約が正式に発表されることになりました。
ヴァレンティ公爵家にとっては、これ以上ない栄誉であり、権力の基盤を盤石にするための最後のピースです。
そんなお祝いムード一色で婚約発表の準備が忙しない邸内で、執務の合間のひととき、私とアレク、そしてセルジオ様は、書斎で静かに紅茶を啜っていました。
「セルジオ、マリア皇女殿下との婚約、社交界も大いに沸いている。祝辞も届き始めている。
だが……皇帝陛下が、どこからか少々不穏な噂を耳に挟んだようでな。」
アレクがカップを置き、冷ややかな視線を息子へと向けました。
「離れにいる、前夫人のことですか」
セルジオ様は眉一つ動かさず、淡々と言葉を返します。
「ああ。内々に、狂人がわが公爵邸内を彷徨い歩いているという噂があるがどうなのか、と問合せがあった。
可愛がっておられる皇女殿下のことだ、婚約を進めることに腰が引けているようだ。しかし、ここまできて今更、婚約不成立などとありえんことだ。
また、いくら病気療養中と濁してはいても、あの狂人が万が一にでも皇女殿下や社交界の重鎮たちの前に現れたりしたら…ましてや婚礼の場に乱入するような事態が起こればがあれば、我がヴァレンティ公爵家は致命的な不名誉を被ることになる」
「……分かりました。
父上、母上。もうこれ以上、あの不具合を我が家に置いておく理由はどこにもありませんね
社交界のすべての目が我が家に集まるその前に……問題は根本から排除されねばなりません」
十九歳になったセルジオ様は、完璧な貴族の笑みを浮かべ、静かに首を縦に振りました。
実の母親を処分する決断を、明日の天気を語るかのような軽さで行う我が息子。
私はそのあまりの冷徹さに、深く、深く満足いたしました。
「よくぞ言った、セルジオ。それでこそ私の息子だ。
幸い、数日後、アンナがかつて私を裏切って向かったあの鉄道駅を、我が家の御用列車が通過する予定だ」
アレクの瞳の奥に、暗い殺意が宿ります。
「悲しい鉄道事故だよ。療養中の前公爵夫人が、突如として正気を失い、線路に身を投げてしまった……。
社交界は悲劇の婦人を哀悼し、我が家の不名誉は、その死とともに永久に葬り去られる」
「ええ、アレク、セルジオ様。すべては私たちの完璧な家族のため。前夫人にはお気の毒なことですし、お可哀想で涙を禁じ得ませんが…承知いたしました。
私の方で、影の者たちに手配しておきますわ。アニーがこのことで傷つかないように心配りも致します。
お任せくださいませ。万事滞りなく」
アレクは私に軽く頷き、また、私もアレクと目を合わせ、深く頷き、過去を思い返しながら、極上の微笑みを最愛の家族へと向けたのです。




