第十話
ふっふぅ!今週分いってみようか!!
本当はわりと行き詰まりを感じつつあるんだけど、何とか締切に間に合わせるのが作者ってもんだ!てやんでぇ!
俺達は、ギルドに着いた。
着いたのだが、俺はギルドホールの真ん中で正座している。
目の前で仁王立ちして、明らかに「怒ってます!」と言った雰囲気の笑顔のアイシャが居る。笑顔なのがより怖い。
周りから、「おい、あいつらの関係どうなってんだ?」とか「奴隷に頭が上がらないんじゃねぇ!あれは女に頭が上がらねえんだ!」というサジウスの声とか「へえ?サジウス様はそんな事考えていらしたのですねぇ?」といったリンさんの声とか「あ…。待って?リンさん待って?あああああああ!」といったサジウスの声が聞こえるが、俺はどうする事も出来ない。
なぜなら、俺の前で笑顔で仁王立ちしているアイシャの後ろには般若が見えるんだ。
果てしなく怖い。その笑顔が怖いですアイシャさん。
なんで今このような場所で正座しているかと言うと、実に簡単な理由で商館の前で固まったアイシャが再起動したのが、ここだったのだ。
アイシャは再起動した後、すぐに俺にジト目を向けてきて「お兄ちゃん。そこに正座。今すぐ。」と言われたのだ。
アイシャの目が怖かったので言われるままに正座したのだが、ここは朝一のギルドホールのど真ん中。とてもよく目立つわけで、今俺は遠巻きにされながらも注目の的になったのだ。それでもアイシャは何も言わずに笑顔(般若付き)で無言でこちらを見てくるだけ。
それが一番怖いんですが。
「お兄ちゃん。遺言は?」
「あ、アイシャ?なんか実際の言葉と伝わってくる意味に大きな隔たりを感じるんだけど…?」
「そう?そんな事は無いと思うよ?それで弁明はそれで良いのかな?」
今、この子確実に遺言って言いましたよね!?
「アイシャさん?今、遺言って聞こえたんですが。気のせいですよね?」
アイシャの笑顔が怖いです。なんだろう。すでに俺の立場がない。
「んー?お兄ちゃんは何を言ってるのかな?」
「そ、そうですよね!遺言なんて言いませんよね!?」
「間違いなく、遺言って言ったよ?」
謝ろう。俺はまだサジウスと同じ所には行きたくない。
「本当にすみませんでしたぁぁぁぁあ!」
周りの目など、気にせずに土下座に走る俺。
それから30分程土下座を続けてやっとお許しを得た俺は、やっとアイシャを左腕に抱えてギルドでランクについて話ができるようになった。
昨日も対応して貰った場所にリンさんが来る。俺もそこで対応して貰う。
「それで、今日も来たわけですが、俺のランクは結局どうなるんですか?」
サジウスは死んだように地面で伸びているので、リンさんに聞いてみる。
「そうですね。暫定的にBランクとして扱う事にしようと思います。」
「意外と上がりますね?」リンさんが上から数えて三つ目のランクまで上げると言っているのに少しだけ驚く。
「本来であれば、もう少し下なのですが昨日のオークを見てしまうと、さすがにこれ以上低くできないのです。これでもAランクで通すつもりでいましたが、さすがにオーク殲滅しか実績がないですし。今、森にもオークが居ないかどうかの探索依頼を出して事実確認を急いでいます。森にオークが居なければ、Aランクまで上げてしまうつもりです。ただ、今回はあまりにも真実味が無いんです。何分、オークは知性もあります。それが森から消えているなんて…。」
矢継早に説明してくるリンさん。確かにオークが森から消えているなんて思わないだろう。あまりにも胡散臭い。
「ええ。確かに事実確認は大切ですからね。なら、私は暫定的にBランクとして依頼を受ければ良いんですか?アイシャ…。この子なんですが一緒に行っても大丈夫ですよね?」と、俺も確認したい事を確認する。
「ええ。奴隷は冒険者として扱う事はありませんが、依頼に連れていく事は可能です。それに依頼はAランクまでの依頼を受けれますので安心下さい。」更にリンさんから説明は疑問と言った形で続く「ですが、失礼ながらそちらの方は全く強く感じないのですが、大丈夫ですか?」リンさんから見ても、アイシャは一般人くらいの強さしかないようだ。
「そこなんですよ。アイシャは俺が守るつもりなんですが、俺はそこまで万能ではないですから、常にアイシャに気を配り続けれるか分からないのが心配でして。なにか良い手は無いですかね?」
俺は「何か知らない?」と言った感じで質問してみる。
それを聞いたリンさんは少し悩むように眉を寄せたが、
「それなら、魔道具の武具を買ったらどうだ?お前さんもそう言った武器くらいは持っているだろう?」
今度は復活したサジウスが床に潰れたまま声を掛けてくる。
その言葉にリンさんも「ああ。確かにその手がありましたね。」と、反応した。
「魔道具…。ですか…。」この世界では一般常識なのだろうか?ここは知らないとするとまずいか?どこから異世界人だとばれるか分からないからな。なら、それとなくで話を聞くしかないな。魔道具と言う以上は道具なのだろうから、装備品みたいなものか?
