2-3
どうして、夜の学校は不気味なんだろう。
いつも過ごしている場所なのに、時間帯が違うだけでここまで恐怖を感じるのは、どうしてだろう。
もしかして、いつも過ごしてる場所だからこそ、自分の知らない一面を見ることで恐怖を感じるのかも知れない。完全な未知よりも、不完全な未知、なーんて。
うーん、我ながらどうでもいいことに頭を使っちゃったな。
――こんな前振りをしときながら、もしわたしが昼間の自分の家にいたとしたら、とんだ肩透かしだと思う。でも、もちろんそんなことはない。わたしが今居るのは、間違いなく夜の学校だ。
学校の、手摺りが壊れた外階段の前に、わたしはいる。途中に立入禁止のテープが張ってあったけど、無視した。
今夜は風が強い。
あおられて顔に当たる髪を手で抑え付けながら、わたしはしゃがみこんで、途中でぽっきりと折れている手摺りを観た。
折れている部分を中心にペンキが剥がれ、錆び付いている。何かで殴った跡とかはなさそうだ。
不意に足音が聞こえた。
立ち上がって振り向くと、廊下を歩いてくる人影が見えた。暗くて顔は見えないけど、わたしはそれが誰だか知っている。
「こんな時間にこんなところに呼び出して、いったい何の用? りっちゃん」
影がゆっくりと近づいてくる。
「にしても、りっちゃん、よくこんなところに来れたよね。確か怖いのは苦手じゃなかったっけ?」
その影に違和感を感じる。相手が誰だかわかっていたはずなのに、急に自信がなくなってきた。その不安を振り払う為に、わたしは頭を左右に振った。
「ま、いっか。とにかく早く話を終わらせよ。ここに呼んだってことは、事件絡みだよね? どんな話? まさか私が犯人とでも言うつもり?」
「そうだよ」
廊下に声が響いた。
「……っ!」
高鳴る心臓の音を抑えるように胸に手を当てて、わたしは、言葉を続けた。
「きみの言う通りだよ。この事件の犯人は……」
その時、雲の合間から満月が顔を覗かせた。月の光に照らされたその顔は……。
「きみだよ。れーちゃん」
内海玲奈だった。
「え……、あ……りっ、ちゃんじゃ……ない……?」
「ごめんね、騙すみたいなことして。でもわたしが呼んでも来なかったでしょ? れーちゃんは。だからりっちゃんにお願いして、代わりに呼んでもらったの」
「あ……う……」
にしても本当に驚いた。
れーちゃんって、あんな話し方するんだ。呼び方も『りっちゃん』だし、口調がわたしそっくりだから、まるで自分と話してる気分だった。
「わざわざここまで来てもらった理由は、もうわかってると思うけど……」
「うぅ……」
追い詰められたような声を出すれーちゃん。
いつものわたしならちょっとした快感を覚えるんだろうけど、この状況じゃさすがに楽しめない。
「わたしの推理を、れーちゃんに聞いてもらう為だよ。推理って言っても、証拠も何もない、単なる想像みたいなものだけどね」
「…………」
れーちゃんだんまりモードに突入。でも問題ない。わたしが話したいだけで、答えは期待してないから。
「さっき、この事件の犯人がれーちゃんだって言ったけど、甘木くんや中沢くんを殺したのがれーちゃんだってことじゃないよ。れーちゃんが殺したのは、辛島さんだけ。
「だからって、甘木くんが『突き飛ばしたら手摺りが壊れて落ちた』って言ってたのは嘘じゃないんだよ。つまり、直接殺したのが甘木くん。間接的に殺したのが、れーちゃんだったの。
「最初から変だなぁって思ってたの。辛島さんは不良だよね? 中沢くんも辛島さんに憧れて不良になった。甘木くんが不良なのも、お母さんの様子から見て間違いない。でも、れーちゃんは不良じゃないよね。先生にも評判がいいって、りっちゃんが言ってたから。
「四人グループで、一人だけ不良じゃないなんて不自然でしょ。わたしの知らない隠された一面があるのかもっていうのも考えたけど、それより簡単な答えがあった。
「れーちゃんは、他の三人にいじめられてたんだよ」
「違う!」
れーちゃんが弾かれたように、大声を上げた。
「違う! 違う違う!」
れーちゃんが何度も首を振る。その度に長い髪が宙を踊る。
「私はいじめられてなんかない! みんな優しくしてくれた! ただ、ただ、私が……」
途切れそうになった言葉を、わたしが続ける。
