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転生ヒロイン妄想記  作者: 篠笹
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13

 ーーー空?


 すいっと目が逸らされる。

 赤いカラーコンタクトを入れて、たっぷりとしたピンクの髪で顔を半分隠しているけれど、ほんのり赤み掛かった柔らかな頬、ぷっくりと美味しそうな唇、小柄で整った身体は、思わずきゅっと掴みたくなるヒロインスタイル。魔女っ子衣装が最高に似合ってる。


「え、ええっとぉ、二名様? いらっしゃいませ〜」


 声色まで変えて、空は乾いた愛想笑いで私たちを椅子に勧める。『私は空ではありません、人違いです』と念じる声が聞こえてくるようだ。

 初めて会った頃の偽ヒロイン像は堂々としていたのに。私としては、あっちの方が酷かったと思うのだが、やっぱり、外面と内面では恥ずかしさの度合いが違うのだろうか。


「初めてのお客様ですね? 今日は何を占いましょう?」


 右手の人差し指で唇付近に軽く触れ、首を傾げる。少しぶりっ子なポーズをとっているようだが、残念ながら目が笑っていない。


「いや。私たちはそのサービス、いらないから」

 堪り兼ねたキリカが待ったをかけると、空は両手で口元を覆った。

「まあ。お客様、何かご不満が?」

「不満もなにも、嫌々やってるのが丸分かり」

 キリカは心底嫌そうな顔をした。そして、深くため息を吐くと、強い口調で空に言った。

「ねぇ、貴方は何がしたいの? 生徒会や東や、他にもいろんな男子に付きまとって何人の女の子を泣かせたの? そうかと思えば、変なオカルトで彼女たちを怖がらせたり。今度は何をするつもりなの? 学校中に嫌がらせをして、混乱を招きたいの?」

「え、女の子を泣かせた? 何人も?」

 私は驚いて空を見た。更にオカルトで怖がらせたって、もしかして、前世の記憶を聞いたのは私だけではなかったのか。


 空の目はおろおろとさまよっている。肯定もせず、否定もせず。


 でも、そうか。うん、そうだ。

 私は自分の世界しか見ていなかった。だから何も知らなかった。

 考えてみれば逆ハーレムを目指す者、敵は1人ではなかったはずだ。リクちゃんはさっぱり傾かなかったようだけど、他の攻略対象者も全員そうだとは限らない。


「四月に転入してからの二ヶ月で、何組のカップルを破局させたのかしらね?」

 嫌味を込めただろうキリカの言葉に、空はすっかり青ざめて俯いてしまった。今は改心していたとしても、やってしまったことは元には戻らない。


「そうよ」

 空の震える唇から声がこぼれた。

「私は前世の記憶を持っている。ここが記憶にあるゲームの世界と瓜二つだったから、だから、みんなゲームの登場人物くらいにしか思えなかった。だけど今は違う、この記憶を利用して、みんなを助けたいと思ってる」

「またそんなこと言って」

 キリカは更に機嫌を損ねたようだ。

「妄想するなら貴方の頭の中だけにしてくれない? そのせいでアキも怖い思いをしたの。これ以上この子を惑わせないで」

「嘘じゃない! だって、覚えのある出会いがいくつもあったし、校内の間取りも同じだし、東陸也と亜樹は仲が良いし、キャラ画とリアルでは同じ顔かどうかよくわからないけど、見たことのある人がたくさんいるんだもの」

「そんなの、大抵は偶然か気のせいでしょ? 校舎の間取りなんてどこも似たものだろうし、実際の出会いを参考にした作り話だって世の中にはごろごろしてる。そんな偶然を勝手に自分に運命付けて浸り切ってるなんて、それを世間では『中二病』って言うのよ」

「でも私は今世でゲームなんて持ってない」

「誰もゲームの話なんてしてない。小説なり漫画なり、今の世の中、情報源はいくらでもあるの。全ては貴方の無意識によるこじつけ。ある意味、貴方も可哀想な被害者よ」

「それでもーーー」

 更に空が反論しようとしたそのとき、テントの入口が開かれた。


「何か言い争っているようだが、トラブルか?」


 入って来たのは見覚えのある三年生だった。私は思わず「ヒーロー登場?」と呟いてしまい、キリカに睨まれた。

「西橋先輩…」

 空が潤んだ瞳を上げる。ヒロインらしく上目遣いだ。これで彼は空につくかと期待してしまったが、さすがに私のために怒ってくれたキリカに失礼だろうと反省する。


「い・し・は・し、だ」


 しかし、空の呟きに、彼はうんざりしたように訂正をした。思うに、今まで何度も間違えられているのだろう。いや、そんなことより、空を守りに入らないのか。彼は両手を腰に置き、深くため息をついた。


「またお前か。ついこの間、部外者を学校に招き入れて叱られたばかりだろう。無許可で店まで出して。…ちょっと生徒会室で話を聞こうか」

「え、や、それは坂下先輩が…、あ、いや、わかりました。行きますから。後、少しだけ」

 空は『いしはし』先輩に睨まれて、慌てながらも再度私たちを振り返り、主にキリカを見て言った。

「オカルトだなんて言われてるけど、私は記憶にある惨劇から皆を守りたい。ただ、それだけ。決して嫌がらせも混乱も望んでいない。それだけは分かって下さい」

 空はキリカに頭を下げると、「さあ行きましょうか」と『いしはし』先輩を引っ張って、テントから出て行ってしまった。連れ出そうとしたのは先輩の方だったのに。


「キリカ。さっきの、生徒会長だっけ?」

「ああ、石橋先輩ね。生徒会長だよ」

 空はとても真剣だったけど、もやもやするものが残ってしまった。

「空、生徒会長がゲームと同じ名前って言ってたけど、名前間違ってる」

「だから、どんなに真剣でも妄想は妄想なんだってば。あんたも妄想癖があるけど、いい加減目を覚ましなさいよ」

 やはり彼女の妄想だったのだろうか。

 クリスマスの血抜き事件が起こらないと言うのなら安心だけど。


 しかし、謎の仮装。開会式直前に生徒会室に呼び出されるヒロイン。それはそれで、乙女ゲーム的イベントがありそうだと、私はまた少し期待してしまった。


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