「ちなみに、アイシャに持たせるならどんな物が良いでしょうか?」
ここは、こんな感じの質問だな。
「それなら俺は〈身代わりの指輪〉とかが良いと思うぞ?」とサジウスが言ってくる。
〈身代わりの指輪〉は、致死のダメージを一度だけ引き受けてくれる効果を持つ指輪だそうだ。
リンさんは、「私は防御魔法の組み込まれた軽めの道具や、魔法を使える短剣などを買った方が良いかと思いますよ。そうすれば、いざという時戦えますから。」
「なるほど…。」俺は、大体ではあるが魔道具と言った物が理解できたと思う。
つまり、この世界にある〈魔法〉という現象を閉じ込めて、いざという時にそれを使ったり、発動させて逃げると言った使い方をするものなのか。それは〈スキル〉も閉じ込めておけるのか?例えば、俺は使わないから使えないが、〈身体強化〉を付与された物を使えば、〈身体強化〉が発動したりだとか…。しょうがない。その辺りはティア達に確認をしよう。
そこまで考えて、次の瞬間の「まあ、俺は〈身体強化〉の武器なんかがオススメだがな!あれがあると動きが変わるからな!」という、サジウスの一言で疑問が解けた。
なるほど、その手の武器もあるわけか。なら、〈神器創造〉で作ってしまえばいい。俺の可愛いアイシャの為だ。最高の武具を用意してみせよう。
それなら、まずは人気の少ない森とかで魔力を搔き集めよう。
それで作れば、そこまでばれる心配もないだろう。
「なら、まずは購入資金の調達ですかね?」と聞いてみる。
「おいおい。お前さんの所持金で買えないものは無いだろうよ?白金貨5枚以上持ってて買えなかったら、俺達が話す訳ないだろ。大体金貨5枚でも多いくらいだわ。」
サジウスが答えてくれた。リンさんも頷いてくれているという事はどうやらそこまで高くないようだ。
そこまで聞いていたが次の瞬間、からかうような口調のサジウスが「それにしても、お前さんも隅に置けないよなぁ?昨日紹介して今日もう奴隷を買ってくるとはなぁ?」と言ってくる。
「美少女だろ?これで優しいんだ。撫で心地もいいし。」と、思考は別の事を考えていたのもあって、特に何も考えずに腕の中のアイシャを撫でながら言い返した。
すると、「お、おう。そうだな。…そこまでストレートに言えるか…。てかこいつまだ撫でてやがる…。」と驚愕したような表情のサジウスが視界に入った。
話を変えるようにリンさんが声を上げる。
「そ、そういえば!昨日はありがとうございました!おかげで楽しめました。久しぶりに良い時間が過ごせました。」
リンさんの言う昨日の事とは、恐らく金貨の事だろう。
俺は「楽しめたなら何よりです。」と言ってお茶を濁して、移動すると伝える。これからアイシャの装備について考えないといけないからな。
と、そこまで言って今度はサジウスが厄介な事を言ってくる。
「そういや、明後日は必ず朝から来いよ。どうやら、異世界から来た聖女様とうちの国の第四王女様が、視察を兼ねてギルドの訓練所での模擬戦を見たいらしいんだが、今までは、俺とリンの模擬戦だったんだよ。お前さんもバカみたいに強いし、俺とリンのパーティーと戦って欲しいんだわ。勿論、お前も助っ人なりを頼んで良いからさ。頼んだぜ?そうだ!これはBランク冒険者への指名依頼にするつもりだから拒否権ないがな!」
と、言ってきたのだ。しかも良い笑顔で。殴り飛ばしたくなる。
だから、「分かりました。リンさんには傷一つ無いように気をつけましょう。サジウス?次は寸止めしねえからな?」と、サムズアップ付きの笑顔で言って、今度こそ受付を離れるように振り返って歩き出す。
後ろから「待ってくれ!冗談だよな!?俺の大剣を切り裂いた魔法で全力攻撃されたら無事じゃすまない気がするんだけど!?冗談だよな!?なあ!?」と、声が聞こえるが完全に無視である。
一旦、街を歩きながらアイシャに「どんな風に戦いたい?」と聞いてみる。
アイシャは少し考えるようにして「そうだなぁ…。わたしは出来れば身軽な武器がいいな!」と言ってくる。
「それじゃ、短剣とかになるけど、良いかな?」と再度確認して、〈神器創造〉で作る武器を夢想する。でも、作るのは街を出て森に着いてからだ。
門番が一昨日居たのと同じ門番だったので、この間の威圧の件を謝ってから街を出る。
森までは結構距離があるが、〈神脚縮地〉を使えば一瞬で到着するので、アイシャに保険も兼ねて〈中級風属性魔法〉の〈エリアルフィールド〉を使う。
この魔法は、対象の周辺に風の空間を作り出して対象を守るもので、これなら〈神脚縮地〉の高速移動による風圧も堪え切れるので問題ない
アイシャは、これから起きることを知らない上に、いきなり〈エリアルフィールド〉が発動して驚いたようだが、こんなものじゃないぞ?
「アイシャ?目を瞑っていてくれるか?」と、アイシャにお願いする。
アイシャは良くわかっていないようだが、「え?あ、うん。分かったよ。」といって目を閉じてくれる。
その瞬間に〈神脚縮地〉を使用して勢いよく森に向かって駆け抜ける。
「アイシャ、もういいよ?」と声を掛けてアイシャが目を開ける。
次の瞬間「え?ええ?ええぇぇぇええええ!!?」と、アイシャの絶叫が辺りに響き渡った。アイシャの始めて聞いた大声は絶叫だった。
「なんでもう森にいるのーーー!?」説明もなく移動したら、確かに全く意味が分からないか。
実はそろそろアイシャにも、俺の真実を話そうと思っている。
俺はアイシャを大切に思っていて、出来ればこれからも一緒に居たいと思っている。
だから、俺の秘密を打ち明けたかったのだが、宿屋では打ち明けるわけにもいかず、丁度いい形で森に行ける上に、アイシャの武具も作る訳だから説明しないで作成は出来ない。だから、このタイミングで説明してしまおうと思ったわけだ。
正直、アイシャが離れていってしまうかもしれないと思ったが、何か騙しているようで辛かったのだ。
「落ち着いてくれ、アイシャ。話したいことがある。」
アイシャは今もなおパニックしていたが、アイシャの頭を撫でているとアイシャも少しではあるが落ち着いてきた。
俺もアイシャを撫でていると落ち着く。やはり、アイシャがどう言った反応をするのか不安ではあるようだ。
この間、オークを狩り尽くしている時に見付けた広場に向かう。
移動はゆっくりと歩いた事もあって、アイシャも完全に落ち着きを取り戻した。
先ほどの森への移動はスキルの効果なんだと軽く説明しながら歩いていると目的地に到着した。ここは少し森の奥地という事もあって普段はあまり人がいないのか、静かなものだった。
「〈サイレントフィールド〉。アイシャ。俺は大きな秘密を抱えている。正直にいえば、俺は君が離れていってしまうかもしれない程の秘密を抱えているんだ。」
盗聴されている可能性を考えて〈サイレントフィールド〉を行使する。