「もしかしたら、三人にいじめてるつもりはなかったのかもね。でもれーちゃんにとっては、辛かった。一緒に居たくなかった。だけど気が弱いから、そんなこと言い出せなかった。だんだん嫌な気持ちが募っていって、それが抑え切れなくなった」
れーちゃんの髪が乱れて、偶然前髪が横に流れていた。初めて見たれーちゃんの瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「だけどヒトを殺すほどの勇気もない。そもそも殺したくない。だけど殺したい。それで始めたのが、手摺りを少しずつ壊すことだったんだね」
わたしはしゃがんで、手摺りの折れた部分を、右手でそっと撫でた。手の平にざらざらの茶色い錆が付く。
「ここ、すごく錆びてるよね。でもこっちは……」
わたしは、少し離れたところにある鉄の柱を、今度は左手で触った。錆は付かない。て言うより、ペンキが剥がれてない。
「全然錆びてないの」
わたしは両掌をれーちゃんの方に向けて見せた。れーちゃんは怯えた目で、それを見た。
「実を言うと、これを確認するまではこの推理、あんまり自信なかったんだ。でも予想はしてた。だって、手摺りなんてそう簡単に壊れないし。
「つまりれーちゃんが何をしたかって言うと、毎日毎日この手摺りを少しずつ壊してたんだね。ペンキを剥がしたり、塩水をかけたりでもしたのかな。固い物で殴って壊せば早いのに、それをしなかったのは、三人にばれたり、警察に捕まったりするのが怖かったから、じゃないかな。
「この階段は、普通は通らない階段だから、手摺りが壊れた時に一緒に落ちるとしたら、よくここに来る四人の中から、犯人のれーちゃんを除いた三人だけ。逆に言うと、三人の内の誰が落ちるかはわからないんだけど、そのへんは誰でも良かったのかな? それとも、よく手摺りにもたれるヒトがいて、そのヒトを狙ったとか?」
「ち、ちが……」
「うん、そうだと思った。そんなにはっきりした殺意はなかったんだよね。ただ、誰かを殺す為に何かをすることで、殺意を発散させてたんでしょ? ほんとに殺してしまわないように」
「…………」
風が唸る。台風でも来てるんじゃないかってほどに。そんなことは天気予報では言ってなかったと思うけど。
「でも、偶然ほんとに殺してしまった。れーちゃんはそれで後悔してる。だけど警察に話す勇気もない。……って感じで合ってるかな?」
「…………」
沈黙が肯定と同じっていうのは、れーちゃんに限っては当てはまらないのかも知れない。
だけど別に構わない。極端な話、わたしの推理が間違っていてもいい。
この事件を終わらせることができれば。
「さて、ここからは単なるおまけなんだけど……」
わたしはそう言って、本題を話し始める。
「中沢くんがここから飛び降り自殺した理由は、なんだと思う? まあ、これはだれでもわかるよね。死んだ辛島さんの後を追う為。あと、人殺しをした罪に耐えられ「もう、いいです」
静かな声が、わたしの言葉を遮った。
声を出したれーちゃんは、もう泣いていなかった。
「もう、いいんです。ありがとうございました。私の為にわざわざこんなところまで来てくださって……」
れーちゃんが、ゆっくりとわたしの方へと歩いてくる。
「みんな、あなたの言う通りです。辛島さんを殺したのは、私です」
わたしは少しだけ移動して、身体をずらした。だけどれーちゃんの進む方向は変わらない。
「辛島さんだけなら、私も立ち直れたかもしれない……。でも、みんな死んでしまって、それは全部私のせいなんです。だから……」
れーちゃんがわたしに向かって歩いてるんじゃないことがわかって、わたしは成功を確信した。
「……さよならっ!」
れーちゃんが走り出した。
折れた手摺りに向かって。
……じゃなくて、その手摺りの向こう側、地面のない空間へ向かって。
「待って! レイナ!」
校舎の中、廊下の方からした突然の声に、わたしもれーちゃんも動きを止めた。
そこには、りっちゃんが立っていた。
「りっちゃん……。なんで……」
あまりの驚きに、思わず声が洩れた。
「あんなお願いされたら、誰だって気になるよ。ワケを訊いても、ナイショだって言うし」
そこじゃなくて、わたしはりっちゃんが夜の学校に来れた理由を訊いたんだけど。怖がりのりっちゃんが、一人でこんな不気味なところへ来れるなんて……。
