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前世が「空気清浄機」な消臭令嬢の婚約  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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14/14

第14話 一日履いた靴はにおいますね

ラデク・エイマン様が革靴を脱ぐ。

右足、そして左足。

途端に客間内に臭気が漂う……。


おおおおおー! 王太子殿下ほどのにおいではないけれど、これはこれで、消し甲斐がありそう……!  ちょっとわくわく!


「それでは『消臭』させていただきます! ギフトオン!」


別に言わなくてもいいんだけど、言ったほうが分かりやすいかなと思って、言葉に出してから、消臭する。


あっという間に、消臭完了。


「お、おおおおお! オレの足がにおわなーい!」


クンクンと、犬のように足と靴下のにおいをかぐラデク・エイマン様。

ファーディナンド・ローセンブラード様は「ラデク……、キサマ犬か……」と、呆れ顔になったけど……。

ラデク・エイマン様の瞳はキラッキラに輝いてる。飛び跳ねて喜んで……浮かれているわ。

あはははは……。


「ええと、消臭効果はしばらく続きますけど、足は洗って下さ……」

「オズウェストリー子爵令嬢! すごい! これはすごい! あなたは足臭界の救世主だ! オレと結婚して、一生オレの足のにおいを消してほしいです!」


前のめり気味に、凄い感謝された。


「ラデク! この馬鹿者! オズウェストリー子爵令嬢は、まだ王太子殿下の婚約者でいらっしゃるのだ! 感謝の気持ちを表す表現には留意しろ!」

「えええええー……。感謝もありますけど、マジで求婚したい……」


ファーディナンド・ローセンブラード様がラデク・エイマン様の頭を、すっぱーん! と叩きました!


「任務中に被疑者に求婚するとは何事か―――――――!」

「あ、マズいすね」

「当たり前だ!」

「じゃあ、最大級の感謝で留めます! オズウェストリー子爵令嬢、ありがとうございました‼」


ラデク・エイマン様がきっちり九十度に頭を下げた。


「あ、はい。どういたしまして……」


求婚は、ええと、おいておいて。

消臭して、喜んでもらう! のが、やっぱりわたしのしあわせなのよね……。


「こちらこそありがとうございます、ラデク・エイマン様」

「へ? 感謝するのはオレでは?」

「……王太子殿下は、いくら消臭しても、胡散臭い目でわたしを見るか睨むかだけでしたかから」

「なんで⁉ オズウェストリー子爵令嬢の消臭ギフトはすごいよ! 任務中でなかったらマジで口説きたいよ!」

「……王太子殿下はご自分のくささをご自分では感じられなかったもので」

「え」

「だから、わたしが消臭しているのが分からなくて。でも、王妃様や周囲の皆様は今のラデク・エイマン様のように、わたしの消臭を喜んでくださって」

「そりゃあ、喜ぶでしょ!」

「周囲の皆様が喜んでくだされば下さるほど、王太子殿下はわたしが何らかの詐欺を行って、周囲を騙しているんだと思い込まれて、わたしを睨んできて……」


溜息を吐いてしまう。

王太子殿下がわたしを睨んでこなかったら。

少しでも感謝の心を持って下さったら。


わたしは、いつまでも、空気清浄機の職業意識で、喜んで王太子殿下のくささを消臭し続けたことだろうに……。


「婚約期間、ずっとオズウェストリー子爵令嬢は王太子殿下から詐欺師扱いを受けていたということか?」

「はい……」

「それは、しんどいな……」


ファーディナンド・ローセンブラード様がぼそりと呟いた。ラデク・エイマン様も「王太子殿下ひでー!」と憤慨してくれた。


「あ……、失礼した。こちらの立場では、そのようなことを告げるべきではなかったな。ラデクの浮かれすぎで、うっかり気が緩んだ……」

「いえ……。ありがとうございます」


喜んでもらうこと、理解してもらうこと。

それが、とてつもなく嬉しい。


わたしが望んでいたのはたったこれだけ。

なのに、これだけが……泣きたくなるほどに、嬉しい。


「あ……、それで、わたしの『消臭』は、今、そこにあるにおいを消すだけなのです。消臭効果は少しの間続きますけど。足のにおいであれば、またそのうち……、十日くらい経てばにおってくるんですけど」

「マジか……」

「ジェナ様の場合、一度『浄化』すれば、二度とにおわない……のではないかと思われます。ええと、それはわたしの想像であって本当は違うかも。でも、根こそぎ消臭できるくらい強力だと思います」

「なるほど? においを消すという点に関しては『浄化』は『消臭』の上位互換という感じなのか……」

「きちんと比較して検証すれば、もっと差異が分かると思います」

「いや、ありがとう。なんとなくイメージがついた」


似たような性能とはいえ、こちらは『空気清浄機』あちらは『聖女』だから。

もっと細かい差がありそう。


「あ、あと。わたしは単なる『空気清浄機』という道具ですけど、ジェナ様は『聖女』ですから。物語でよくあるように、傷を治すとか、魔物を浄化するとか、結界を張るとか、様々なことができるかもしれませんね」


その力で、王太子殿下を『浄化』してしまった。

前世が『魔物』なら、今も継続して『魔物』なのだろうか? 

単に影響があっただけなのだろうか? 

王太子殿下が消えてしまった以上、これ以上のことは分からないけど。


ただ、消えたことが事実。


「とにかく。我々があなたから聞くべきことは聞いたと思う。協力、ありがとう」


事情聴取は終わりということか。


「いいえ。あの、わたしも聞いていいですか?」

「答えられることであれば」

「わたしはいつまでお城にいることになりますか?」


家に帰れるのだろうか。

まだ牢屋には入れられていないけど……、今後わたしは何らかの罪に問われるのだろうか?


ファーディナンド・ローセンブラード様は「申し訳ない。それを答える権限が私たちにはない」と言った。


当然か……。

お二人は、事情を聴取するだけ。

聴取された内容を精査して、どうするかは……また別の人の役目だろう。


「申し訳ない」

「ごめんね……」


二人が軽く頭を下げる。


「いいえ。無理な質問をしてごめんなさい」


ファーディナンド・ローセンブラード様たちからの事情聴取を終えた後、十日ほど、わたしはそのまま客室で過ごした。


そして、その後……オズウェストリー子爵家に帰っていいとの通達があった。


帰れるのは嬉しい。

だけど、どうして?

わたしは、王太子殿下の消失に関して罪はないと……判断されたの?


わたしをオズウェストリー子爵家のタウンハウスまで送ってくれた騎士様たちに尋ねても「答える権限はない」と言われるばかり。

家に着いた後も、何の説明もないまま。

「オズウェストリー子爵家のタウンハウスから外には出ないように」とだけ言い残して、騎士様は帰ってしまった……。




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