第49話 おやすみ
(夢か?)
目覚めて最初に目に入ったのが、リゼットだった。
同じベッドですやすや眠る彼女。
私の右腕に彼女の両腕が絡みついている。
あまりにも現実離れした状況に、私は逆に冷静さを保つことができた。
(リゼットの部屋? 少なくとも私の部屋ではない)
天幕のあるキングサイズのベッドなど私は持っていない。
私の記憶はリゼットとともに、シャルルたちを連れてダンジョンから抜け出したところで途切れている。
(気絶した私を、リゼットが介抱してくれた……のかな? シャルルたちは、あの後どうなったかな……)
シャルルたちは二十五層のボスフロア、その一角にある洞穴のような場所に監禁されていた。
私の記憶では断崖絶壁の谷が延々と続くだけの場所だったはずの場所に、横穴がぶち抜かれていたからすぐに異変には気づくことができた。
中で彼らを見つけた時の様子はあまりにも悲惨だったため、できれば思い出したくはない。
(私は、どのくらい寝ていたんだろう)
なんとなく、身体の感覚的に長いこと眠りこけていたことはわかった。
起き上がれば関節がバキバキと音を立てそうな身体の固さを感じる。
そして、身体が鉛のように重い。
どこかに痛みがあるとかはないけれど、酷い気だるさでもう一眠りしたい気分だった。
(リゼットも寝てるし、二度寝させてもらうとしよう)
「おやすみリゼット」
それだけ呟いて、穏やかな気持ちで目を閉じると――しかし、すぐに頬を引っ張られて目が覚めた。
「起きたならちゃんと声をかけなさい」
「いひゃいでふ……」
私の小さな声だけで目を覚ましてしまったらしいリゼットが、ぶすくれた顔で私を見ている。
「いつまでも主人の寝床を占領して……困った平民だわ」
「なら他の場所に寝かせてくだされば良かったのに」
「何よ、私と寝るのが嫌だっていうの?」
「論点がズレてますよ……」
ちょっとした言い合いになる。
けれど、リゼットが怒っていないのは明白だった。
今も絡められた彼女の片腕が、優しく私を引き寄せる。
「あんまり心配をかけるんじゃないわよ」
「はい。ごめんなさい」
少しずつ顔が近づいて、コツンと額をくっつける。
「熱、下がったわね」
「私、熱なんて出してたんですか?」
「三日は寝ていたわよ」
「そんなにですか」
「そんなによ……」
リゼットは優しい手つきで私の髪を梳く。
むず痒いけれど、彼女のしたいようにさせた。
本当に心配してくれていたんだろうと、その小さく震える手つきからよくわかるから。
「ご主人様……すみませんが、後少しだけ、眠ってもいいですか」
彼女は、何かを言いたげな顔になったけれど、少しして頷く。
「そうね。まだ朝早い時間だもの。もう一眠りしましょうか」
そう言って、彼女は私の胸に顔を寄せるとそのまま目を閉じた。