車を作る時にやってみたら出来た魔力を地面に流して周辺を探索する技術も併用して、更に安全性を上げる。
「俺は、それでも聞いてほしいと思った。まだ二日だ。それしか経っていない。だけど俺はもうアイシャが居ない生活は考えられないんだ。だから、聞いてほしい。」
俺は胸の内を正直に伝える。
アイシャは先ほどまで慌てまくっていたが、俺が真剣な表情をしているのを見て「わたしは、お兄ちゃん…。いえ、ケイ様に救って頂きました。ですから、わたしにとってケイ様は特別な人なんです。それこそ、王子様みたいに感じました。…。わたしは、いつも痛かった。怖かった。でも、ケイ様はわたしを助けてくれた。だから、わたしは何があっても離れません。ふぅ…。これからも、わたしのお兄ちゃんでいてくれるんでしょ?」と、とても真剣に言ってくれる。
アイシャが俺の秘密をどこまでのレベルで考えているか分からなかったが、それでも彼女がそこまで言ってくれたのだ。
俺もステータスを見せてその誠意に答えよう。
「〈ステータスオープン〉」
【名前】北條 京嗣
【種族】人族(もう限界)
【職業】一般人(化け物)
【錬度】15(成長途中)
【生命力】この世界の耐久値の限界より高い。
【魔法力】この世界の総量より内蔵量が多い。
【攻撃力】全力で振るうと世界が壊れる。
【防御力】世界が壊れてもなお、無傷。
【魔法行使力】世界が壊れます、全力は止めて下さい。
【魔法抵抗力】世界が壊れそうな魔法でも無傷。
【俊敏力】もはや光すら置いて行かれる。
【魔法】適正(全)固有(神) 特殊固有(零時迄之舞踏会・鮮血ヨリ紅キ乙女(赤ずきん)・永久ニ眠ル真白之姫(白雪姫)) 召喚魔法:嫁
【スキル】神格 無限収納 嫁倉庫(ティア・朱里・サーシャ・アイシャ)
神器創造 嫁通信(ティア・朱里・サーシャ・アイシャ) 隠密
剣術 抜刀術 神脚縮地 索敵 気配察知 危機感知
並列思考 影分身(分身体強化)
【称号】異世界から来た埒外 完全に邪神様 女神を嫁にした鬼畜
奥様は女神さま 受け入れたその力 ハーレムマスター
アイシャはまたも唖然とした表情をしている。
俺も正直、唖然とした。とりあえず、ツッコミを入れさせてくれ。
ステータスの表記どうなってんだよ!?種族のもう限界ってなにが!?人族がなの!?
それに数字表記はどこに消えたんだよ!?これじゃ強いのかどうかすら分からねえよ!!いや確かに世界より強いのは分かるよ!?でもこれはないだろ!?
もう俺はどこに向かってるんだよ!?
…落ち着いてきた。
アイシャも落ち着いてきたのか、俺の方を見てくる。
「お兄ちゃん?お兄ちゃんがね、間違いなく強いのは分かるんだよ?でも、これなに?正直驚いたけど、それ以上にステータスが文字って。一周回って呆れるよ…。」
俺も正直これはないだろうと思っている。
「あー。うん。これが俺の秘密な?一応、異世界人だって事まで含めて。」
「え!?お兄ちゃんってそうなの!?見てなかった!」
ええ。まあ俺もステータスの表記見て頭抱えましたからね。分かりますよ。
「まあ、そうなんだ。だから改めて自己紹介をするよ。俺の名前は北條京嗣。異世界からこの世界に召喚された勇者の仲間の一人だ。勿論、これは秘密にしてるから今後も秘密にしておきたい。…。アイシャはどうしたい?俺は、もしアイシャが一緒に居てくれるならこれ程嬉しい事はないよ。」
そう聞くと、アイシャは悩む事もなく即座に「わたしは、お兄ちゃんの奴隷なんだからずっと一緒に決まってるよ。当たり前でしょ?」アイシャは普段通りに、まるで当たり前だと言わんばかりにそう言ってくれる。
「アイシャはそれで良いのか?俺は間違いなく面倒に巻き込んでしまうぞ?」
「わたしはね。お兄ちゃんが助けてくれたから、ここに居るんだよ?だから気にしないの。弱いままのわたしでも良いって言ってくれるお兄ちゃんだから一緒に居たいんだよ?だから…。」
アイシャは一呼吸いれて、ゆっくりと口を開く。
「だから…。わたしはケイ様…ケイシさんと呼びますね…?ケイシさんの事をまだ良く知りません。でも、優しい所もカッコいい所も見ました。ちょっと抜けてる所も、それでいて少し可愛い所もたくさん見ました。だから、わたしは一緒に居ます。これからもっと知るために。今は、それではダメですか?(今はまだ、この気持ちに正しい言葉が見つかりません。でも、いつかその時が来たら、もう一度…。)」
アイシャの気持ちが痛いほどに伝わってくる。
俺もアイシャの事は良く知らない。それについては二人とも条件は同じだ。だから、俺はこれからもアイシャを知っていこう。これからアイシャが俺を知っていくように。
「アイシャ。それと、俺には嫁さんが三人居るんだ。でも、今は事情があって皆とは別行動しているんだ。そのうち、その三人も必ず紹介するから。」
アイシャに伝えないといけない事は、これが最後だろう。
全員と会ったら、その時もう一度全部を話そう。
「えっ!?お兄ちゃん結婚してたの?」アイシャは驚いたようにこちらを見てくる。
「え?俺が結婚してるのって驚くような事?」アイシャの反応に俺が驚く。
「まあ、お兄ちゃん見た目は完全にイケメンだもんなあ。モテそうだもんね。なんというか中身が伴ってないというか…。そんな感じがするけど。」
アイシャの俺への評価が辛辣なものだった。
「俺ってそんなに微妙か…?」その俺の反応が落ち込んでると感じたのか、アイシャは捲し立てるように言葉を紡いできた。
「お兄ちゃん?違うよ!お兄ちゃんはね、なんて言うか…。まるで物語に語られてそうな見た目をしてるし、使える魔法も凄くて神話に語られそうなのに、とても人間らしいというか。見た目や魔法が浮世離れしているからそう感じるの!」
アイシャは俺を励ますようにそう言ってくれているのだろう。
そんなアイシャを見ている俺まで元気になってくる。まるで、アイシャは太陽みたいな人だと思う。気が付けば、暗く沈んだ空気を払ってくれる。周りを暖かくしてくれる。
「ふふ..。あはは…。ははは!」
アイシャがそこにいるだけでどんな苦難でも明るく照らしてくれるだろう。
「お兄ちゃん?何を笑ってるの!?もしかしてからかったの!?」
「い、いや…。違うんだアイシャ。君が居たらこれからも楽しいと思ってさ。」
「もう!本当に!?」アイシャの少し怒った顔は始めて見た。
まだ出会って二日。これからもっと色々な彼女を見ていけるだろう。
今まで辛かった彼女の運命をこれから捻じ曲げてでも幸せにできますように。
「そ、そういやアイシャがさっき神話って言ってたけど、この世界にはそんなものがあるのか?」
アイシャがさっき言っていた「神話」という言葉に少しだけ興味が出ていた。
話を挿げ替える目的もあるにはあるが。
「お兄ちゃん、話を変えたいんだね…?まあ良いけどね?また後で聞くから。」
…なんでこの世界の女の子はこんなに強いんだ?
