エピローグ 衝動殺人
「全く、ふざけてるよね。今時教師と生徒の付き合いに口出ししてくるなんて、馬鹿げていると思わないかい?」
「そうですね」
「高校生だって、子供じゃないんだ。僕と年だって十も離れていないのに、なんでそこまで頑なに止められるんだ?」
そんなことより、ペンを持つ手を動かして欲しい。
「ほんと、おかしいですね」
「君もそう思うだろう? 全く、おかしいよ。ハッハッハッ」
「ふふふふ」
馬鹿だ。
「しかも本当に付き合ってるならともかく、彼女とはまだ何もしていないって言うのにね」
まだ、ね。
「全く、僕はツイてないよ」
ツイてないのはわたしのほうだよ。こんな時間まで野口なんかと二人っきりで文化祭の準備なんて。
あーあ、学級委員なんてなるんじゃなかったなあ。
「きっと、先生が格好いいからですよ。だから余計に目を付けられるんです」
あ、今のは失敗だったかな?
気があるみたいに思われたらやだな……。
「ところで、雪ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
あ、やばい。目の色が変わった。
「君、二組の黒澤くんと付き合ってるって本当かい?」
やっぱりそういう話に持っていくんだ。
「はい、付き合ってますけど」
どうやって乗り切ろうかな。
「信じられないな。どうしてあんな男と付き合っているんだい?」
生徒をあんな男呼ばわりですか。
「いえ、どうしてって言われても……」
「彼より相応しい男が、君にはいると思うんだけどな」
いるかも知れないけど、それはあなたじゃないよ? 先生。
「わたし、そんな大したものじゃありませんよ」
欠陥品だし。
「そんなことないよ」
あなたがわたしの何を知ってるの?
「それに、黒澤くんもあれで意外と優しいところがあったりしますし」
少なくとも、あなたよりはニンゲンができてるよ。
「……ちょっと小耳に挟んだんだけどね。君と黒澤くん、小学生の時に色々あったらしいね」
「…………」
こいつ、何を言う気?
「病院で寝たきりの黒澤くんを、君が絞め殺しかけたとか」
やめて。
「君を責めるつもりはないよ。どうも黒澤くんのほうが、君に頼んだらしいしね」
やめて! 思い出させないで!
「君の力が弱かったおかげで黒澤くんは助かって、その後次第に病状が回復し、数年後に退院した。今では全く後遺症は残っていない」
「……そう、です」
……殺したい。こいつを。
「そうじゃないだろう?」
「…………?」
何が……?
「後遺症はあった。君の中に」
「――っ!」
やめて!
「君は今でも、黒澤くんに対して負い目を持っている。君は悪くないのにね」
「や、やめ……」
「今彼と付き合っているのも、その負い目があるからじゃないのか?
「そのせいで余計に負い目を感じてしまって、悪循環になっている。
「そう、君は暗い感情を常に抱えている。
「彼と別れれば、その感情も少しはマシになるだろう。
「彼だって、そのことはわかっているよ。
「わかっていて離れようとしないのは、楽しんでいるからだ。
「苦しむ君を弄んで、楽しんでいるんだよ。
「なあ、悪いことは言わない。彼と別れるんだ。そうして僕と付き合えば、君は……」
「……黙れ」
「うわっ!?」
殺す。こいつを。殺す。
「な、何を……やめろ白井くん! それを置いて」
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺――
(黒白雪 終)




