第33話 脳みそとかないんか?
クロード・ダークネスは、元々クール系のキャラだった。
私のボンヤリした記憶だと、シャルルへの揺るぎない忠誠心を持ち、猪武者であるアルフレッドを諫める、冷静沈着な参謀役。
パーティーの頭脳であり、その言動は、常に論理的で、無駄がない。
しかし、やけに芝居がかった言葉選びと、中二病っぽいところが御愛嬌。
そんなキャラクターだった、と思う。
(――だけど、今のクロードは、何かが違う)
「殿下、お怪我はございませんか?」
「あ、ああ。助かったぞクロード」
「我は殿下の忠実なる臣。当然の事をしたまでです」
したり顔で、完璧な忠臣を演じてみせるクロード。
その姿は、一見すれば、私の記憶通りだ。
だが、私は、見てしまった。
シャルルがズッコケた、あの瞬間。
クロードの口元に浮かんだのは、焦りではなかった。
それは、ほんの一瞬だけ、確かに、私の目にはそう見えた。
――虫けらを見るような、冷たい嘲笑。
(そして、あの舌打ち)
シャルルを助けるため魔法を放った直前、あの苛立ちに満ちた音。
平時の口数の少なさは、クールキャラだからかと思っていたが、私にはクロードが原作とかけ離れた人物像に見える。
私がシナリオをしっかり把握できていないだけで、本性は元からこんなものだったのか。
それとも私が原作と全く異なる行動を繰り返してきた影響が何某かの形で反映された結果なのか。
とにかく、クロードの今の在り方は、シャルルのパーティーに不協和音をもたらしていた。
「それにも、ベルナールに続いて貴様もかフローライト。殿下の身を危険に晒すとは、どういうつもりだ?」
予想はしていたが、私はシャルルに身体強化魔法をかけたことで詰め寄られるハメになった。
「失礼しました。サポートをしようと魔法による補助をしようとしたのですが……失敗しました」
シャルルが鈍臭くて勝手に転んだとは言えない。
「殿下の御身に何かあったら、貴様はどう責任を取る気だったんだ?」
「そうよ! 役に立とうと出しゃばって! あんた、調子に乗ってるんじゃないの?」
面倒な事にシャルルの応援をしていたカカシちゃん(名前を知らない)までクロードに同調した。
「やはり、お前たちは信用ならないな。殿下、こやつらとの共同戦線は、ここまでにした方が良いのではないでしょうか?」
「そ、そうか? 今のはシャルルが自分で転んじまっただけに見えたが?」
以外にもアルフレッドは私を庇うような事を言ってくれたが、それが逆効果だった。
「俺が転んだ、だと? アルフレッド、転ばされたの間違いだよな?」
シャルルの駄々をこねるような、しかし、決して逆らうことを許さない王族としての圧がアルフレッドにのしかかる。
アルフレッドは、一瞬、その巨体を硬直させシャルルか目を逸らした。
「っそ、うだな。悪かった、シャルル。あの女の、妙な魔法のせいだ」
長い、長い沈黙の末。
アルフレッドは、主君が望む言葉を選んだ。
その瞬間、私の中で、アルフレッドに芽生えた、ほんの僅かな好感がまた消え失せた。
(――結局、そっち側か)
結局は、長いものに巻かれるだけの人間。
前世で、嫌というほど見てきた光景。
胸の中に、冷たいものが、広がっていく。
「そうだろう? わかってくれるか、アルフレッド!」
満足そうに頷くシャルル。
そして、その横で、クロードが、再びあの粘つくような声で議論の火に油を注いだ。
「――では、話は決まりましたな。リーナ・フローライト。貴様の、未熟かつ無謀な魔法行使が、殿下を危機に陥れた。この罪、どう贖う?」
「待て、クロード」
意外にも、その言葉を遮ったのは、シャルル本人だった。
私は、内心で身構える。
(何が来る? 王子直々の、もっともらしい説教か?)
「リーナ」
シャルルは、私に向き直り、これまでで最も甘く、最も粘っこい笑みを浮かべた。
「君の、私の役に立ちたいという気持ちは、嬉しく思う。だが、やり方が、少しだけ、間違っていたようだ」
背筋に、悪寒が走る。
これだ。これこそが、私が最も嫌悪する、この男の本質なのだ。
「罰を与えるのは、今回はやめておこう。その代わり、君には、私の側で、正しい支援のやり方を、学んでもらう必要がある」
彼は、まるで救いの手を差し伸べるかのように、言葉を続ける。
「リーナ・フローライト。君は、今日から、私のパーティーに正式に加入して手を貸して欲しい。どうだ?」
それは、もはや提案ではなかった。
それは、拒絶を許さない、絶対的な王族の勅命。
彼らのパーティーには既にチアガール兼ヒーラー集団が居るはずだが、まだ足りないらしい。
(本当に殴り飛ばしてやろうか……)
しかし、私が何を言うよりも早く、シャルルの要求は即時却下された。
「それは、できませんわね」
私の隣で、静かに、絶対零度の声が響いた。
リゼットだ。
彼女は、これまでで最も冷たい目で、シャルルを真っ直ぐに射抜いていた。
「彼女は、わたくしの『所有物』ですわ。殿下と言えども、他人の持ち物を勝手にどうこうする権利はございませんでしょう?」
彼女らしいその言い分に、私は笑い出してしまいそうになった。