わたしの質問に答えたあと、りっちゃんはれーちゃんの方を見た。だけどそれは一瞬で、すぐにりっちゃんは、辛そうに顔を伏せた。
「レイナ、ごめんね。アタシ、レイナの悩みに気づいてあげれなくて……。ううん、そうじゃなくて……」
りっちゃんは首を振り、今度こそしっかりと、れーちゃんと目を合わせた。
「アタシ、レイナに死んでほしくない。レイナが死んだら、すごく哀しいよ。だからお願い。死なないで、レイナ」
言いながら、少しずつれーちゃんの方へと足を進めていくりっちゃん。
そして次は、れーちゃんが顔を伏せる番だった。
「りっちゃん……、ごめん……」
「待って。だめだよ、レイナ」
伏せた顔をゆっくりと上げながら、れーちゃんが出した答えは……。
「ごめんね、無理だよ」
「レイナ!」
空砲の音が聞こえた気がした。
りっちゃんが走り出したのと、れーちゃんが壊れた手摺りの向こう側へと身を躍らせたのは、ほぼ同時だった。
れーちゃんの身体が、落ちていく。
そのれーちゃんに向かって、りっちゃんが全速力で駆ける。
でも、無理。
この距離だと、いくらりっちゃんの足が早くても、どんなに手を伸ばしても、りっちゃんの手はれーちゃんには届かない。
わたしが手を伸ばせば何とかなるかも知れないけど、わたしにそんなことをするつもりはない。
だかられーちゃんは、落ちていくしかない。
はずだった。
「えっ!?」
りっちゃんの手が、れーちゃんに届いた。
どんなに手を伸ばしても届かないはずの手が、届いた。
りっちゃんが伸ばしたのは、手じゃなかった。ううん、手も伸ばしたんだけど、手だけを伸ばしたんじゃなかった。
りっちゃんは、身体全体を伸ばして、手摺りの向こう側に飛び出していた。ちょうどプールで飛び込みをする時みたいに。でもここはプールじゃない。
れーちゃんの手を掴んだりっちゃんは、れーちゃんと一緒に地面へ落ちていこうとしていた。
「りっちゃん!」
わたしはとっさに、手を伸ばした。右手を伸ばして、りっちゃんの足をズボンの上から掴み、左手で折れた手摺りを掴んだ。
あまり反射神経はよくない方なのに、どうしてなのか、しっかりと掴むことができた。
だけど。
二人。
あと一秒も経たない内に、二人分の重さがわたしの右腕に掛かる。
わたしの腕の力は強くない。
二人分……。
百キロぐらい? 衝撃とかも合わせたらもっと?
それにわたしの右腕は耐えられる?
無理。
手を離してしまうならまだいい。でももしかしたら、わたしも一緒に引き込まれるかも知れない。
それはだめだ。
早く手を離さないと。
…………。
……なのに。
……離れない。
なんで?
なんでわたしの手は、りっちゃんの足を離そうとしないの?
どうして?
こんな必死に、握り締めるぐらい力強く握ってるの?
『優しいんだね、君は』
『無理して優しくしないようにしてるんじゃないか……』
こんな時に、あのむかつく警官の言葉が思い出される。
違う。そんなんじゃない。わたしは……。
瞬きもできないような時間の中、わたしの頭の中ではいくつもの思考が飛び交った。
でも、それももう時間切れ。
わたしの右腕が二人の体重に引っ張られる。だけどそれでもわたしの右手はりっちゃんの足を握り続け、結局、わたしの身体は宙ぶらりんになる。
りっちゃんの足を掴んでる右手の方は、数秒なら持つかもしれないけど、手摺りを掴んでる左手の方は、だめだった。
ざらざらの錆が滑り止めになるかも、なんて思ったけど、逆に錆で滑って、どんなにしっかり掴もうと思っても、掴めない。
ほんの時間稼ぎにもならない。わたしの左手は手摺りから離れて……。
「雪!」
誰かの力強い手に掴まれた。
見上げると、そこにはわたしの手首を掴むあっくんがいた。
「あっくん……?」
どうしてあっくんがいるんだろう。
そんな疑問が一瞬頭を過ぎったけど、両腕に掛かる重みが、すぐさまその疑問を吹き飛ばした。
「あ……くん……」
「雪! もう少し堪えろ! 律! そこから内海を、下の階に放り込め!」
りっちゃんは返事をする間も惜しいとばかりに、すぐにれーちゃんを手摺りの内側へ入れようとした。
――その時。
校庭の木が唸りをあげた。
わたしはそれが何を表しているのか、瞬時に理解する。
理解をして、それでもどうしようもないことを知る。
