だん@ダンボール
前回のあらすじ!
さっちゃんの誘いでパパ活へ向かうれんちゃん。さっちゃんのパパ活の相手は、サファリパーク経営者の超魔王だった。しかし、超魔王はバッファロー暴走事件の抜き打ち検査で不在だという。代わりにモンスターとパパ活するれんちゃん達だったが、そこに、超魔王を取材する自称新聞記者のボロボロスーツオジサンが乱入する。サファリパークの動物たちのお願いでボロボロスーツオジサンを○しようとするれんちゃんだったが、だんちゃんに止められ、ボロボロスーツオジサンは警察に引き渡すことに。そのお礼として、れんちゃんは魔法制御アイテムを手に入れるのだった。
「れんちゃんとだんちゃーん?
お父さんが二人を治す方法見つけたみたいだから、研究室に行ってあげて?」
「はーい」
週末の夜。
私ことだんちゃんは、そんなお母さんの声でゲームから顔を上げた。
正確には、顔を上げたのはれんちゃんことお姉ちゃんである。
せっかくの休みをゲームで潰すという贅沢な時間の使い方を、ずっと脳内から見せられ続けていた私は、思わず愚痴をこぼした。
〈はあ、ようやく元に戻れるわ〉
(うーん、私としては、もうちょっとこのままでもよかったんだけどな?
だんちゃんの学校に行くのも面白かったし?)
〈私はよくないから!
さっさと戻してもらいに行くわよ!〉
何か言っているお姉ちゃんをせかして、お父さんの研究室へ。
研究室などという大げさな名前がついているが、実際はただの庭にあるちょっと大きめの物置だ。
ただ、扉に「七瀬理研究所」という、ダンボール製の看板がかかっている。
〈いつも思うんだけど、よくこんなトコ研究所って言い張れるわよね?〉
(突っ込んだら負けだよ、だんちゃん)
自称研究所の扉を開くお姉ちゃん。
そのまま、慣れた様子で、物置の奥へと声を張り上げる。
「お父さーん、治す方法見つかったってホント?」
「ああ、ホントだとも。
弾――じゃない、今は連だったね。こっちに来なさい」
棚の奥から帰って来た声を受け、物置の奥へと向かうお姉ちゃん。
なお、連、弾というのは私たちの本当の名前だ。
れんちゃん、だんちゃん、というのはあだ名である。
もっとも、本名で呼ぶのはお父さんくらい。みんなあだ名で呼ぶものだから、すっかり、れんちゃん、だんちゃんで定着してしまった。
つまり、未だ連、弾と呼ばれる程度には、お父さんと私たちは顔を合わせる機会が少ない。
といって、仲が悪いわけでもない。
「弾、ギャルの格好も似合っていたが、そっちの格好も似合うじゃないか?」
「そうでしょ? だんちゃんもギャル以外の可能性を探してみればいいのに」
〈余計なお世話よ! それより、さっさと治して!〉
さっそく、清楚系の格好に突っ込んでくるお父さん。
悪乗りするお姉ちゃん。
しかし悲しいかな、私の脳内ボイス声は二人に届かない。
代わりに、お姉ちゃんが声を上げた。
「えっと、だんちゃんが余計なお世話だから、さっさと治して、だって!」
「ん、そうだったか? では、さっそく私の研究成果をお披露目しよう!」
お父さんが持ってきたのは、ただの箱。
ダンボール製で、両手で抱えられるくらいの大きさだ。
受け取ったお姉ちゃんは首をかしげる。
「ええっと、これ、どうすればいいの?」
「うん、これぞ融合した魂を引きはがす霊的制御マシン試作弐拾四号機!
その名も! 試作型ただの箱くん二十四号!
ちなみに一号から二十三号はお母さんに間違って資源ごみに出されたり、幽霊にさらわれたり、別の次元に転送されたりてしまって行方不明だ。
この間、連が兎さんからもらったという、腕輪の入っていたダンボールを解析して作ったんだ!」
あ、ヒントにしたの、腕輪じゃなくてダンボールの方だったんだ。
しかし、ここは突っ込んでは負けなのだろう。
慣れているお姉ちゃんはお父さんの解説をぶった切って、もう一度問いかけた。
「そうなんだ。それで、どうやって使うの?」
「簡単だ。ネックレスをこの箱の中に入れればいい。ごみ箱に捨ててもダメだったが、箱の中に入れさえすれば弾と連は離れられる」
「ただの箱君二十四号」をじっと観察するお姉ちゃん。
私も一緒になって眺める。
名前の通り、見た目はまったくのただの箱、それも、通販の商品でも入ってそうなダンボール箱だ。蓋を開けても、それは変わらず、装置的要素はどこにもない。
〈大丈夫なんでしょうね?〉
(うーん、でも、やってみないと、どうしようもないし?