俺が内心で冷や汗を流していると「それで、神話だっけ?わたしもお母さんから聞いただけだから詳しくは知らないよ?」と、アイシャが言ってくる。
「俺はこの世界の知識であれば、どんなものでも欲しいんだ。だからそれで良いから教えて欲しい。それと、アイシャは武器は短剣系だったな?」
「え?あ、うん。戦った事は無いんだけどね。もし戦えるならそれが良いなって話なんだ。それじゃ、わたしが知っている神話についてだね。」
アイシャは一息いれると、語り出した。
それは、世界の終わりの日。
命育めぬ大地に、命奪う雨降り注ぐ。
大地は赤くさけ、海は暗く染まる。
そこに一人の者立つ。
その者、世界を滅ぼさんとする邪な神を討たんとする。
「こんな感じだったよ?これ以上はわたしも知らないんだ。本当はもっとお母さんに聞いておきたかったけど…。それにたぶん正しいのはもっと長かったはずだったし…。」
アイシャは申し訳なさそうにしているが、アイシャは悪くない。
「アイシャ、辛いことを思い出させてしまったな。ごめん。」
「ううん。大丈夫。良いんだ。今はお兄ちゃんがいるもん。」
アイシャはそう言ってくれるが、その表情は少しだけ影が差していた。
だから、話を変えようと思考を切り替える。「よし。完成したぞ、アイシャの武器。これで大丈夫だろう。」と、アイシャに渡す。
アイシャのその手に握らせたのは二刀の小太刀。
アイシャの小さな身長に合うように少し短く作ったその小太刀の銘は「暗闇」と「昼天」。その銘に恥じない、どこまでも光を吸い込むように黒い刀身と、どこまでも光り輝く刀身。
さらに、口元を隠す布タイプのマスクに黒いレオタードのような服。それに膝上の紺色のスカート。オーバーニーソックスに膝下ギリギリまである足甲。肘まで隠せるレオタードと同じ色の長手袋。棒手裏剣、所謂、苦無と言われる投擲武器の形を小さく模した片耳用のネコミミ用に考えたカフス型イヤリング。最後にそのイヤリングとそっくりな、今度は普通のサイズの苦無を合計で20本。
「今どこから出したの?お兄ちゃん…。」
アイシャの驚いたような声が耳に届く。
「これは、俺のスキル〈神器創造〉で作り上げた魔道具の武具。文字通り言うなら、〈神器〉って所か?」とアイシャの疑問に軽い調子で答える。
「お、お兄ちゃんが作ったの?これを?」
アイシャもどうやら、やっと俺が凄いのだと分かってくれたようだ。
「というか〈神器創造〉ってなに?それって神様の武具って事でしょ?お兄ちゃんぶっ飛んでいすぎでしょ…。はあ。お兄ちゃんが凄いのは分かったけど、これ、わたしが使っていいの?」
「もちろん!これは俺が(趣味全開で)作った最高傑作だ!」
隠しておきたい本音があるが、ばれる事もないだろう。
「なんか怪しい…。」…アイシャさん。鋭すぎます。
「ま、まあ、このイヤリングを付けてみてくれ。」と、あのイヤリングを渡す。
「後でしっかり聞くからね?…。うん、これで付いたかな?」
どうやら、アイシャさんからは逃げられないようです。
「ああ。アイシャの黒い髪に良く似合ってる。」
ネコミミの脇にカフスのように留まっているイヤリング。
少し恥ずかしそうに、はにかむアイシャが愛らしい。
さて、アイシャに怒られても良いから俺はロマンを追及する!
「それじゃあ、アイシャ。「ドレスオン」と言ってくれ!」
アイシャのこちらを訝しむ目に晒されながらも要求した。
アイシャは更にジト目になっているが、答えてくれる。
「まあ、いいけど。ど、ドレスオン…?」
次の瞬間、アイシャの服装が大幅に変わる。そう、今まで俺が持っていたあのレオタード一式だ。アイシャが着ていた服は瞬時にイヤリングにスキルとして付けた〈アイテムボックス〉に収納される。しかもこの着替えは誰にも見られないように対策として光がアイシャを包む形をとったのだ。しかも、この光は魔法でドレスルームを作っているのとほぼ同じため、完全に外からは見えない。その上、頑丈さも天災級魔法でも壊せない。まさに「変身ものの変身中は攻撃がきかないあの現象」である。
俺の大切なアイシャの裸はごく僅かでも誰かに見せるつもりはない!
この能力は、アイシャの「ドレスオン」という言葉をキーワードにイヤリングに登録してある服装が今の服装と瞬時に切り替わるようにイヤリングにしてある命令だ。まるで変身ヒロインのように!この後がめちゃくちゃ怖いけど俺に後悔はない!
