12.箱庭の障壁
遠ざかっていくアンナのけたたましい笑い声を聞きながら、私はセルジオ様の隣へ歩み寄りました。
「実に見事なご対応ですわ、セルジオ様。
あの狂人をコントロールする術を、完全に心得ていらっしゃる」
セルジオ様はハンカチを取り出し、アンナに触れられた手のひらを、ひどく汚らわしいものを見る目で丁寧に拭き取りました。
「……あれは人間ではありません。ただ、特定の単語を与えれば大人しくなる、壊れたからくり人形です。
相手をするだけ時間の無駄ですが、騒がれて外部に漏れると公爵家の名誉に関わりますから」
ぽい、と汚れたハンカチをゴミ箱へ捨てるセルジオ様。
その徹底的な冷酷さに、私はぞくぞくと胸を焦がすような歓喜を覚えました。
「本当に、私の最高に自慢の息子。
アレク、私たちの教育は完璧でしたわね」
「ああ、その通りだ、キティ。セルジオは完璧なヴァレンティの跡継ぎだ。
……だが、あの狂人がいつまでも邸内をうろついているのは、少々目障りだな」
アレクの琥珀色の瞳が、冷たく細められました。
「現在、セルジオとマリア皇女殿下との婚約の根回しが佳境に入ってきている。この婚約は今後百年のヴァレンティ公爵家の権力基盤を盤石にするため、絶対に成立させねばならない。正式に内定すれば、我がヴァレンティ公爵家に社交界の重鎮たちが頻繁に出入りすることになる。
新たな醜聞が広がる危険がある以上、あの不純物をこれ以上放置しておくわけにはいかない」
「ええ、分かっておりますわ、アレク」
私はアレクの腕にそっと手を添え、暗闇の奥にある離れを見つめました。
おままごとの時間は、もう十分に引き延ばしてあげたはず。
あぁ、アンナ、哀れな道化。
抜け出したりせずに、美しい鳥籠の中にずっと囲われていれば良かったのに。
私たちの完璧で美しい箱庭を完成させるために、不純物を綺麗に掃除する最後の時が、すぐそこまで迫っていました。