私も、ものすごく嫌な予感がするけど……)
今までさんざん平気で魔法を使おうとしてきたお姉ちゃんに嫌な予感を抱かせるとは、相当にヤバいブツである。
が、確かに見ているだけではどうしようもないのも事実。
(だんちゃん、心の準備は良い?)
〈……いいよ、やってみて?〉
(ん、じゃ、ネックレス入れるね?)
ネックレスを外し、ダンボール箱の中に入れるお姉ちゃん。
蓋を閉じた瞬間、視界が暗転し――
「! 戻ってる!」
「おお、実験成功だ!」
まるで部屋の電気をつけたように視界が切り替わった後。
私は、元の身体に戻っていた。
お父さんも歓声を上げる。
軽く身体を動かす私。
思い通りに動く。
視界を巡らせれば、相変わらず薄汚い物置で――
「あれ? お姉ちゃんは?」
「なに言ってるんだ。手に持ってるじゃないか?」
お父さんの視線は、未だ手に持ったままのダンボール。
つまり、このダンボール箱がお姉ちゃんなのだろう。
思わず声を上げる。
「え? 元に戻るんじゃないの!?」
「だから、試作型だと言っただろう。まだ魂を引きはがすだけで、連の身体をアバターから還元するには至っていないんだ。ちなみに、現状、魂をこの箱に閉じ込められるのは24時間が限度だ。再使用にはおよそ168時間かかる」
「は? なにそれ?」
思わずチンピラみたいな声が出た。
が、どこからかお姉ちゃんの声が響く。
「だいじょうぶだよ? だんちゃん、私、これでも動けるみたいだから」
声が聞こえる方を探ると、それに応えるように手に持った箱が動く。
箱はそのまま宙に浮くと、周囲の棚のダンボールを引き寄せ始めた。
箱asお姉ちゃんをコアにして、ダンボールが引っ付き、どこからか飛んできた私の予備の制服を身に着けた。あっという間に、女子高の制服を身に着けたイロモノダンボールロボの完成である。
「えっと、おかしいとこ、ないかな?」
「ああ、うん、おかしいとこしかないんだけど……」
説明を求め、お父さんに目を向ける。
が、お父さんはまるで実験がうまくいったかのようにうなずいていた。
「うん、うまくいったようだね。身体が元に戻せないなら、代わりに身体を用意すればいいという、我ながら素晴らしい発想は最高の形で実現したようだ!
まさにこれぞロマン!
誰もが夢見る発明の理想形!」
やはり自称研究者なぞろくな人物がいない。
こんなものを与えられて喜ぶのは子どもくらいだろう。
「れんちゃんロボはっしん!」
「いいぞ! 連!」
いや、ここに二名いた。
はしゃぐお姉ちゃんとカメラで撮りまくるお父さん。
頭が痛くなった私は、お父さんに問いかけた。
「はあ、じゃあ、またお姉ちゃんと一緒になるにはどうすればいいの?」
「え? だんちゃん、私と一緒になりたいの?」
「なりたくないけど、ダンボールロボで一日過ごすよりマシでしょ?」
「うーん、私としてはマシどころかとっても嬉しいんだけど、ちょっとすぐには戻れないっぽいよ?」
「は? どういう事?」
問いかける私に、答えたのはお父さん。
「さっきも言ったが、これはあくまで試作品だからね。
24時間、しっかり経たないと箱から連を取り出せないんだ。
ついでに言うと、距離にも制限があってね?
