第1話 気になること①/side. リゼット
これは、あの子をリーナと呼ぶようになった翌日のこと。
まだダンジョンで九死に一生を得るような経験をしたばかりということで、わたくしとあの子は学園から公休をもらっていた。
今は、より休息に適した場所での生活をできるようにという理由で、彼女はわたくしと同じくベルナール家の屋敷で余暇を過ごしている。
昨日までは、一向に目を覚ます気配のない彼女が気になって、同じベッドで眠る日々だった。
そんな彼女もようやく目を覚まし、あの子と一緒に寝る理由が…………。
いや、必要がなくなった。
だから、昨日から彼女は屋敷の客室で寝泊まりしている。
そして今、わたくしは彼女がいるであろう客室の前をなんとなしにウロウロしている。
特に理由はない。
なんとなくだ。
「あれ、どうされたんですか? リゼット様」
いきなり目の前の扉が開かれて、わたくしの肩がビクリと跳ねる。
「……おはようリーナ」
あの子がわたくしを名前で呼ぶように、わたくしも彼女を名前で呼んだ。
ただ1つだけ、わたくしには気にかかることがある。
「なんですか? まじまじと私の顔を見たりして。何かついていたりします?」
あの子は不思議そうな顔でわたくしを見つめてから、ぺたぺたと自分の頬に触れてみたりする。
当然顔に何かが付いていたりすることはないから、自分の顔に異変を見つけることができず困った顔になっていた。
「う~ん?」
小さく唸り声を上げて、お手上げというようにわたくしへ問いかける。
「あの、なんなんです?」
「別に、なんでもないわよ。ちょっとあなたの寝ぼけた顔が情けなくて面白かっただけ」
ぺらぺらと勝手に口が動く。
何か言い訳臭いことばかり口をついて出た。
「なるほど……? もう起きてから結構時間が経つはずなんですけどねぇ。そんな風に気の抜けた顔に見えるかなぁ」
本当は寝ぼけた顔なんてしていない。
何やら上機嫌そうではあったけど、なんというか……凛々しい顔つきだった。
(なんなのかしら、このふわふわした気持ちは……)
ジッと彼女の顔を見ていると、あの子は困ったように、にへらっと気の抜ける笑みを浮かべた。
(そんな顔もなんだか…………あ~~~もうっ! そうじゃなくて!)
言いたいことも言えず余計な事ばかり考える自分に辟易して、わたくしは思い切ってありのままの気持ちを伝えてみることにした。
「ねぇ、リーナ」
「なんですかリゼット様?」
「その……わたくしに敬称は不要よ」
「はい?」
あの子は何を言われているのかわからないと首を傾げた。
わたくしの声が小さくて、聞き取れなかったのかもしれない。
もう一度同じことを言うだけ。
わかっているのに………。
「………なんでもないわ」
「えぇ??」
「なんでもないと言ったのよ!」
結局、わたくしは逃げるようにその場を去った。