光が引いていくと、そこには「お兄ちゃん。なにこれ。」と、静かに呟く、くノ一っぽい衣装を身に纏ったジト目のアイシャが見上げていた。
「アイシャの専用装備だ!」俺は力いっぱいに答える。
「まあ、確かに着ていてとても頑丈なのは伝わってくるよ?この装備は全部紛れもなく〈神器〉といえそうな程、強いと思うよ?」
「そりゃそうだ!アイシャの綺麗な珠の肌にこれ以上傷が増えないように服はオリハルコンと同等の堅さと絹以上の柔軟さを。足甲にはオリハルコン以上の強度を求めたからな!この世界どころかどこ探してもそんな生地無かったから作るのは苦労したよ。結局オリハルコンを糸にして服にしないといけないなんてさ!」
俺の説明を聞きながら、アイシャは少し赤みを帯びた頬を手で隠しながら俺をジト目で見てくる。
「お兄ちゃんがそこまで言ってくれるのは、凄く嬉しいの。でもね?明らかにこの服ね。わたしもそこまで詳しくないんだけど、今の武具のバランスとか無視してるよね?確かにこれがあったら傷は増えなさそうだけど、わたしは戦闘試験ないんだよ?武器とか盗まれたり奪われる事もあるかもしれないんだよ?」
アイシャはどうやら盗難や窃盗の危険性を考えたようだが、その点も改良してある。
「アイシャ、その武具に意識を向けてみろ。そうすれば、俺の作った武具はアイシャに答えてくれる。」
そう、アイシャの武具は魔道具なのだ。であれば、この武具達にもスキルや魔法がある。それは、アイシャが武具に意識を寄せれば、簡単にアイシャの物になるのだ。
もとより、あの武具達は「アイシャ専用」なのだ。〈神器〉には、所有者権限という物が付いている。効果は文字通りで、登録した所有者が使用しない限り本来のスペックを出せなくなる。又は、使用できなくなるといったものだ。
その権限対象がアイシャであれば、今まで武具が持っていた能力はアイシャにも使えるようになるのだ。
「あれ?戦い方が分かる…?」アイシャがいきなり戦い方を理解できた事に戸惑いを隠せていない。
実際はスキルや魔法の知識が流れ込んでいるだけなのだが、それでも戦えるようにはなるだろう
「だろ?俺だって色々とアイシャを守る方法を考えているさ。」
「なにこれ…。魔法も使えそうなんだけど…。」アイシャの声は完全に呆れかえっている。おそらく、理由はアイシャの専用装備の性能だろう。俺もやりすぎだと思っているが、後悔はしていない。
「それじゃ、ここで俺相手に戦闘訓練積んでみようか。」
笑顔でそういう俺にアイシャはジト目のままこちらを見てくる。
「俺はアイシャが大切だからな。まだ二日しか経ってないけど、それでもアイシャの為に何かしたいと思える程には俺はアイシャが好きだから。」
きっと、ティアと会う順番が逆だったら俺はアイシャの為にもっと何でもしただろう。
でも、俺にはティア達という奥さんがいるんだ。だから、俺はアイシャを、妹を守る兄のように守ろう。たとえ、〈嫁通信〉に加わっていたとしても。
それから、俺達は三時間にも渡って戦闘訓練をした。
既に時間は夕方になっていた。その頃には、アイシャもだいぶ扱えるようになっていて武器の性能を十全に活かせていた。
戦闘訓練が一息ついたところでアイシャに声をかける。
「アイシャ、そろそろ帰ろう。」
アイシャも疲れていたのか、少しダルそうにしながら「うん…。これ凄いね。」と言ってくる。実際に魔道具がどの程度の物かは知らないが、この性能は間違いなく一流の人間の性能に並べるはずだ。明日はサジウス達に模擬戦での相方はアイシャだと伝えないといけないな。
「アイシャ、大丈夫か?」アイシャが心配になって聞いてしまう。
「あ。ごめんね。大丈夫だよお兄ちゃん。」
アイシャは元気そうにしている。だが、僅かに疲労があるのが分かる。
「それにしても、これってどうやったら元の服装に戻るの?」アイシャは続けて質問をしてきた。
「それなら、「ドレスオフ」で元に戻るよ。」
実は難しくないようにしてあるから、普通に言葉一つで元に戻せるのだ。
後はアイシャを抱きかかえて〈神脚縮地〉で帰るだけだ。
「それなら、ドレスオフ…。ふー。疲れたぁ!でも凄かったー!」
今までの大人っぽさは鳴りを潜めて、年相応に見える子供っぽさが少しだけ顔を見せた。もっと彼女の笑顔を、俺は増やせるだろうか。いや、増やしていかなくては。これまでの不幸を忘れられるように。
「アイシャ、おいで?」とアイシャを呼んで抱きかかえる。アイシャもこの二日で慣れたもので、今は器用に俺の胸に頭を擦り付けてくるようになっている。可愛い。
その後は来た時と同じ要領で勢いよく街に戻った。
アイシャと宿に戻って来た。
アイシャに汗を拭くように進めて俺はこっそり〈嫁通信〉を起動した。
アイシャも対象に入っていたが、アイシャはまだ外したままだ。
身体を拭き終えたら、そこで始めてアイシャにも挨拶をしてもらおう。
『サーシャ、朱里。聞きたい事がある。』どうやら、このスキルは相手には「繋がった」と認識できるようで、俺がわざわざ確認を取らなくても相手も繋がっているとわかると聞いていたので、大丈夫かの確認は飛ばして質問をする。
サーシャ、今晩は何もしていなかったようで慌てずに反応してくる。
『明後日の件ですね。ギルドマスターのサジウス様が今回は活きの良い新人が居ますから、是非とも期待していて下さい。なんて言っていたので、もう旦那様の事だと分かりました。』
朱里もまだ寝ていなかったようで、サーシャとの会話の切れ目を狙って話に入ってくる。
『そーだね!私はギルドが楽しみだったりもするよ!どんな感じなのかなあ。』
朱里はギルド自体が楽しみなようだ。
『そうだ。昨日の今日で報告したい事がまた増えた。まず、〈嫁通信〉に買った奴隷の女の子が増えていた。浮気をしたとかじゃない。それだけは信じて欲しくてな。次に〈嫁倉庫〉なんてスキルが増えていた。この二つだ。』
すると、やけに上機嫌なティアが〈嫁通信〉に入ってきた。
『やはり、お風呂は良い文化ですね。それにお菓子も美味しいですし…。ご飯も美味しいです。本当に良い文化です…。あなたもそう思いますよね?』
今までの流れを完全に無視した話の振りだった。
『あー。そうだな。今度、何か作ったりしてやるし、ギルドの人から美味しいご飯処とか聞いておこうか?』
『ほんとうですかっ!?あなた愛してます!』
一体、ティア何があったのだろう。元々、よく眠る人だと思っていたけど…。
『どうやら、神域には今まで食事という概念は無かったらしいのです。それが今日、私と朱里さんのお茶会でお菓子を食べてからこの調子でして…。』
サーシャから聞いた事情から考えると、今までは残念風だったティアがとうとう完全に残念系になったという風に聞こえる。食いしん坊さんになったのですね…?
