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幸せのベリーパイ:結婚の約束をしていた幼馴染が本当の愛を見つけたらしいので、私は夜会で一目惚れした辺境伯と偽装婚約をします  作者: 響 優香
第一章

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第三話 楽しい夜会


(いつもの礼服っていうのも味気ないよなぁ)


夜会に着ていく服を選んでいたレントは、何度か袖を通した礼服をいくつか並べたが、ピンとくるものがなかった。


(そうだ! シャルティナに袖口の刺繍を頼むか。ちょっと夜会まで日はないが、徹夜でやれば終わるだろ)


そう思いついたレントは、袋に礼服を入れ、ハイデン邸へと向かう。



コツコツとドアノッカーを叩くと、シャルティナの母が応対した。


「急にすみません、シャルティナはいますか?」


母は袋からはみ出した礼服を見て、すぐに目的を理解する。


「ごめんなさいね。今日は友達の家にお泊りしに行ってるのよ。戻ってきたらレント君が来たって言っておくわね」


とりつく島もなく、「それじゃあ」とすぐに扉が閉められた。


「あ……」


微妙な違和感を覚えるが、何か取り込み中だったのだろうと、シャルティナがいないなら用はないと自分の家に帰っていった。


母はその様子を窓から覗き見ていた。


(あんなことをしておいて頼み事なんて……本当にどこまでクズなのかしら)


塩でも撒きたい気分だわと思いながら、母はレントが来たことなど、シャルティナに言うつもりはなかった。



夜会の日。

眩ゆいばかりの豪奢なクリスタルガラスのシャンデリアが輝く大広間。

そこへエスメラルダと共に足を踏み入れた瞬間、シャルティナへいくつもの視線が集まった。


(……っ! エスメラルダの言う通り本当に見られてるわ)


一瞬怯みそうになったシャルティナだったが、エスメラルダにそっと小突かれ、ハッとする。

教えられた通り、口元にほんの僅かに笑みを浮かべ、目を少しだけ伏せる。

それだけで、自然体かつ上品な表情を浮かべられた。


『あの美しい令嬢は……?』

『確か……ハイデン家のシャルティナ嬢だと思う。以前お見かけした時はあまり目立たない令嬢だったが……』

『あの美しいエスメラルダ様の隣にいても引けを取らないな』


そこにはレントたちの言う「地味で」「冴えない」令嬢はどこにもいない。

光沢のある落ち着いた金の髪に、ドレスに映えるサファイアのような瞳。

深いダークネイビーのドレスが白磁のような肌を引き立てている。


まずは場に飲まれないよう、エスメラルダと話していると、知らない男性が話しかけてくる。

どうやら、エスメラルダの知り合いのようだ。


「エスメラルダ様、美しい花をご自分だけで独り占めですか?」


「ふふ。今日のわたくしはこの子のお目付け役ですわ」


「怖い怖い。シャルティナ様へダンスのお誘いをしても?」


「ええ、あなたなら安心ね。楽しい思い出を作ってあげて頂戴」


紳士的な男性にダンスを誘われ、ドキドキと緊張しているシャルティナはそっと伸ばされた手を取った。

踊り始めると、この男性のリードが上手いのか、練習の時よりもずっと踊りやすかった。


「エスメラルダ様の知り合いで、今日ほど良かったと思ったことはありません。こんなに美しい方のファーストダンスを踊る栄誉を頂けるとは」


「そんな……」


褒められ慣れていないシャルティナは、過分に思える称賛に頬を染める。


「エスメラルダ様を大輪の薔薇だとすると、あなたはアネモネの花のようだ。上品で美しく、そして可愛らしい」


なかなか顔の熱は収まらなかったが、会場にある美味しいメニューやそれに使われている果物の領地、庭園の話題など、切れ目ない会話に、シャルティナは初めて夜会を、そしてダンスを楽しいと思えた。


そしてダンスが終わり、離れ際に男性が囁いた。


「花を手折ろうとする無粋な輩もおります。エスメラルダ様から離れませんよう」


流れるようなエスコートでエスメラルダの隣にシャルティナを送り、穏やかな笑みを残し去っていった。


「あの方とのダンスはどうだったかしら?」


「ええ、とても楽しかったわ。ありがとう、エスメラルダ」


「それなら良かったわ。でも、あの方に本気になっちゃ駄目よ? 良い人ではあるけど、悪い男だから」


「なあに、それ?」


口に手を添え、クスクスと笑うシャルティナ。

その可愛らしい仕草に、フラフラと男たちが引き寄せられる。


『ハイデン嬢、ぜひ私ともダンスを……』

『あちらのテラスで話しませんか?』

『我が領で採れたフルーツを使ったカクテルを用意しています。是非あちらで召し上がってみてください』


次々と、着飾った貴族の男性たちがシャルティナへ話しかけてくる。

シャルティナは戸惑いながらも、エスメラルダに教えられた淑女の微笑みを絶やさず、時にはダンスを踊り、楽しく会話した。


けれど、次第に楽しさより疲労が勝ってくる。

エスメラルダを見ると、他の令息と話していて、どうやら盛り上がっているようだった。

邪魔をしないよう、休憩をするために、一人庭園へと出た。

あまり夜会に慣れていないシャルティナは、人酔いした時や雰囲気に馴染めず気分を変えたい時、こうして庭園の隅で静かに休憩していた。


冷たい空気が火照った頬を撫で、身体がスッキリする。

ファーストダンスを踊った男性が言った通り、庭園にはアネモネの花が植えられていて、月光を浴びて静かに花弁を閉じていた。


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