12
その日から、リクちゃんは何故か隙ある毎にキスをしようとして来る。しかも、それっぽいムードを感じない。一体なんなのか。もしかして、他に意味があるのか。まさか、妖怪が取り付いているのではないだろうか。
私ははたと気が付いて、隣を歩くリクちゃんを見上げた。
なるほど、そうかもしれない。血だけでなく、その他体液でもOKとかいうパターンもある。一気に血を啜るより、毎日少しずつ体液を収穫した方が、より長く利用できるというものではないか。
ああ、気がつくのに半月もかかってしまうなんて。私を好きとか、何を自惚れていたのだろう。
「アキ、何か失礼なこと、考えてない?」
「失礼なのはそっちじゃないか」
言えば、心当たりがないとばかりに首を傾げる。
「リクちゃん。お祓いとか、興味ない?」
「ないよ」
即答だ。憑かれている自覚がないのだろう。いや、すっかり融合しているのか、はたまた、乗っ取られてしまったのか。魔除けグッズが効かないなら、どう対応すればいいのだろう。ただの妄想かもしれないけれど、そうでないかもしれない。考えてばかりで出口が見えない。
空に会いたい。情報が欲しい。同じ学校、同じ学年なのに、なぜこんなに遭遇率が悪いのか。
校門を潜ると、いつもは校舎に一直線の人の流れが、今日はあちこちに分散されている。クーラーボックスを運ぶ人、木材を組み立てる人、紙の束を持って、登校して来た生徒に配る人。
今日は待ちに待った、家庭科部特製桜餅の発売日。でもあるけど、メインは球技大会だ。去年から部費を稼ぐための模擬店が許されているので、各部、それぞれに忙しそうだ。
「はい。これ、今年の地図ね」
目の前に、一枚のチラシが渡される。
「へぇ、去年はこんなの配ってなかったよね」
「今年は参加店が倍以上になったからね。いろいろと整理されたのよ。楽しんでね!」
「お疲れさまです。ありがとう」
チラシ配りの彼女は手を振ると、次の生徒へと掛けて行く。彼女も同じ生徒なのに、まるで、他の生徒を接待しているようだ。
「球技大会の実行委員の人だよね。取りまとめの人って偉そうなのに、なんだかお世話係りみたいで大変そう」
「見方に寄るね。興味がない人にはそう見えるだろうけど、企画に興味がある人には成功させる為の一環な訳だし。お世話係りのように見えて、実は全体的に操っているともとれるよね」
「操っている?」
「だってほら。ゴミ箱の位置や落し物を預ける場所とか、彼らの決めたルールでしょ。もちろん、いろいろとスムーズにするためのルールだけど、こちらにお願いしますと言いながら、皆をそのルールに引き込んでいる」
「うーん、そうとも取れる? お世話が操ることっていうなら、いつもお世話になってるリクちゃんに、私は操られているのかもね」
「たまにねー。あ、あの店は人気があるみたいだね。まだ準備中なのに、人が並んでる」
「え?」
何か引っかかる一言をさらっと流されたけど。私はそんなことよりも気になるものを見つけた。
「あ! あれは家庭科部のお店だ! 桜餅!」
並ぶのが先か、着替えるのが先か。まだ開店していないし、こっちを先にすると開会式に間に合わない気がする。難しいところだ。いや、こういう時ってやっぱり。
私はリクちゃんを振り返る。
「『僕が並んでいてあげるから、早く着替えておいで』」
「言わない。アキを1人で行かせるわけないだろ? ほら、並びたいなら急いで教室行くよ。藤川が待ってるんじゃないか?」
ちっ、相変わらず甘やかさないな。
私は桜餅のため、球技前に教室まで全力で走ることにした。
「こら、廊下は走らない!」
すぐに止められてしまったが。
しかし問題ない。今日はこんなこともあろうかと、体操着を制服の下に着て来たのだ。
私にしては、かなりな機転が効いている。教室に着くと同時に制服を脱ぎ捨て、先に来ていたキリカを引き連れ、家庭科部のお店へ急いだ。キリカは微妙な顔をしていたが、何も言わないということは何も問題ないのだろう。
時間短縮に務めたおかげか、桜餅はギリギリ購入できた。家庭科部特製限定茶付きだ。
ホクホクしながら歩いていたが、ひとつだけ、地図にない店がある。白い麻布で四方を囲ったテントの入口には、習字紙に丁寧な文字で『占い〼無料』と書いてある。
「無料だから届けを出してないのかな。今回の模擬店は部費稼ぎがメインのはずなのに、珍しいね」
「開会式までもう少しあるし、ちょっと覗いてみる?」
「いいよ」
キリカに了解を得て、中に入ってみると。
「いらっしゃいませ〜」
中にはピンクの髪をした魔女っ子がいた。
22,222文字達成。