およそ100メートル以上離れることはできない」
「ちょっと、明日、学校あるんだけど!?」
「大丈夫、ちゃんと手を打ってあるよ?」
さわやかな笑みを浮かべるお父さん。
私は、ついさっきお姉ちゃんと一緒に浮かべた嫌な予感が、現実になりつつあるのを感じた。
―――――☆
翌日。
私は普通に学校へ登校していた。
お姉ちゃんが私の間は、清楚系という名の手抜き地味メイクにただ着ただけの制服だったが、今日はいつも通りギャルメイクに着崩した制服だ。お姉ちゃんが通う進学校じゃどうか知らないが、私が通う底辺校ではこっちがデフォなのだ。
そのお姉ちゃんは、今、鞄の中に入っている。
ダンボールを少しつぶして、強引に入れたものだ。
まったく、つぶしやすいダンボールでよかった。
「うーん、つぶされるとちょっと窮屈に感じるんだけど?」
「仕方ないでしょ? それより、しゃべらないでよ?」
念を押して、教室の扉を開く。
我がクラスはいつも通り混沌としていた。
堂々と床に座り込んでゲームをやっている生徒や、化粧に精を出す生徒なんてマシな方。床に布団を広げて寝ている生徒に、野球をやっている生徒までいる。
普通の人なら顔をしかめるところだが、しばらくお姉ちゃんの中からしか眺められなかった私は、久しぶりの感触に、ちょっと感動していた。
が、すぐに違和感に気づく。
底辺校独特の喧騒に包まれていた教室が、だんだんと静かになっていったのだ。
代わりに、みんなの視線が、なぜか私に突き刺さっている。
何かおかしいところがあっただろうか?
一応、自分の格好を確認してみたが、いつも通りだ。
首をかしげながら、席について、隣の席の友達、さっちゃんに声をかける。
「おはよ」
「お、おう」
なぜか困っているさっちゃん。どうしたんだろう?
「えっと、なんかあった?」
「あったというか、いま起こってるというか。
だんちゃん、イメチェンはどうしたの?」
そういえば、お姉ちゃんと入れ替わったの、イメチェンと思われてたんだっけ?
私はため息つきたくなるのを押さえながら答えた。
「ん? 戻しただけだけど?」
「戻したの? な、なんで?」
「なんでって、どっちかっていうと、今までが異常だったんだけど?」
「うーん、それは分かるんだけど、ね?
ほら、急に戻ったら、みんなびっくりするっていうか……」
教室を見回すさっちゃん。
私もそれに合わせて視線を動かすと、
「うそだろ……」
「おい、あの清楚系で高嶺の花系は……」
「俺の春は終わった……」
「だんちゃんマスコット化計画が……」
「アニメ見に誘おうと思ってたのに……」
「ほら、だんちゃん、みんな、前の方がいいって!」
何か教室がこの世の終わりのような雰囲気になっていた。
ちょっと失礼過ぎない?
ちなみに最後のはお姉ちゃんだ。
鞄を蹴っ飛ばして黙らせる。
その拍子だったっだだろうか。
「わ!? まず!?」
お姉ちゃんの声と一緒に、鞄からダンボールが飛び出した!
ダンボールはどこからともなく飛んで来た別のダンボールと合体!
そして、魔法少女アニメのごとく、謎の光とともに、家に畳んでおいてあったはずの予備の制服を身に着ける!
イロモノ女子高生型ダンボールロボ!
変 形 完 了 !
静まり返る教室。
だが数秒後、
「すげえ!」
「これぞロマン!」
「俺の春が始まった!」
「マスコット計画再始動!」
「魔法少女とロボットアニメについて語り合いませんか!?」
歓声が上がった。
同時、チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
「はい、みなさん、ホームルームですよー?
今日は転校生がいたはずなんですが――って、ここにいたのね?」
そして、先生は私の横までくると、ダンボールロボの手(?)を取って、教卓まで連れて行った。
「ええっと、今日からわが校に転入することになった、只野葉子さんです。皆さん、仲良くしてあげてね?」
再び上がる歓声。
私はただ愕然としながら、平然と私の後ろの席に座るお姉ちゃんを眺めていた。
―――――☆
「で? なんでこうなったの?」
昼休み。
さっちゃんと一緒に弁当を広げながら、お姉ちゃんinダンボールに問いかける。
「ええっと? お父さんから聞こえてきた通信によると、まだ試作品だから、何かの拍子に合体シーケンスが動いたときに誤魔化せるように、短期で転校手続きをしといたんだって?」
そうか、通信が聞こえるのか。
私は突っ込まずに続ける。
「そう、じゃ、明日から一週間はチャージ中だけど、どうするの?」
「うーん、病弱設定だから、一週間くらい休めるんじゃないかな?」