『な、なるほど…。もう少し稼いでおくか…。』
俺がティアとお財布の今後を心配していると、朱里から声がかかる。
『それで、ケーくん。さっき倉庫がどうとか聞こえたけど…?』
『ああ!そうだよ。忘れてた!あぶねえ。さっき言ってたのは〈嫁倉庫〉だ。これは、どうやら俺の〈無限収納〉の領域を貸し出している形になるようだ。俺の奥さん達にも〈無限収納〉が使えるようになると思えば良い感じだな。』
説明が終わると全員から呆れ返るような雰囲気が伝わってくる。
『相変わらず、旦那様は成長具合すら自重しませんね。もう驚きません。それに私個人としては〈無限収納〉が使えるのは便利ですし。』
サーシャさん、それには同意ですが俺はそろそろ止まって欲しいです。
『ケーくんはどこに向かっているんだろ…。』
朱里さん、俺もどこに向かっているのか分かりません。
『あなたが世界に喧嘩を売っても勝てそうですね。止めてほしいですが。』
売る気はないですよ?売られたら買いますが。
そんな話をしているうちにアイシャが近づいてくる気配を感じる。
意識を〈嫁通信〉から肉声に切り替える。
「拭いたよ、お兄ちゃん。」
そのうち、車のお風呂にも入れてあげたいところだな。
「そうか。それじゃ、ちょっと試したいスキルがあるんだ。〈念話〉のようなスキルだと考えてくれ。それじゃ、行くぞ?」
アイシャの返事を待たずに、〈嫁通信〉に再度意識を向けてアイシャも繋ぐ。
『これでアイシャにも聞こえるはずだ。大丈夫か?』
『え?あ、えっと。こうかな?』
『ああ。それで聞こえるぞ。大丈夫だ。』
このタイミングでないと、明後日には本人に会ってしまうのだから紹介しないといけない。
『アイシャ、良く聞いてくれ。このスキルは〈嫁通信〉と言って俺の事を大切に思ってくれる人と会話が出来るスキルで、一対一じゃないんだ。俺の事を愛してくれる人と繋がっている。だから、俺の奥さんとも繋がっているんだ。ここで紹介しようと思う。皆、頼んだ。』
『にゃ。ええ?ど、どういうこと??』アイシャはとうとう処理の限界を超えて訳が分からなくなったようだ。でも、今がチャンスだろう。正直にいうと奥さん達の肩書きがまずいのだ。今更ではあるのだが。
『始めまして。嵩坂朱里です。アイシャちゃん、だね?私は異世界の聖女なんて呼ばれてるよ。それでケーくんのお嫁さん。』
『始めまして、アイシャさん。私はサーシャ・リンドル・ヘンズールと申します。このヘンズール公国の第四王女をやっております。そして、旦那様、ケイシさんのお嫁さんです。』
『始めまして、アイシャさん。私は女神ティアリア。この世界の幸運と豊穣を司っております。今はケーシさんのお嫁さんをしております。以後、よしなに。』
『にゃ?ど、どうなってるの?聖女様に王女様に女神様?え?』
確かに並んでいる役職や職業が大変だった。どう考えても混乱する。
『アイシャ、落ち着いてくれ。甚だ信じられないかもしれないけれど、これが俺の奥さんなんだ。間違いなく。』
『まあ、普通に考えて信じられないよねぇ。職業一般人の青年の奥さんが聖女とお姫様に女神様って。』と、朱里が。
『そうですね、正直胡散臭さがダントツですね!』ティア、煩い。俺も思ったけど。
『ぅんっ…!人を騙しそうな笑顔の旦那様…。考えただけで…。あ、下着変えませんと…。』サーシャ、始めての人間にその勢いで飛ばしていくのか?ドン引きされそうだが…。
サーシャの言葉を聞いた瞬間にアイシャから伝わってくる気配が急激に冷えていく。
『お兄ちゃん、正座。』
唐突にアイシャが元に戻った。
『え?あの、なぜ?』アイシャが正座を求めてくる理由が分からない。
『今、聞こえてる声がサーシャ様だとしたら、こんな変態性癖にしちゃったのお兄ちゃんに決まってるよ。だから。』
アイシャからとんでもない誤解を受けている!
『ごめん。それだけはない。サーシャは気が付いたらあんなだった。』
『そうだね。サーシャちゃんは気が付いたらあれだった。』
『女神として嘘偽りなく、サーシャさんは気が付いたらあの有様です。』
俺達は、表現は違くとも全く同じ意味合いの返答をした。
『そんな!?旦那様は最初の夜からずっと求めたら答えてくれたではないですか!』
サーシャから投下される一言にアイシャは更に目の前でジト目になる。
『お兄ちゃん、正座。』
『すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!』
土下座しました。
『それで、明後日の流れは?』
土下座で5分ほど謝っていたら、サーシャからの弁明もあり助かった俺は話の流れを戻す事にした。断じてアイシャが怖いわけではない。ないったらない。
『旦那様、明後日はお昼前に訓練所で模擬戦を何組か見せて頂いて、気になった冒険者の方と昼食会となっております。旦那様がいらっしゃいますので、勿論ですが旦那様とアイシャさんに声を掛けさせて頂きます。その際は始めてお会いする形を取って頂けますと…。』
サーシャは申し訳なさそうにしているようだが、こちらもそれはまずいと思っているから問題ないと伝えよう。
『サーシャの言いたい事は分かる。その点は安心しろ。さすがにそこで身内アピールしないさ。そういや、ティアって護衛として入れたのか?』と、気になった事を聞く。
『…。申し訳ありません、あなた。そこについても詳しく話さないといけません。』
今度はティアが謝ってきた。どうやら、何やら問題があったようだ。
今度はサーシャがそれに続ける。だが、アイシャも聞いて良いのだろうか。
『ちょっと待て。アイシャも居るんだが良いのか?』
『それなら、問題ないのでは?あなたのスキルが認識したのであれば、それは立派にあなたのお嫁さんな訳ですし。』と、ティアがあっけらかんと言ってくる。後の二人も特に問題はないようだ。
『アイシャは良いのか?俺のお嫁さん扱いで?』
アイシャにも確認を取る。
『わたしは、お兄ちゃんのお嫁さんなら悪い気はしないけど、まだそこまでは分からないかな…?だから、答えはもう少しだけ待ってね?お兄ちゃん。』と、言ってくれる。
それなら、俺ももう三人と床を共にしてしまったわけだし、アイシャなら悪い気はしない。男の夢だもんね?ハーレム。一番立場低いのは俺なんだけど。
でも、アイシャ可愛いしね。ネコミミだしね。
『それなら、続きを聞こう。』と、三人に振る。
最初に語り出したのはサーシャだった。
『旦那様の車で王城に入ったあの日。思えばあの日から仕組まれていたのかもしれません。』
HS~ヒロインサイド〈サーシャ・リンドル・ヘンズール〉~
私達は、旦那様と別行動の為に王城前で車からおりました。
