第13話 尋問?
二日ほど経過した後、わたしがソファに座ってお茶を飲んでいるときに、客間のドアがノックされた。
わたしが返事をする前に、ドアの横に立っている監視役の騎士? 兵士? の一人がドアを開ける。
もう一人は、ドアのほうは見ずに、視線はわたしに向けたまま。
……逃げませんよ。逃げても無意味だし。なんて言っても、彼らもお仕事だから、わたしから視線を外せないんだろう。
入ってきたのは二人。
二人とも、騎士服ではないが、どちらかと言えば文官に近い服装をしている男の人。
腰には剣ではなく、短い警棒のようなものを下げていた。
二人はわたしの傍までやって来て、軽く会釈をしてくれた。
「内務省所属、国家憲兵隊員のファーディナンド・ローセンブラードだ」
ガーネットのように深く重厚で落ち着いた赤の髪の、まるで猟犬のように鋭い目つきの男の人が先に名乗ってきた。目つきはキツイけど、声音は穏やかで。わたしを怖がらせないようにって気を使ってくれているみたい。
「同じく内務省所属、国家憲兵隊員のラデク・エイマンでっす!」
もう一人、木漏れ日みたいに温かみのある金の髪の、猟犬よりはちょっと穏やかめの……、ええと、たとえるのなら牧羊犬的な顔をしたほうの男の人も名乗ってきた。
「え、ええと? 国家、憲兵……?」
赤い髪の……、ファーディナンド・ローセンブラード様が「ふむ」と顎に手を当てた。
「ああ、ご令嬢にはなじみがないか。国家憲兵隊というのは、もともとは軍紀や風紀の取り締まりを主たる目的とする小規模な組織だったのだが」
軍紀に、取り締まり……?
わたしが「はあ……」と言ったら、金髪のラデク・エイマン様のほうが言い換えをしてくれた。
「簡単に言うとね、昔はね、威張り散らして悪いことしている軍の兵士とかがいないだろうなーって、取り締まるお仕事をしていたんだけど」
あ、なるほど。
「現在は治安維持、防諜活動、思想調査なども担当している」
「まあ、担当部署が分からないけど、なんか調べてなんとかしなきゃーって感じのお仕事とかも、オレらに回ってくるの」
つまり、今回の王太子消失事件の取り調べ係……ってことかしら。
「えっと、あの、わたしは……エアリス・オズウェストリーです」
知っているだろうけど、名乗っていただいたので、わたしも名乗る。
「気楽にしてくれたまえ……と言っても無理だろうが、既に王太子殿下消失の概要は聞いている。オズウェストリー子爵令嬢に聞いていきたいのは、君からの視点、君の感情と言ったところだ」
「わたしの視点……?」
「ああ。補足程度……というわけではないのだが、君は一応王太子殿下の婚約者という立場だからな。きちんと話を聞いておきたい」
消臭のための名目だけの婚約者なのに……。
「ただ、何がどうであれ、王太子殿下が消えたことには変わりがない」
穏やかだった声音に、重さが加わった。
わたしの心に、ずっしりとした石を詰め込まれたように感じてしまう。
「……つまり、関係者全員から話を聞いて、誰が一番悪いか、決めないといけないってことですね?」
王太子殿下が消えた。死んだに等しい。誰かが殺したわけではないにしろ……消失に関りがある誰かが、犯人として処断されるのだろう。
それは……わたし、だろうか? ジェナ様だろうか? それとも王妃様……?
「単純に誰か一人を悪者にして終わりではない……と考えてはいる」
「では聞き方を変えます。王太子殿下が消失したその責任を、一人でなくとも誰かが負わねばなりませんね?」
消去法で考える。
まずお父様は除外される……と思う。
わたしという、王太子殿下の婚約者の父親。普段は特に王太子殿下と関わることもなく、あの場にも、わたしの付添的にいただけ。
フェアファクス侯爵令息も多分除外。
彼も側妃様の付添でいただけだろう。
貴族学院の同じクラスで授業を受けているとはいえ、王太子殿下と個人的な交流はしていているようには見えなかった。
側妃様の弟であるとしても、フェアファクス侯爵令息を罪に問うくらいなら、側妃様に何らかの沙汰があるだろうし。
側妃様は……、どうなのだろう?
