第6話 は?
どういう思考回路をしているのか、マクシミリアン王太子殿下とジェナ様は、二人そろってわたしを睨む。
「お前さえいなければ、この俺様はジェナと婚約を結べるのに」
は、い?
わたしが好きで婚約を結んでいるとでも?
わたしがいなければではなく。王妃様とか国王陛下とかがわたしを開放してくだされば、ですよ? 認識は正しく持ちましょうよ!
さすがのわたしも主張するよ!
「王太子殿下の婚約は、国王陛下と王妃様がお決めになったことです。わたしはご命令に逆らえないだけです」
言ってやったのに。
「キサマが父上と母上を騙して、この俺様の婚約者の地位にしがみついているのだな!」
あーのー? わたしの話、聞いてます?
子爵家の小娘が、陛下がたの命令に逆らえないって言っているんですよ?
なりたくてなっているんじゃないよ!
王太子殿下の婚約者の地位なんて、要らないの!
欲しい人がいるのなら喜んで差し上げますって!
しがみ付く気なんてこれっぽっちもない!
「しがみ付いてないです! 婚約者なんて、ジェナ様に差し上げます! わたし、要りません! 婚約などさっさと破棄してください!」
何度も何度も主張した!
わたしは言ったよ!
なのに、小説や演劇なんかでよくある構図に、マクシミリアン王太子殿下とジェナ様は、わたしをあてはめてきやがったのだ!
身分差を乗り越えて愛し合う王太子殿下と平民上がりの男爵令嬢。
しかし、王太子殿下には婚約者がいた。それは、愛し合う二人を引き裂く悪女。その悪女が、わたし⁉
はあ?
二人して頭にお花でも咲いているの?
わたしが言ったこと、ちゃんと聞いてんの⁉
赤みを帯びた鮮やかなピンク色の髪と瞳、ウサギのように愛らしい容貌のジェナ様が
マクシミリアン王太子殿下をウルウルとした目で見つめる。
「もしも……、殿下に、婚約者がいなかったら……」
「いいえ、殿下に婚約者がいなくても、あたしなんて、男爵家の娘とはいえ平民みたいなものですし……」
「婚約者の人には睨まれて……、あたしが平民出身だからって……」
殿下も殿下で、まるでご自分が悲劇のヒーローみたいなセリフを吐くのだ。
「ジェナ……、身分など関係ない。俺様の心はジェナものだ」
「ああ……、身分などない世界だったら。心のままに動けるというのに……。だが、俺様は愛していない婚約者に縛られて……」
「なんと! 平民だと虐められているのだな⁉」
貴族学院のわたしたちの教室は、まるで劇場のようよ。
マクシミリアン王太子殿下とジェナ様のお二人で、劇を繰り広げるのなら別にいいんだけど。
わたしを巻き込まないで!
お二人がお花畑で戯れるのを邪魔なんてしてないんだから!
わたしとしては、王太子殿下がジェナ様と恋仲になってもらっても別にいいの!
無関係!
いえ、消臭はしているから無関係ではないのだけれど。
婚約なんて、消臭のための名目!
くさい殿下の息を、消臭する以外に用はない!
マクシミリアン王太子殿下にもジェナ様にも、個人的な興味はないのおおおおおお!
悪女役とか悪役令嬢役に、わたしを当てはめないで!
だいたい片田舎の小さな領地の子爵家の小娘が、悪役令嬢なんて高圧的な役柄、似合うわけないでしょおおおおおおおお!
文句はわたしじゃなくて、王妃様や国王陛下に言ってよ!
わたし、王太子殿下なんて要らないって言ってんの! むしろ嫌いですぅうううううう!
ああ……、さっさとジェナ様がギフトを使いこなせるようになって、マクシミリアン王太子殿下のくささを根本的に解決してくれないかしら……。
願った。
わたしは願った。
だけど……。
マクシミリアン王太子殿下はわたしを睨むし。
ジェナ様は、わたしに虐められているんですって泣きまねをするし。
あ、あああああああ! もう!
コイツら嫌っ!