朱里さんは我が国の王城に未だに緊張しているようです。
王城とはいえ私からしたら、住み慣れた実家です。緊張するのは、父である公王陛下に謁見する時くらいです。
本音を言いますと、車内の生活のほうが水準が高かったのですが…。
私は、王城に戻り今回の件を報告しなくてはなりません。なので、その時にティアさんの事も報告して第四王女の権利で近衛を任せる形を取ります。
王城で、陛下に報告があると伝えて貰い、謁見を待ちます。
すると、少し震えていた朱里さんが視界に映ります。
「朱里さん、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。」
私は緊張しているであろう朱里さんに小声で声を掛けました。
「謁見するのは私の父なのですから。謁見では私が喋ります。朱里さんは道中での襲撃でお疲れのようですという風にして会話の場は設けさせませんから!」
私は朱里さんを励まします。
「ふふっ!ありがとう、サーシャちゃん。」
「いえ、私達の仲でしょう?」と、私達は笑いあってました。
そうしているうちに、時間は来ました。謁見の準備が整ったようです。
私達は謁見の間で膝を付いてます。
「面を上げよ。」陛下の声で顔を上げます。
そこには、銀髪を肩口まで伸ばし赤い瞳をした20代にも見える細身の男性が座っています。
そう、見た目は若いのですが、私の父である公王陛下です。これでもう50にもなろうという歳なのですから凄まじいものです。
「なにやら、報告があるようだな。申してみよ。」
「分かりました。この度、聖女様との帰国の最中、魔物の集団の襲撃に遭いました。その際、兵士の全てが亡くなりました。ですが、こちらのティア様が助けて下さったのです。私も後少しで魔物の慰み者になり果ててしまうところでございました。その際、励ましの言葉とともに守って下さったのです。私と致しましては、このままティア様には私の近衛として少しの間、雇っていければと思っております。」
本来であれば、このように捲し立ててはいけないのですが、今回ばかりは致し方ありません。
「ふむ。そうであったか。それで、そなたがティア殿か?」
陛下がティアさんを見てそう聞きます。この場には、父である公王陛下。陛下の隣に宰相。それと、私達ケイシさんのお嫁さん達しか居ません。まあ、良くある「名乗って?」の振りですね。
「はい、私がティアでございます。公王陛下。」
ティアさんの所作は上流貴族でも中々お目にかかれない程に洗礼されたものでした。
「先ほどの話は事実か?」陛下は、やはり兵士が全滅するほどの戦力を一人で討伐できるのか?と聞いているようですね。
「いえ。私と夫の二人での戦闘でございます。夫はこの国にも用事があり王城前まで夫の専用アーティファクトでの護衛ののちそちらの用事を済ませに向かわせました。公王陛下には失礼かと思いましたが、私達の商売は信用商売です。それに、未遂とはいえ魔物の慰み者になろうかというところまで追い込まれたのです。その近くに男がいるなど心の休まることがないと思いましたので。」
ティアさんも予定通り捲し立てます。これで、大体は乗り切ったとみて良いでしょう。
「ふむ。サーシャよ。聖女様とティア殿には後ほど確認したい事ができた。そなたとともに執務室に来い。」
「分かりました、公王陛下。」
これで、乗り切りましたね…。
公王としてでなければ、良い父ですので朱里さんも大丈夫でしょう。
「下がってよい。」
そういうと、陛下は戻っていきます。
次に私達も退出して、私の部屋に戻ります。
「ふう。なんとかなりました…。もう王様と謁見なんて面倒なイベントはスキップしたいですねぇ。」
私達以外に誰もいないとなったら、唐突にだらけますね。ティアさんは。
「全くだよー。私なんて何も喋ってないのに疲れた~。」
朱里さんは慣れていないですからね。
それはそうと、ティアさんは信託を下す時などで場慣れしていそうなのですが?
「ティアさんは信託などで慣れているのではないのですか?」
「信託を下す時って私が一番上じゃないですか?気にならないんですよね~。」
私が言えたものではないと自覚しておりますが、この女神さまも色々とダメなのですね。
「そんな事より、この後まただよね?大丈夫かな?」
朱里さんから声がかかります。どうやら父との密談を気にしているようです。
「おそらく大丈夫だと思いますよ、朱里さん。私の父は陛下としてでなければ、その言い方が悪いですが、ただのおじさんですから。」
そう、父は素で喋ると…。
「サーシャ様、公王陛下がお呼びです。」
どうやら、これから密談のようですね。朱里さんの疑問は更に増えたように感じますが、見てもらうのがいいでしょう。
「今いきます。ありがとうございます。」
呼びにきたメイドにそう伝え、「さあ、行きましょう?」と皆さんに声を掛けます。
私達は父の待つ執務室に着きました。
扉をノックして「陛下、サーシャです。」と簡単に伝えます。
「入って来なさい。」と扉越しに女性の…母の声がします。
「失礼します。」扉を開けて皆で入ります。どうやら、母も居たようです。
朱里さんが凄まじく緊張していますね。
「皆の者。ここは公式の場ではないのだ。楽にして良いぞ。」
「そうですわ。ここには私達しかおりませんもの。」
父の横に立つ私の母は、金髪碧眼の可愛らしい方です。
若々しい女性の声がしますが、これでも私の母で父と同い年です。
ええ。見た目はどう見ても10代前半の幼さを感じますが。もうすぐ50になりますね。
その上、子供を一人産んでます。見た目だけだともう私より年下に見えます。
そう、彼女が私を産んだ母です。育ててくれた母とは別ですが、そこは二人とも仲が良いので安心できます。
父からお許しが出たので、私はいつも「父」にあたるように振る舞います。
「お父様、それでどうしたのですか?いきなり呼び付けて?」
「あらん。あたしはいつも通りよぉ?ちょぉっとオンナの話が必要かしらね?ってあたしのオンナの勘が言ってたのよぉ!それとぉ!あたしの事はパパって呼んでって言ってるじゃないっ!」と、いつものノリで話し始めました。
そう、公王陛下は…。父はオネエと呼ばれる類の人です。
「そうだな。私だって面倒な話し方したかないんだよ。これで良いならずっとこれがいい。ま!正直に言うと私にはそんな女の機微とか良くわかんねぇけどな!」
男前に可愛らしい声で喋っている元盗賊団統領の母。
ええ。全くどんな馴れ初めなのか知りませんし、正直知りたくもないのですが、母は盗賊団の統領でした。しかも、30年程前までは世界を股に掛けていた大盗賊です。
それが、私を育てられなかった理由です。ええ。さすがに無理でしょう?