直後、豪風がわたしたちをあおった。
「キャアアッ!」
悲鳴をあげたのはりっちゃんだった。逆さまにぶら下がって揺さ振られる恐怖は、わたしにはわからない。
わたしは恐怖よりも、揺れることで更に掛かる重さを堪えるのに必死だった。
「ぅ。……うぅぁ、ぅぃあぁ……ぅ……」
「雪!」
言葉にならないうめき声をあげるわたしを、あっくんが励ました。
でも、わたしは限界だった。
「ぅぁ……あ、ぁ……」
風は止まない。
りっちゃんの靴が、脱げた。
その拍子にわたしの右手が、足から離れた。
「キャアアァアァァッ!!」
さっきよりも大きな悲鳴をあげながらりっちゃんが、そして最後まで声をあげることなくれーちゃんが、二人が地面に向かって落ちていく。
そして2人は……。
地面にぶつかる前に、警察のヒトが準備していた白い布に優しく受け止められた。
* *
「ごめんよ。一応下から叫んだんだけどね。風の音で聞こえなかったみたいでさ。ハハハ」
階段を降りたわたしとあっくんを出迎えたのは、夕方にわたしたちを家まで送った、あの警官だった。
謝罪の言葉と共に投げ掛けられたさわやかな笑顔を見ながら、わたしは思った。
やっぱり、こいつむかつく。
「怒ってるかい?」
「当たり前だよ」
「いや本当にごめん。なんなら一発殴ってくれてもいいよ。今なら傷害罪にも、公務執行妨害にもしないから」
「ほんと?」
「ああ、男に二言はない」
「そう、わかった」
わたしは後ろを振り向いた。
「わたしの代わりにお願いね、あっくん」
「任せろ」
「え、ちょ、待って。駄目じゃないけどそれは予想外……」
ボグッという鈍い音が聞こえた頃には、わたしはりっちゃんとれーちゃんの方に向かって歩き出していた。
近づくにつれて、二人の姿がはっきりと見えてくる。二人はまだ、白い布の上から降りてなかった。
向かい合い座っていた。
熱い抱擁を交わしていた。
一心不乱に抱き合っていた。
百合的空間を作り出していた。
…………。
……ええっと。
これ話しかけていいのかな?
周りにいる警察のヒトは、涙を流したり、目を潤ませてる。その様子からして、二人が無事に地面に降り立った後、なんか感動するようなやり取りがあって、それでこうなってるんだろうとは思う。多分、自殺しようとしたれーちゃんに、りっちゃんが怒って、諌めて、慰めて、改心させた後、気が高ぶって抱き合ってるんだろうってことは想像できる。
でもこの場面だけ切り取って見たら、やばい光景にしか見えない。なんか見ちゃいけないものを見てしまったような……。
「雪、どうした?」
迷っていると、後ろから声を掛けられた。
「あ、あっくん」
そーだ。いいこと考えた。
「だめ! あっくんは見ちゃだめ!」
「え? なんだよいきなり。何があるんだ?」
「とにかく見ちゃだめなの!」
大声で騒いでると、抱き合ってるりっちゃんとれーちゃんも気づいた。
二人が離れて、こっちにやってくる。
「ユキ、何騒いでんの?」
「あ、りっちゃんごめんね。気にせず続けて。心が子供なあっくんには目の毒だから、見せないようにしとくよ」
「「な……!」」
りっちゃんとあっくんが、同時に声を上げた。
「誰が子供だ!」
「違う、そんなんじゃないの! ただ抱き合ってただけでしょ!」
「な、抱き合ってただと!? 全然『だけ』じゃないじゃないか!」
「ほら、やっぱり子供だ」
「違うの違うの! 流れっていうか、勢いで!」
「勢いでいったら駄目だろ!」
「だからそういうのじゃないったら!」
「わたしを無視しないで欲しいな」
「じゃあなんで女同士で抱き合ってたんだよ!」
「あっくん、女同士だからだめってわけじゃないんだよ」
「お前はちょっと黙れ!」「ユキはちょっと黙って!」
その時、れーちゃんがりっちゃんの服の裾をちょいちょいと引っ張った。
「ん? なに、レイナ」
れーちゃんは、髪の下に覗かせた頬を赤らめていた。
「……さっきはありがとう。わたしもりっちゃんのこと、大好きだよ」
「…………」
「…………」
「…………」
三者三様の、微妙な沈黙が場に落ちる。
りっちゃんはおでこに手を当てて、口の中で何かをぶつぶつ呟いている。わたしの予想では、『落ち着けアタシ』だと思う。
それからりっちゃんは、れーちゃんの真正面に向き直って、両肩に手を置いた。
