第2話 気になること②
大きく腕を上げて背筋を伸ばす。
ふかふかのベッドで寝ているからだろうか。
最近は目覚めがすこぶる良い。
「学園の寮に戻ってから、あのベッドで普通に寝れるかな……」
王子たちの失踪事件から数日。
リゼットの家で三日も眠りこけていたらしいから、事件の収束から今日で六日目だろうか。
学園の好意で休みをもらっている私は、リゼットの屋敷で世話になってしまっている。
――コンコン。
私が起きたのを見計らったかのように、部屋の扉が叩かれる。
「はい。どうぞ」
外に聞こえるように、大きめの声で応答した。
すると、すぐに扉が開いて一人の女性がやってくる。
エプロンドレスを身に纏い、ホワイトブリムを着用したステレオタイプのメイドさん。
よく手入れされた長い黒髪に銀製の眼鏡が良く似合っている。
口元の黒子が魅惑的な大人の姉さんだ。
彼女の名前はベネットさん。
私がベルナール家で生活をする間、身の回りの世話をしてくれている。
(う~~ん。何度見ても超美人。さすが公爵家というか……使用人だけ見ても格式高さがよくわかる)
「リーナ様、おはようございます。お食事をお持ちいたしますか?」
「おはようございます。ベネットさん。今朝は調子が良いので、少し多めにお願いしてもいいですか?」
淑女ならがっついたりせず控えめに朝は済ませるものなのだろうけど、私には関係ない。
こちとら平民育ちの芋女だ。
下手に取り繕ったところで目の前の本物には一瞬で看破される。
なら、素で接した方がやりやすいというものだ。
それに、空腹で腹を鳴らす方が恥ずかしい。
「リーナ様、私のことはベネットと。もう何度もお願いしたはずですが?」
「私も何度も言ってるじゃないですか。平民の私がベネットさんを呼び捨てるのは恐れ多くて無理ですよ。本当なら様をつけたいところです。むしろ、私の方がベネットさんに敬語と様付けを止めて欲しいんですけど?」
公爵家に仕えるベネットさんだが、彼女は子爵家の令嬢だという。
当たり前だけど、平民の私が舐めた口を利いていい人じゃない。
「リーナ様はお嬢様がお連れした大切なご学友です。そのような事はできませんよ」
ベネットさんはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
私の反応を楽しんでいることを隠す気もない。
どうにもお茶目な人らしい。
「……ベネットさんはリゼット様にもそんな感じなんですか?」
「まさか。お嬢様の前では必死に猫を被っておりますとも」
「それはそれは……本当に良い性格をしていらっしますね」
「ええ。それが特技ですので。……さて、それではお食事をお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
上機嫌に部屋から出て行くベネットさんを見届けて、私は部屋に備え付けられている椅子に腰を下ろす。
「妹が連れて来た友達が気になるお姉ちゃん、みたいな感じか?」
ベネットさんの優しさはどうにもむずがゆい。
(なんだか、リゼットのツンツンした態度が恋しくなるね……)
あのお姫様に毒されすぎている自分がちょっと笑えた。
「それにしても、昨日のあれはなんだったんだろうなぁ」
昨日、リゼットと顔を合わせたときのことを思い出す。
珍しくモゴモゴと話すリゼットが何を伝えようとしてくれていたのか、私はまだわかっていない。
「今日は顔を合わせてくれるかな……」
いつもとは違う珍しいリゼットの様子が、私は昨日からずっと気になっていた。