称号に今なお、盗賊王という称号があります。
そしてこの、王族の血筋に盗賊とか気にせずに入れられるくらい優秀な父の統治者としての能力も、戦闘の実力だけなら世界屈指の実力を持つ母の能力も。…全く持って訳が分かりませんよね。
おや、後ろで二人とも固まっていますね。ティアさんまで固まったのは初めてではないでしょうか。
「びっくりさせちゃったかしらん?そぉだ!今から紅茶を淹れるわねえ。ハニーも飲むわよねー?」と、父が。
「うん?あぁ!ダーリンの紅茶なら飲むっ!砂糖とミルク忘れるなよ~!」と、母が。
「「ええええええええええええええ!!???」」
二人とも帰って来たようで何よりです。
「あら?再起動したのねん?紅茶淹れてるからちょっと待っててねん?」
「ダーリンの紅茶うまいんだよ!期待してていいぜ!」
二人とも、いつまでもマイペースな両親に驚きが隠せていないようですね。
この程度なら今日一日で慣れるというものです。
30分程して、やっと落ち着きを取り戻した執務室で紅茶を飲む私達。
「へ~!そんな事があったんですね!」朱里さんが相づちを打ってます。
「そうなのよ~!この子があまりにも可愛くてねぇ!?思わず口説き落としちゃったのよ~!」
「あん時のダーリンはかっこよかったぜ!…今も夜はすげぇけど…。」
「当たり前じゃない!こんなに可愛いのよ!?それで、私達の馴れ初めはここらにしてねん?それより貴女達の思い人は同じ人よねえ!?」
私はそう聞いてくる父に降参の意味を込めて白状します。
「ああ…。やっぱりお父様には分かりますか…。ええ。ここに居る私達はとある男性を愛しています。それも同じ方を。」
すると、父は盛り上がってきます。「いいわん!いいわん!それならガンガン攻めるのよ!貴女達は全員、可愛いんだから押して押して既成事実作っちゃえばいいのよ!サーシャも第四王女だから継承とか考えずに嫁げるわよぉ!」
もっと気にしないとダメでしょう。王族なのだから。
そもそも、謁見の途中でティアさんには夫がいると言ったでしょう。それでは私達はただの横恋慕です。実際に、横恋慕でしたが。
私はいつもそう思うのですが、この盗賊の嫁を貰った父の言葉は「やれる」と物語っています。
「私の時のダーリンは凄かったんだぜ?女を知り尽くしているって言うのか。思わず靡いて、気が付いたら盗賊から王族だからなあ…。礼儀作法なんて今も言葉遣いがギリって感じだな!」
いつも公の場に出ないのには、出れない理由があるのですね。
まあ、その口調で出られても困るのですが。それに、母はこの国の最高戦力です。次席が父なのですが…。ああ。もう旦那様が最高戦力ですね。
「それで、どうしたいのかしら?とりあえず、屋敷でも押し付けてそこで住む?」
父は話を進めてきます。いえ、これは決定事項ですね。
「いえ、それがいいわぁ!確か今はギルドに登録したのよねえ?それなら、この後に視察の席を設けて、そこであたしも挨拶するわねえ!それで適当に依頼をさせて王家の依頼担当の座を与えましょう!そうして、朱里ちゃんの専属護衛にでもすればいいわぁ!」
勝手に自己完結しました。
「オークすら蹂躙できる実力者か…!私も一戦やってみるかな…。なあ、ダーリン。私はそいつに私の娘を任せていいか確かめたいし、頼むよ~!」
「そうねぇ…。やりすぎちゃダメよぉ?」
後で旦那様に手を抜くように伝えましょう。まあ、勝って頂きますが。
良い薬になるでしょう。
「それじゃあ、あたしは皆が楽しく過ごせるお家も探しておくわぁ!そうそう!ティアちゃんはここで近衛の実質トップになって貰うからよろしくねえん!じゃないと煩い連中もいるのよん?」
トントン拍子に話が進んでいきますが、大丈夫でしょうか。
「あら?サーシャちゃん、心配しなくていいわ。元々ね?あたしは政略結婚自体が嫌いなのよ!だから、好きな人と結ばれるべきなの!」
「ですが、お父様。私には既に婚約者がいましたよね?」
そう、私には政略結婚の相手が既に決まっているのです。
お父様はどうするのでしょうか?
「それなら、もっと優秀な人材が見つかったのだけれど、旅人だったから繋ぎ止める為にサーシャちゃんを嫁に出すことにした。で十分よぉ!まあ、本当はもう少しだけ詰めておかないとダメだけどねぇ。それでもパパはサーシャちゃんの初恋の相手を立場ってだけで無為にはしないわ!」
「まあ、うるせぇ奴は私が全部これで黙らせてやるよ!それにサーシャの旦那も強いんだろ?嫁をたくさん貰おうってんだ。相当の実力があるんだろ?なら、これで黙らしちまえばいい。だろ?」
そう言いながら、お父様はウインクを。お母様は拳を前に突き出しました。
本当にこの両親は…。と、思いながらも頼もしく感じます。
メインストーリー〈北條京嗣〉
『と言うわけで、私の両親はまともに聞いておりません。旦那様が異世界人だとも伝わってないと思います。』
『えっと。それで俺はその、サーシャのお母さんと一戦やると?』
そんな癖しかなさそうな夫婦と話をして一戦して適度に勝てと?
『ええ。私としても旦那様はいつまでも勝ち続けてくれるカッコいい王子様でいて欲しいですから。』姫モードでいるサーシャは本当にこういう事を平然と言ってくる。
『わかったよ。とりあえず、圧勝にならないように勝ってみるか。面倒だったら圧勝するけど。それより、細かい話はまたにしよう。俺たちも寝た方が良いだろう?』
実はサーシャの話が長かったからか、俺とサーシャ以外はもう寝てしまったのだ。
朱里が眠そうにしていたのから始まり、次はアイシャが俺の膝を枕にして眠ってしまい最後にはティアが気が付いたら寝ていた。
『そうですね…。私も少し眠いですし。旦那様がそう言って下さるのでしたら。』
『ああ。おやすみサーシャ。』
今日はもう寝ておこう。明後日は模擬戦か。
何事もなければ良いのだが。
はい。今週分でした。
来週もまたみてね!




