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乙女ゲーの主人公にTS転生した私、シナリオを放棄して推しの悪役令嬢と2人で学園ダンジョンに挑む!  作者: 真嶋 青
第一部

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第47話 決戦➁

 ◆ side. リゼット


 あの子の言葉の意味が、わたくしには一瞬わからなかった。

 わたくしは、もう既にイグニスを発動させている。

 

「何を言っているの? 私の魔法はとっくに……」

「あなたのその魔法は、そんなものじゃないはずだ! 本当はわかっているんでしょう!」


 真っ直ぐなあの子の訴えが、わたくしをさらに動揺させる。

 あの子には、わたくしの過去を話していないはずなのに。


(それでも、あなたはわたくしがこの魔法を恐れていると気づいてしまうのね……)


 この力を、もう二度と、誰かを傷つけるために使いたくはない。

 目の前の男が、どれほど怪物に成り果てようと、その魂はまだ確かに泣いている。


「……でも」


 かろうじて絞り出した、わたくしの、あまりにもか細い反論。


 それに、彼女は答えた。

 わたくしの、すべての常識を、すべての絶望を、根底から覆す言葉で。


「あなたの炎は、誰かを傷つけるだけのものじゃない!」


 その言葉の意味が、一瞬、理解できなかった。


 この炎は、呪いだ。


 エマの腕を焼き、わたくしを孤立させた。

 そして、わたくし自身の心を、狂気の淵へと誘った。

 わたくしにとっての、孤独の象徴。


(それ以外の、何だって言うの?)


 わたくしの混乱を見透かしたかのように、あの子は続けた。

 その声には、わたくしへの切実な願いが込められていた。


「その炎で、ガービンを苦しみから救ってあげてください!」


 ――救う?

 この、呪われた炎で?


 考えたこともなかった。思いつきもしなかった。

 この、破壊のためだけに存在すると思っていた力が――。

 誰かの魂を、救うことができるなんて。


 目の前で、血の涙を流し続ける、哀れな男の姿を見る。

 彼の魂は、もうとっくの昔に砕け散っている。

 死してなお、深い地獄の苦しみを味わい続けている。


 ならば。

 ならば、その苦しみの連鎖を断ち切ること。

 その呪われた肉体を、魂ごと灰に還し、安らかな眠りを与えること。

 それは果たして、破壊なのか?


 ――答えは、否だ。


「大丈夫ですご主人様。あなたの炎はただ傷つけるだけのものじゃない。私はそう信じてる。だから、私が信じるあなたの力を、あなた自身も信じてあげてください!」


(ありがとう、リーナ)


 ――わたくしは、もう、迷わない。


「お願い。応えて、《イグニス》」


 たった一言。

 囁くように魔法を唱える。


 それだけで、わたくしを包み込む焔が何倍にも膨れ上がった。

 しかし、それは徐々に小さく、小さく収縮していく。


 最後には白炎となり、わたくしの剣に光を灯す。


 瞬間、わたくしは新たなスキルを授かった。

 考えるよりも早く、その名を叫ぶ。


「〘ルクス・カリバーン〙!」


 瞬間、目の前が真っ白に染まった――。




 真っ白に染まった視界が、ゆっくりと色彩を取り戻していく。

 純白の炎が、静かに、しかし絶対的な熱量を持って揺らめいていた。


 これまではイグニスを発動させてしまえば、目の前の敵を葬り去るまで戦いへの衝動に駆り立てられていく。

 けれど、そんな衝動すらも収束させ、すべての炎を剣身へ凝縮された。

 これが、わたくしが授かった新たなスキル。


「……素晴らしい。それが完成形というわけか!」


 クロードの喜びを隠しきれない声。

 彼は、自分が手ごまとしたガービンが窮地にあっても、焦る素振りを見せない。

 むしろ、その行く末を観察するように距離を置いていた。


「ゴ……ア……」


 目の前のガービンの身体が、小刻みに震えている。

 黒い魔力で無理やり繋ぎ止められたその肉体は、わたくしの剣が放つ純白の光を前に、終わりを予感しているのかもしれない。

 血の涙を流す、その濁りきった瞳が、ほんの一瞬だけ、わたくしを見た。

 そこに映っていたのは、もはや憎悪ではない。

 それは、解放への静かな懇願だ。


(……ええ。終わらせてあげる)


 ゆっくりと一歩、前に踏み出す。

 わたくしは、白炎の剣をガービンの胸にそっと置いた。

 斬るのでも、突くのでもない。

 ただ、触れる。まるで祝福を与えるかのように。


「……お眠りなさい」


 瞬間、白炎が奔流となってガービンの全身を駆け巡った。

 それは焼く炎ではなかった。

 それは浄める光。

 黒く変色した肌、その呪われた肉が、蒼炎のように内側から淡く輝き、塵となって静かに崩れ落ちていく。


「グ……ァ……ぁぁ、温かい……」


 断末魔ではない。

 その声は、小さな幸福を噛み締めるような響きを帯びていた。

 ガービンの醜悪な顔が、その最後の瞬間に、わずかに安らかな表情を取り戻したように見えた。


 黒い霧すら残さない。完全な消滅。

 後に残ったのは、地に落ちた錆びついたバスターソードだけだった。


 わたくしはゆっくりと、クロード・ダークネスに向き直る。

 白炎の剣は、まだその輝きを失っていない。


「貴方の魔法は、至高ではない。それは、ただ、死者を弄ぶだけの、醜悪な児戯に過ぎない」

「言ってくれる。だが、まだだ、まだ終わらんよ!」


 クロードが再び、その焼け焦げた両腕を掲げる。

 そして何かの魔法を発現させようとしたところで――あの子が動き出していた。


「これ以上好き勝手にやらせるわけないだろ! クロード!」


 彼女は手を掲げると、ニヤリと笑った。


「《ヒール》!」


 魔力がないというブラフ。

 わたくしさえも欺いたことで作ったクロードの油断。


 (けれど、なぜヒールを!?)


 クロードの身体が回復していくかと思ったわたくしは、驚かされる。


 クロードの全身を蒼炎が包み、彼は地に転がった。


「ぐっ……があああ!」

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