第二十一話 掘り出し物
「んっ、確かにこれは美味しいですね」
ナターシャが昼食を選んで戻ってきてすぐ、シャルティナはナターシャにドライフルーツを食べさせた。
シャルティナの勢いに気圧されながらも、もぐもぐと噛んでいくと今まで食べたことのないほど濃厚な果実の甘みと香りが立つ。
これにはナターシャも驚き、「買い占めてはどうか?」と提案するほどだった。
「でも、折角こんなに美味しいんだもの。たくさんの人に食べてみてほしいわ」
「だが実際あまり売れてないから、買わない分は売れ残ってしまうと思うが。うちで買い上げて配ってもいいが……」
「配る……。それ、いいですね! 興味のありそうなお客さんに一粒食べてもらったら、きっと売れると思います!」
自分もナターシャも一口食べて買い占めたくなったほどだ。
他の客だって食べてみればこの美味しさに夢中になるはずだと、シャルティナはシュヴァルにそのお店へと案内してもらう。
「いらっしゃい! おお、領主様。先ほどはありがとうございました」
「ああ。婚約者と侍女がいたく気に入ってな。在庫の半分程を貰っても良いだろうか?」
「へえ! 半分も買って下さるんですかい!? んでは、市が終わったら届けさせてもらいます!」
商人は一袋買って貰っただけでも——それも領主に——ありがたいと思っていた商人は、在庫の半分も求められ、喜んで取引を受けた。
「こんなに美味しいものが売れ残っているなんて駄目です! 商人さん、この商品一粒だけでいいので、ここに寄った人全員に食べさせてみてください! 本当に、本当に美味しいから絶対みんな買って帰ると思います!!」
商人は自分の選んだ商品を熱く推してくれるシュヴァルの連れを見て、嬉しそうに笑った。
「ははは。あなたが気に入ってくれたという婚約者様ですか? ありがとうございます。確かに食べてみなければこの商品の良さは伝わらないですね。お嬢さんに教えてもらうなんて、俺もまだまだ半人前だと言われるわけだ」
彼は、この商隊の中でも若く、初めて店番を任されたと話してくれた。
シャルティナの案に従って客に食べさせてみるとも。
ぜひまた持ってきてほしいと頼み、三人はまた他の店も覗いてみることにした。
「わ、可愛いお皿!」
縁に赤と紫のベリーが描かれた白い皿を見て、シャルティナが声を上げる。
ナターシャが近づき、その皿を持ち上げる。
「ベリーの絵が描いてありますね。ベリーパイを焼いた時に使ってはどうですか?」
「おい、さりげなく自分の食べたいものに誘導してないか?」
「あらあら。お肉柄の皿はないようですね。とっても残念です」
最初は二人が言い合いをしているのかとシャルティナはハラハラしていたが、最近はいつものことだと流せるようになった。
どっちのパイも順番に焼けばいいのだと、シャルティナは学習していた。
しかし、次に作るのは、たくさん買ったドライフルーツをふんだんに使ったパウンドケーキだと決めている。
二人が気に入ってくれるかわからないけど、きっと美味しいケーキが作れるはずだ。
「それじゃあそろそろ帰って、おやつを作りましょうか」
「それは良いですね! 美味しそうな茶葉も買ったので、出来上がったらお茶にしましょう」
たっぷりと楽しんだシャルティナは、絶対にまた来ようと心に誓い、市を後にした。
「それじゃあ私は厨房に行ってきますね!」
「ああ、また後で」
帰宅したシャルティナはシュヴァルからドライフルーツを受け取り、厨房に早足で向かっていった。
残った二人はその背を見送る。
「……調子を取り戻したみたいだな」
「ええ。きっと、嫌なことはもうすっかり忘れてると思いますよ」
レントの襲撃直後は、恐怖と混乱でシャルティナの元気がなくなっていた。
一生懸命いつも通りを装っていたが、いつものような花がほころぶような笑顔はなく、どことなく陰りを背負っていた。
食事も完食したもののペースは遅く、少し無理に詰め込んでいるようにも見えた。
けれど、今日三人で市を見て回り、綺麗なものや美味しいもの、可愛いものを見つけ、本当に楽しそうにしていた。
もうシュヴァルもナターシャも、シャルティナが元気じゃないと心が落ち着かない。
花開いたような笑顔を見て、二人はようやく心を落ち着けることができた。
「まったく……あのゴミは何を考えてシャルティナ様に近づいたんでしょう」
意味のわからないことをシャルティナに言ったのを少し聞いただけで、詳しい事情も聞かず連行させたので、レントが何を思って近づいたのかは、まだわかっていない。
「本当にな。数日たてば報告を聞けるだろう。その内容によってイージス家に正式な抗議をしようと思っている」
ナターシャは腕を組み、嫌悪の表情をまるで隠すことすらしない。
「それがよろしいかと。それにしても、あの愚か者たちはゴミがゴミ同士くっついて、シャルティナ様を手放したことだけは褒められる部分だというのに、今更執着するなど許されませんわ」
「ひとまず報告を待とう。シャルティナには、聞かれるまでは伏せておこう。忘れているならその方がいい」
その言葉にナターシャは頷き、同意を示した。
「さて、気分を切り替えて茶の準備でもしていよう。シャルティナが張り切っていたから、今日の甘味も美味いだろう」
「そうですね! 何が出てくるのか楽しみです」
二人は表情を和らげ、きっとあのドライフルーツを使った何かを作っているのだろうと想像しながら、厨房へと向かった。




