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幸せのベリーパイ:結婚の約束をしていた幼馴染が本当の愛を見つけたらしいので、私は一目惚れした辺境伯と幸せになります  作者: 響 優香
幕間

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10/12

幕間 後半


あの時は偽装結婚を申し込むのが、一番良い方法だと思っていた。


エスメラルダによれば、シャルティナの中での私の評価は”素敵な人”だと、それは悪くなかったが、婚約や結婚の打診をするのには躊躇してしまう。

結婚の約束をしていた相手から裏切られたばかりだとも聞いた。

その傷が癒える前に、結婚を申し出るのは、デリカシーに欠けるのではないかと。


けれど、あの夜会での注目を考えれば、時間が経つごとに申し込みが殺到するだろう。

それも、辺境伯である私のように、爵位が上の者からの申し出は断りにくいはずだ。


それに”素敵な人”程度では、隠せないほどのマイナスもある。

最北端の辺境に嫁ぐことや、過去の婚約者と上手く行かなかった事実。

自分は彼女が傍にいてくれるだけで、きっと幸せだろうと思う。

だが、彼女の方は?

何かを求められても応えられないのではないかという不安。


囲って自分の手の内に入れてしまいたい。

けれど、無理はしてほしくない。

それならば、最初から条件を提示して、考えてもらえばいいのでは? と、思いついたのがそのどちらも可能な”偽装結婚”だったのだ。

それなら辺境行きに抵抗があれば断りやすいだろうし、爵位の高い者からの圧力をあまり感じずにすむのではないかと。


エスメラルダにそれを話してみると「そんなまどろっこしいことをしなくたっていいと思うけど」などと言われてしまったが、この方が十分納得してから選んでくれるだろう。



そして顔合わせ当日。

夜会の美しい濃紺のドレスのイメージとはまた違った、可愛らしい薄青のデイドレスを纏った彼女は、見た瞬間妖精かと思ったほどだった。

あの時ほど自分の表情筋が器用でなくて良かったと思ったことはない。


父たちが盛り上がり部屋を移動してしまったため、すぐに二人きりになってしまった。

何を話そうかと考えていると、助けた礼だと、綺麗な刺繍をしたハンカチを贈られた。

ニヤついてしまいそうな顔を引き締めるのに必死でいると、つい説教臭いことを口にしてしまう。

失言かと思いヒヤリとしたが、彼女は気にすることなく「友人にも叱られて反省している」と苦笑していた。


危うくその場で「結婚してくれ」と言いそうになるのを堪え、”偽装結婚”の申し出をすると、少し考えてから一つ条件をつけただけで彼女は快諾した。


これで自分のものになったと、小躍りしたい気持ちを押し殺し、これで終わらせてはいけないと気を引き締める。

利害のある家族に——名目上の妻となる承諾は得た。

辺境という僻地で誠意を見せ、共に時間を過ごし、愛し愛される関係になりたいと思う。


伝達用にと魔法で小鳥を作ると、彼女の目がキラキラと輝いた。

この、自分にとって思い入れの強い魔法を気に入ってくれたようで、とても嬉しかった。


子供の頃飼っていた鳥の”キュラス”に友達を作りたくて、必死で作り上げた小鳥の”ルリ”だ。

最初はぎこちなく、キュラスに見向きもされなかった。

だが、少しずつキュラスに似た動きができるようになると、ルリに羽繕いをしたり囀ったりするようになったのだ。


それにしても、妖精のように可愛い彼女が瑠璃色の小鳥を肩に乗せ微笑んでいるのを見ると、ここが天国かと勘違いしそうになるほどの神々しい光景だった。


自分の思い出が彼女と寄り添っているような気がして、胸が温かく、口元はきっと緩んでしまっていただろう。


彼女の見ていないところでルリに小指の爪ほどもない、小さな魔石を食べさせる。

これで自分の手を離れても、数ヶ月は消えたりしないはずだ。

きっと突然いなくなったら、彼女は悲しむと思うから。


アスガルド邸に彼女がやってきた時、ルリが消えずにちゃんと動いていて安心した。

ルリは室内を自由に飛び回るようにイメージして作ってはいたものの、多分、鳴く機能はつけていなかったはずなのだが……?

子供の頃よりも魔力量や質が上がったからそうなったのかわからないが、ルリが自分に向かって何かを主張するように鳴いたことにはかなり驚いてしまった。

そして何より、その時のクスクスと笑う彼女の笑顔を、一層愛おしく感じた。



領地にやってきた彼女は使用人たちともうまくやっているようだった。

主に似たのか、普段あまり感情を表に出さないナターシャの表情が、彼女といると随分動く。

それを指摘すると「シュヴァル様にだけは言われたくないです」と、表情を変えずに言われた。

パイを取り合ってから遠慮がなくなった気がするが、これは良い変化なのだろうか……?


決まりきった毎日、刺激のない平穏。

時たま魔物を屠っては休息する日々。

そんな停滞した空気に満ちていた我が邸の時が、少しずつ動き始めている。

彼女に影響され、彼女に影響を与え、車の両輪のように、けれどゆっくりと幸福に満たされていく。


婚約者の時点でこれなのだから、結婚したらどうなってしまうんだろうか。

それを想像もつかないような幸福に変えるのは、自分がどれだけ彼女に愛を注げるかで決まってくる気がする。


今の幸せを壊さないように、そして新しい幸せを育むように、私はシャルティナと共に人生を歩みたいと思っている。


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