そうか、病弱設定なのか。
私は突っ込まずに続ける。
「もとのダンボールに戻れないの?」
「ええっと、どっちかっていうと、こっちのロボの方がデフォなんだって?」
そうか、ロボがデフォなのか。
私は突っ込まずに続ける――前に、さっちゃんがマジックペンを取り出した。
ダンボールにデカデカと□□□□を落書きしている。
※四個の□《ハコ》に入る名前は自由にご想像ください。
「さっちゃん、何やってるの?」
「んー? 気にしないで? ところでハコちゃん、頑丈そうなのに病弱なの?」
「うん、そうなの」
そうか、そうなのか。
それにしても、さっちゃんはなぜ当たり前のように会話しているのだろう。
私はついに突っ込み――
「ってホントにロボじゃねーか!?」
いや、突っ込んでない。
突っ込んだのは後ろからやってきたオタ部の不良Aだ。
すかさず、さっちゃんが答える。
「ロボじゃないって。転校生のハコちゃん」
「いや、ロボだろ!? □□□□とか書いてあるし!」
「いや、それは私が今書いただけだから」
「書いたとか、お前もちょっとロボと思ってんだろう!」
「いや、□□□□はロボって呼んだりしないから。■■だから」
二文字の■《ハコ》の中身はなんでもいい。
MSなりVFなりATなりKMFなり、子守用ネコ型ロボットなり、お好きな架空の兵器やロボの呼び方をご想像ください。
ついでに、底辺校のアニメオタクと、喧嘩らしき雰囲気にひかれて寄ってきたクラスの野次馬の視線もご想像ください。
もうやめてほしい。
「で、何しに来たの?」
しかし、さっちゃんは平然と不良Aに問いかける。
不良Aも慣れているのだろう、平然と答えた。
「いや、こっちのクラスにロボが転校してきてアニメがどうとかでって聞いたから見に来たんだけどよー?
ただのダンボールだったわ」
「タダノダンボールじゃないわよ。タダノハコちゃん。転校生よ?」
「はあ? 本気で言ってんのか? ダンボールのつくりもんだろ?」
「なに言ってんの、本物よ? ねー、ハコちゃん?」
「うん、本物だよー? よろしくね、不良Aさん」
「喋った!?」
うん、普通の反応だ。
どうやら隣のクラスはさほど汚染されていないようだ。
そう思ったのだが、
「こ、こっちのクラスにも非常識が……」
「こっちのクラスもって何よ? 他にもいるの?」
「おう! 見て驚けよ! おーい、転校生!」
隣のクラスに向かって叫ぶ不良A。
すると、なんとダンボール箱が飛んできた!
ただのダンボール箱ではない。
あっちこっちにお札が張り付いた、やけにおどろおどろしいダンボール箱だ。
そのダンボール箱は目の前で急停止すると、目の前で他のダンボールと引っ付き、ロボの形になった!
そういえば、昨日、お父さんが「幽霊にさらわれた」とか言ってたっけ?
「どうだ! 今日、転向したばかりの、野呂井八子だ!」
「あ、どうも、八潮幸子です、よろしく」
「ヨ、ヨロシ、ク……」
普通に挨拶をかわすさっちゃんと転校生。
が、それをお姉ちゃんが遮った!
「ストップ! さっちゃん! そいつ!
ダンボールロボの魂解析機能によると!
野倉先生の家に憑りついてた悪霊さんだよ!」
そういえば、少し前、先生のアパートにお見舞いに行ったんだっけ。
確か、先生のおばあちゃんに憑りついた幽霊を追い払った気がする。
つまりは、その時の幽霊が、お父さんの試作品に憑りついたのだろう。
意味が分からない。
「ア、アノトキノ! ちーと女子高生!?」
が、自称転校生はそんな声を上げると、ダンボールに分離して逃げていった。
「あ、おい! ちょっと待てよ!」
「待てー!」
追いかける不良Aとお姉ちゃん。
私は黙ってお弁当を食べ始めた。
「あー、だんちゃん? ほっといていいの?」
「いいんじゃない? そのうち、戻ってくるわよ」
―――――☆
後日。
残念ながらお姉ちゃんと再び一体化した私は、さっちゃんと一緒に昼ご飯を食べていた。正確には、食べているのはお姉ちゃんで、私はそれを一緒になった意識から眺めているだけだ。
「だんちゃん、おかず交換しない?」
「する!」
「あ、それと知ってる?」
「知らなーい」
「隣のクラスの転校生、ノロちゃんだけど、不登校になったらしいよ?
ハコちゃんに追いかけられたのが、よっぽど怖かったみたいね?」
眺めているだけで本当に良かった。
という訳で、おねえちゃん、頑張って何とかしてね?
次回予告!
不登校になってしまった隣のクラスの転校生・ノロちゃんを不良の一団を引き連れ訪問するれんちゃん。ノロちゃんは無事に引きこもり脱出なるか!?
※ 次回は、1/17(金)投稿予定です。