なんとなく、あのときの会話の流れからして、王妃様から『浄化』してほしいと言わせていたような気がする。誘導というか……。
でも、何故そんな誘導をする必要があったのだろう?
というか、そもそもどうして側妃様が王太子殿下の私室を訪ねてきたの? たまたま前を通りかかった……なんてことはないはず。
疑問。
疑惑。
……わたしが犯人になりたくないだけで、だから、なんとなく側妃様が怪しいと思ってしまうのか。罪を押し付けたくなっているから怪しいなんて思うのかも。
『浄化』という力で、直接的に王太子殿下を消去したのはジェナ様だけど。
『浄化』をかけたら王太子殿下が消失するなんて、普通は考えつかない。
王太子殿下のくさいにおいがしなくなる……程度しか、普通は考えないと思うんだけど。
ジェナ様の場合は、王太子殿下を『浄化』すれば、ジェナ様が王太子殿下の婚約者になれるかもっていう欲があったはず。
王太子殿下を消す必要なんかはない。
事故……のようなものなのだろうか?
事故と判断されれば情状酌量の余地はある……?
王妃様か、側妃様か、ジェナ様か、わたしかに、何らかの沙汰があるとしても……。それほどひどいことにはならない?
希望的観測だろうか?
判断するのは国王陛下だろうか?
分からないことばかりだけど、わたしは聞かれたとおりに素直に答えるしかない。
そうして、事実の部分もわたしの推測の部分も、だいたい話し終えたかなと思ったとき。
わたしの話を記録用紙に書き続けていたラデク・エイマン様が、片手を上げて質問してきた。
「あの、イマサラですみませんが、オズウェストリー伯爵令嬢の『消臭』とジェナ嬢の『浄化』は、具体的にどのくらい、どういった違いがあるのかも、改めて確認しておきたいのですが」
あ……、そうか。もうとっくにご存じだというつもりで話してしまったけど。
常に使っているわたしとは違って、ラデク・エイマン様たちにとっては、初めて聞くギフトなのかもしれない。
前世やギフトの名前からして、なんとなくこういう感じのモノ……というのは想像できても、きちんと聞いて、正確に記録することも必要なのだろう。
「ええと。わたしの前世は『消臭機能付き空気清浄機』なんです」
「は?」
「へ?」
お二人の目が点になった。洗礼のときのお父様やお兄様たちと同じような感じ。空気清浄機ってモノは、こちらの世界にないしねぇ。
「ええとですね。においや花粉のようなものを空気中から除いてきれいにする道具……と思っていただければ」
「消臭は分かります。においを消すことですよね?」
「はい。実際に何かのにおいを消してみましょうか?」
と言っても、隔離されているだけの客間ににおうものなんて……、あ、紅茶のにおいを消してみせればいいかな? でも半分以上飲んでしまったので、かすかな香りしか残っていない。
考えていたら、ラデク・エイマン様が、右手をシュっと上げた。
「あ、はい! オレ、足がくさいです!」
「おい、ラデク……」
「水虫とかじゃないから、ご安心ください! でも、革靴を脱げば、靴下がにおいます! 家族と同居していたときは、足を洗ってから家に帰ってこいと、毎日のように母親とか妹に叱られました!」
「そ、そんなにくさいのか……」
「めんどくさいと放置していたら、家から追い出されて、今は憲兵宿舎に住んでいますけど! 同室のヤツと、くささ比べをして、オレが勝ちました!」
「そんなにか……」
わあ! そんな臭いなら……消してみたい。空気清浄機としての本能が、わきわきと!
「あの……、では、靴を脱いでいただけますか? わたしの『消臭』ギフトでラデク・エイマン様の足のにおいを消してみせます」