「レイナ、誤解しないように先に言っておくけど……。その言葉自体は嬉しいよ。すっごく嬉しい。でもね――」
そこでりっちゃんは、一拍ためて――
「このタイミングで言ったら色々マズいでしょうがッ!」
叫んだ直後、りっちゃんの肩に、ぽん、とあっくんの手が置かれた。
「え、いや、アツシ、だから違くて……」
「律、俺は間違ってた」
「え……? わかって……くれたの?」
「ああ、わかった。もう何も言わなくていい」
それを聞いたりっちゃんは、ほっと安心したようにため息をついた。
「はぁ、良かった、誤解が解けて……。そうよ、アタシがそんな……」
「二人の愛がそこまで真剣なら、もう俺に止める権利はない」
「だから違うっつーにッ!」
りっちゃんの叫びが、再度夜の学校に響き渡った。
そんな二人を笑顔で見つめていたわたしの肩が、軽く二回叩かれる。振り向くと、そこにはむかつく警官の顔が。
「楽しそうにしてるところ悪いんだけど「アタシは楽しくないッ!」、そろそろ来て貰えるかな? 事情聴取しないといけないんだ」
また事情聴取……。正直言ってあれはもうこりごりなんだけど。
「そんな顔しないで。君たち次第で早く終わるからさ」
わたしたち次第……ね。
わたしはれーちゃんの方を見た。事情聴取と聞いて、心なしか怯えているように見える。
りっちゃんに説得されて、生きる覚悟は決めたみたいだけど、警察に自分のしたことを話すとなると、まだ難しそう。仮に話せたとしても、結構長引くよね、やっぱり。
「今夜はちょっと忙しくてね。警察に着いたら、少しだけ待って貰うことになると思う」
「ちょっと、何それ」
いくらなんでもそれは聞き捨てならなかった。こっちは少しでも早く解放されたいのに。
怒りを示したわたしに、それでもそいつは笑いかけてくる。
「ほんの少しだけだよ。だからその間に、四人でしっかり話し合っておくといい。どうやったら早く事情聴取を終わらせることができるか」
「え……? それって……」
思わず訊き返そうとしたけれど、相手は取り合わずに校門の方へと歩いていった。
「口裏を合わせとけって意味だよな」
代わりに、あっくんが答えた。教えてくれなくても、すぐにわかったのに。
「あの警官には、全部お見通しなんだろう。内海が何をしたかとか、ここで何があったのかとか。内海のしたことが罪に問われないにしても、明るみになれば恨みに思う人間は居る。だから……なんだろうな」
「得意顔で教えてくれなくても、それぐらいわかってるよ」
「……得意顔はしてないけどな」
この反応は、真面目モード半分、通常モード半分と見た。
「ねえ、あっくん」
「なんだよ」
「どうしてあっくんは、ここにいるの?」
あっくんは一瞬、何のことかわからないみたいな顔をしたけど、すぐに気づいたらしい。軽く手を叩いた。
「ああ、律に頼まれてな。雪と内海のことが気になるけど、怖くて行けないから、一緒についてきて欲しいってさ」
だと思った。
りっちゃんを口止めしとくべきだったかな。
ううん、結果オーライ、塞翁が馬だよね。
「ねえ、あっくん」
「今度はなんだ?」
「明日、学校が終わったら、こないだの喫茶店いこ。二人で。部活さぼって」
「部活サボるのは俺だけだよな……」
「嫌なの?」
「いや、行くよ」
「無理しなくていいよ」
「だから行くってば」
「じゃあ、一緒に行きたいって言って」
「なんでそんな……」
「なんでも」
「…………。………………雪と一緒に行きたいです」
「なんて? 聞こえないよ?」
「だから行きたいっつってんだろが!」
「最初からそう言えばいいんだよ。素直じゃないんだから」
「お前なぁ……」
「ちょっとォ、」
りっちゃんが割り込んできた。
「二人で見せつけないでよ」
「な、そんなんじゃねえよ!」
「ねえ、そんなんってなーに?」
「あぁうぜー! ユキお前どんどんウザキャラになってんぞ!」
「キャラ変えよっかなぁと思って。低燃費ってなーにー?」
「それはバカキャラだ!」
「……(少ない燃料で長い距離を走れること)」
「内海は小声で答えてんじゃねえよ!」
「君たち」
「なんだよ今度は!」
怒鳴りながら振り向いたあっくんの目の前には、
「いい加減に来てくれないかな?」
冷気の漂う笑顔を浮かべて、さっきの警官が立っていた。




